表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女ちゃんの仰せの儘に!  作者: 越谷さん
【第1章】魔女ちゃんの日常

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/17

【第17話】魔女ちゃんの林間学校④

 夜明けまで残り一時間を過ぎた頃。半月が帰り支度を始める空の下で、大我は中位悪魔であるチェーンソー男との死闘を繰り広げていた。

 大型のチェーンソーを両手で振り回す合間を縫って、大我はチェーンソー男の懐に潜る。右の拳に魔力の空気を纏わせて、全身真っ黒の鳩尾にストレートを決めた。チェーンソー男の足は一瞬よろめくも、すぐに立ち直ってチェーンソーを抱える腕で大我を薙ぎ払う。

「ぐっ!」

 体勢を崩されて、大我の足が後退る。慌てて瞳を正面に戻すと、夜の闇と同化したチェーンソーが自身の脳天に目掛けて振り落とされていた。

「うおっ!」

 死の文字が脳裏に浮かび、大我は転がるようにチェーンソーを回避する。地面を削るチェーンソーの刃は、無音にも関わらず妙に耳障りな気がしていた。

 ――くそっ……手応えはあるが、なかなか倒せねぇ。

 先程の大我のパンチも、決してダメージが通っていない訳ではないらしい。しかし今まで相手してきた下位悪魔のように、光の粒子となって浄化する様子は一切見られない。

 ――どうやったらあいつを倒せる……!?

 頭を回転させる大我に、チェーンソー男はひたすら糸を引っ張ってチェーンソーの刃を回していた。

「黒島くん……」

 チェーンソー男と戦う大我を、日和は地面に尻を付けて見守る。大我の拳はチェーンソー男に届いているものの、物ともしない様子でチェーンソー男はチェーンソーを回し続ける。刃が大我に迫る度、日和の心臓はきゅっと締め付けられていた。

「お願い月山くん! 黒島くんを助けて!」

 黙って見る事も出来なくなって、日和は隣に立つ御影に応援を頼む。御影は武器を握ったままの両手を後ろで組んで、じっと大我の戦闘を見守っていた。

「このままじゃ黒島くん、いつか本当に」

 その時、御影の左手に握られた拳銃の銃口は、日和の眉間に向けられた。

「!」

 あの日を彷彿とさせる殺気に、日和は喉を詰まらせる。逃げ出そうにも日和の足は、地面にべったりとくっついて離れようとしない。

「なにか勘違いしてない? 僕は別に君達の味方になった訳じゃない。君達に相応の実力がないと判断すれば、僕は君を殺すだけだよ」

 確かに悪魔相手に三人で共闘した事で、日和は勘違いしていた。御影は味方ではない。最初からこうして銃口を向けられるような関係性だったのだ。

 御影は狙いを澄まし、指を掛けた引き金を引く。咄嗟に目を瞑った日和だが、日和に銃口から放たれた銃弾は届かない。御影が撃ち抜いたのは、背後からこっそりと迫ってきていた下位悪魔だった。

「まずは信じてみなよ。必死になって戦ってくれてる、君の眷属をさ」

 銃を下ろした御影の言葉に、日和は視線を正面に戻す。チェーンソー男と一人対峙する大我。彼は今他の誰でもない、日和の為に戦っているのだ。今の日和に出来る事は、ただ大我の勝利を信じる事だけだった。

 乱暴に振り回されるチェーンソーを躱し続ける大我。しかし彼も人間だ。昨日からの疲労は蓄積されるもので、躱したその矢先に大我の右足はふらついてしまった。

「!」

 一瞬の隙をチェーンソー男は逃さない。回避不能のチェーンソーが、大我の頭を斬り落とそうと接近する。

 その光景を日和も確とその瞳で見つめていた。

()()()ぇー!」

 瞬間大我の体は、本来では有り得ない挙動で後方に仰け反り、ブリッジの姿勢でチェーンソーの刃を回避した。

「はぁ!?」

 大我の眼前を、黒い刃が横に通過する。大我自身、自分の身に一体なにが起こったのか理解が追いついていなかった。ただ一つ理解できるのは、自分の鼓膜に日和の声が聞こえてきた事。

「天宮! テメェ急になにすんだよ!」

 通常の直立に姿勢を戻して、大我は離れた日和に声を荒げる。

「なにって、危なかったから思わず声が出ちゃったのよ!」

「気を付けろって言ってんだろ! テメェのせいで体がよく分かんねぇ事になってたんだよ!」

「知らないわよ! 私のおかげで避けれたんだからよかったでしょ!?」

 二人の口喧嘩が、夜の雑木林にこだまする。あまりにも聞き馴染んできた言い合いに、思わずこの鬼気迫る状況を忘れてしまいそうだった。

「アッハッハッハッ!」

 口喧嘩に誘発して、日和の隣の御影は腹を抱えて笑い出す。

「はー、君達本当に面白いね」

 御影の目尻にはじわりと涙が滲んでいる。余程二人の言い合いがツボに入ったらしい。一体なにがツボに入ったのか、日和は理解できずにぽかんと見つめていたが。

「悪魔には大体体の中心に弱点がある。その悪魔の場合は恐らく胸の辺りかな。そこに会心の一撃を入れられれば、きっとその悪魔も倒せる筈だよ」

 気が変わったのか、御影は大我にアドバイスを投げる。鋼鉄の様に硬そうな大胸筋こそが、チェーンソー男の弱点だという。

「会心の一撃ったって、一体どうすりゃいいんだよ!」

 先程までの魔力を込めただけの拳では、攻撃は当てられても深いダメージを与える事は出来ない。ただ弱点を突くだけでは勝てない事は、大我も直感的に分かっていた。

「思い出しなよ黒島くん。君の武器は他にもあった筈だよ」

「俺の武器?」

 御影のアドバイスに首を傾げる。大我は眷属になる前から、なった後でさえいつだって自分の身一つで戦ってきた。なにか武器を駆使して戦った覚えは、一度たりともありはしない。

 しかし、ふと思い出して大我は自分の右手に目を落とす。

「もしかして……こいつの事か?」

 人差し指に飾られた銀色の指輪。初めて悪魔に攻撃する事を許してくれたこの破魔の指輪は、確かに武器と呼んで差し支えないだろう。

「天宮! 俺が合図したら『跳べ』って命令しろ!」

「えっ!?」

 不意に名前を呼ばれて、日和は困惑する。

「分かったか!?」

「なに!? どういう事!?」

「いいからお前は俺の言う通りに命令すればいいんだよ!」

 大我の意図は汲めなかったが、日和は「わっ、分かった!」と強く頷く。これではどちらが主人か分からないと、御影は笑いを押し殺していた。

 チェーンソー男の振り回すチェーンソーを、大我は躱していく。巨大なチェーンソーの回避は、躱す事に専念さえすればそう難しくない。その最中で、大我は魔力のコントロールに集中していた。ただ右拳に集めるだけではない。もっと局所的に、人差し指に嵌めた指輪に魔力を集めていく。

 すると指輪から突然、夜の闇を照らす白光が溢れ出した。

「なに!?」

 今まで大我の体を纏っていた優しい光とは違う。思わず視界を塞いでしまいたくなるような眩しい光だ。

 チェーンソー男はチェーンソーを夜空に掲げ、刃で半月を隠す。その瞬間こそ、大我が待ち望んでいた瞬間だった。

「今だ!」

 大我からの合図に、日和は命令する。

()()!」

 地面に振り下ろされたチェーンソーを回避するように、大我は夜空に跳び上がる。命令によって跳び上がった大我の体は、2メートルを超えるチェーンソー男の遥か頭上にまで浮かんでいた。

 大我は指輪が眩く光る右手を強く握り締める。チェーンソーは未だ地面に刺さったまま。反撃の恐れはない。今はただこの拳を相手に殴りつけるだけだ。

「うおらぁ!」

 チェーンソー男の胸元に落下するようにして、大我は右ストレートをその胸に決め込んだ。あれだけ屈強だった黒い皮膚が、指輪の光に溶けて剥がれていく。それは間違いなく、大我の会心の一撃だった。

 地面に着地した大我は、チェーンソー男に目を向ける。声の出せないチェーンソー男だが、胸に手を当てるその様子は酷く苦しんでいるようだった。すると徐々に大我の拳を受けた部分から光の粒子が浮かんでいく。光の粒子はやがて全身を包んでいき、数秒後にはチェーンソーも含めて空の彼方に消えていった。

「倒した……」

 跡形もなく居なくなった強敵に、大我は息を吐く。右手の破魔の指輪は、既に光を失っていた。

 その時、東の空からなにやら眩しい光が溢れ出してきた。

「!」

 視界を覆った光に、一同は思わず目を瞑る。しかしその光は決して害ではなく、寧ろどこか温かかった。

「……朝だ」

 それは長かった戦いの終わりを報せる日の出だった。

「朝だよ黒島くん!」

 念願の朝に、日和は地面に崩していた両足を立ち上がらせる。大我は今までの疲労にどっと押し寄せられ、日光に立ち眩みをしていた。

「大丈夫!?」

「大丈夫だ。大丈夫だが……取り敢えず寝させてくれ」

 駆け寄ってきた日和の心配を、大我は軽く受け流す。昨日の朝から一睡もしていないのだ。大我の眠気は最早ピークを通り過ぎていた。

「お疲れ様。実に面白いものを見させてもらったよ」

 拍手の音が聞こえてきて、二人はそちらに目を向ける。手を鳴らしていたのは、両手の武器を片付けた御影だ。

「この夜を明かした君達の実力なら、僕が手を下す必要もなさそうだね」

「じゃあ!」

「うん。これから僕が天宮さんの命を狙う事はないよ」

「やったー!」

 御影の宣言に、日和は両手を上げて喜ぶ。徹夜明けでテンションの蓋が少し外れてしまっているようだ。一方大我は、依然御影に心を許そうとしないままじっと睨んでいた。

「その代わりと言ってはなんだけど、一つ頼まれてくれないかな?」

「はぁ?」

 突然持ち掛けられた話題に、大我は顔を顰める。

「なんで俺がお前の頼み事聞かなきゃなんねぇんだよ」

「別にいいじゃんか。今だって手伝ってあげた訳だし、ここはお互い助け合っていこうよ」

 御影は美形な微笑で、調子のいい台詞を口にする。例え敵対関係になくても彼と仲良くなる事はないと、大我はその微笑に確信していた。

「それで、その頼み事って?」

 頼まれたものには全力で応えると有名な日和が、御影に話の続きを尋ねる。隣の大我は「俺はやんねぇぞ」と不満気だったが。

「そもそも僕はどうしてこの学校に入学したと思う?」

 質問に質問で返され、日和は首を傾げる。

「どうしてって」

「僕はエクソシストだ。ただ高校生活を楽しむ為に入学した訳じゃない。まさかその高校に、まだ力を解放していない同級生の魔女が入学してくるのは予想外だったけどね」

 悪魔が見えなかった頃は気付かなかったが、エクソシストという職業は随分忙しいらしい。きっと通常の高校生活を楽しむ余裕などないのだろう。そんなエクソシストという職業に就く御影が高校に入学した理由とは。

 ヒントを貰っても尚、日和は理解ができずちんぷんかんぷんだ。しかし大我は御影のヒントに察していた。

「まさか……」

 クラスメイトには見せない不敵な笑みが、御影の口元に溢れる。


「そう、この学校にはもう一人魔女が居る。君達には、彼女を殺すのを手伝って欲しいんだ」


「え……?」

 もう一人の魔女。服巻高校に魔法の力を持った人間が、日和の他にも居るという。御影からの衝撃の頼み事に、二人はなにも言えない儘でいた。

 暗闇色だった夜空が、太陽に照らされて白く溶けていく。日の光に当てられて、一同の影は薄く縦に伸ばされていた。



 日が昇ってからしばらくして、現在時刻は午前九時。二日目に入った林間学校の集合時間だ。施設の広間に集合し出した生徒達は、皆寝間着からいつもの制服に衣装チェンジしている。

「日和、アンタ大丈夫なの?」

 丈の短いスカートを靡かせる真琴が、隣の日和にそう声を掛ける。

「昨日の夜に体調不良で一回家に帰ったみたいだけど。つーか私にも一言くらい声掛けろよな」

「ごっ、ごめんね心配掛けて。私は大丈夫だから」

 どうやら日和は昨夜一度家に帰った事になっているようだ。確かにこれなら一晩中部屋に居なかった理由にも説明がつく。

 ――月山くんが先生に言ってくれた……のかな?

 日和が用意したアリバイでは、真琴は騙せても先生までは騙せなかっただろう。日和の詰めの甘さも、御影の計算の内といったところだろうか。用意周到な御影に、日和は静かに感謝していた。

「あー眠ぃ」

 すると聞き慣れた声が二人の耳に聞こえてくる。目を向けると、大我とコレットがこちらに向かって歩いてきていた。

「おはよう」

「黒島、アンタ昨日の夜どこ行ってたんだよ」

「どこに行こうが俺の勝手だろ」

「知らないうちに部屋に戻ってきてたよ」

 夜が明けた後、大我達は各々の部屋に戻っていた。部屋で眠る同室の生徒達は皆夢の中で、戻ってきた大我達には気付かない。そのまま起床時間まで束の間の仮眠を取っていたのだが、その程度では蓄積された睡眠欲は解消されなかった。

「あれ、てか佐藤は?」

 真琴の言葉に周囲を見回してみるが、確かに桂馬の姿がどこにも見当たらない。

「あーなんかあいつなら、髪とかセットしてから行くから先に行っといてだとよ」

「へー」

 確かに記憶に残る桂馬の髪型は、いついかなる時もバッチリとセッティングされている。ノーセットな大我やコレットと違って、桂馬はオシャレに力を入れ込んでいるようだ。

「いやー悪い悪い」

 噂をすれば影。残されたグループメンバーの声に、一同は目を向ける。そしてその目を疑った。

「ちょっとセットに時間掛かっちゃってさー。あっ、このセットにそんな時間掛かんねぇだろって思った? 馬鹿言っちゃあいけねぇぜ。これでも俺は、この髪型に命懸けてんだよ」

 いつものおどけた調子で語る桂馬。その髪型はワックスでバッチリと整えられた、いつもと同じセンター分け。その髪の下には、いつも以上に濃い色をしたクマが目下に深く掘られていた。

「……もしかして、あんま昨日寝れなかった?」

「いや? 快眠だったぜ」

 大我や日和よりも寝不足に見える桂馬に、一同は心配する。そんな心配にも桂馬は気付いておらず、寧ろ「皆からの熱視線が眩しい」と朝からふざけ倒していた。



 二日目の行程は施設内で簡単な工作のレクリエーションを行うだけで終了し、気付けばあっという間に林間学校の幕は下ろされていた。一同は帰りのバスに乗車して、自分達の街へと揺らされる。車窓から見える景色は徐々に見慣れた景色に戻っていき、終わってしまった林間学校への一抹の寂しみが皆の心に芽生えていた。

「そしたら俺、気付いたらケバブになっててさ。少しずつ体を削られては、サンドにされて口の臭そうなおっさんに食われてったんだよ」

「もういいよアンタの見た夢の話は。寧ろそんな悪夢でよく寝れたな」

 隣の席で昨夜見た夢の話を永遠と聞かせてくる桂馬に、真琴が顔を顰める。桂馬はまだ話し足りないのか、夢の続きを見ている様な寝惚けた瞳で話を続けていた。前の席では桂馬の話を聞き流しながら、コレットが次のページを捲っている。

「なぁ日和、やっぱこいつと席変わってくれよ」

 行きのバスと同じ席順に戻そうと、真琴は後ろの席に座る日和に声を掛ける。しかし日和から返事が戻ってこない。

「あれ」

「ん? どうしたの……あら」

 後ろの席を見つめたままの真琴に、桂馬も話を中断して振り返る。そこに映った光景に、桂馬は口角を吊り上げた。

 後ろの席では、大我と日和が肩を寄せ合って心地良さそうに寝息を立てていた。

 昨夜一睡もせずに悪魔と交戦していたのだ。バスの小刻みな振動に揺らされて、眠りに誘われるのも無理はない。そんな二人の事情など、前の席の二人は一切知らないのだが。

「寝てる……」

「随分仲が良い事で。写真撮っちゃおーっと」

 今こそシャッターチャンスだと、桂馬がスマホのカメラを構える。スマホから漏れるシャッター音程度では、二人が目を覚ます事はなかった。

 大我の右手の指輪と日和の左手の絆創膏は、触れてしまいそうな程に距離が縮まっていた。

これにて魔女ちゃんの仰せの儘に!、第1章完結です。


第1章では日和と大我の契約から始まり、二人の日常をメインに書いていきました。物語を展開する前に、二人や周囲の人達との関係性を丁寧に書きたかったので。

少し後を引く終わりとなりましたが、第2章からはバトルがメインになるかと思いますので、楽しみにしていただければ幸いです。


第2章は現在鋭利執筆中です。いつ頃の投稿になるかは分かりませんが、また書き溜めたら投稿を再開します。その時は是非お付き合いください。


ここまで読んでくださりありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ