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神木の精と結界を守る鬼  作者: 貝石箱
第一章 神木の精と結界を守る鬼
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日常② 物置の怪(弐)


「……い、痛い。もぅ!人に向けて物を投げたら危ないじゃないですか!!」


 姿を現したのは、メイド服姿の女性だった。

 姿を現したとはいえ、体全体が透けており、はっきりとは見えない。

 女性の向こうにある壁の方が、はっきりと見えるほどだ。

 目を凝らしたからといって、服が透けて見えるなんて事もない。


「いや、オマエにだけは言われたくねぇーわ!」


 こっちは浮かせた物を散々ぶつけられたのだ。


 このあとハッ!っと我に返ったメイド服女性に平謝りされた。

 なんでも、いつものように部屋の掃除をしていたら、急に睡魔に襲われてそのまま眠ってしまったそうだ。それを知らずに部屋に入って来た私に背中を蹴られて目が覚め、寝ぼけまなこを擦りながら体を起こして、パニックになり、物を浮かせてぶつけてしまったと。


 なぜ、体を起こしたらパニックになるんだ?細部の説明を端折られた気もするが、悪意をもって私を攻撃したのでなければ、まぁいい。


 それでうっかり殺されてしまってはかなわないが……。


 まさか私を油断させておいて、死角から小刀が飛んできてグサリ、なんて事はないよな。一応後方を確認してみる。先程まで宙に浮いていた物は全て床についており、内心少し安心した。


「すこし気になったんだが、いつものように掃除をしていたと言っていたな?一体いつからこの家にいるんだ?」


「そうですねぇ、旦那様が……いえ、聡太様のお爺様の清正様がお若い頃からこの家の掃除をしておりましたから、一体、何十年でしょうか?」


「知らねぇよ!つーか最近まで全く気付かなかったよ!気付く大分前からいた可能性も考えてはいたが、私が生まれる前から居たのかよっ!……ハァハァ」


「……大丈夫ですか?わたくしの存在に気付かなかったのも無理もないと思います。この家で見える人は、当時、清正様おひとりでしたので、他の方がいらした時には驚かせないように気をつけておりました」


 ……そういう事らしい。いきなり物が浮いたり、飛んできたりで、私も興奮していてメイド服女性に対して随分と失礼な物言いをしてしまったと反省した。


 そうしいてる間に、メイド服女性の姿が、先程よりも少し薄くなっている。


 これは一体どういう事なのだ? あっ、もしかして……


「……なぁ、そのうち完全に消えて、いなくなってしまうのか?」


 私の目を真っ直ぐ見て、女性は答える。


「はい。今日、明日という話ではありませんが、近いうちにはきっと……旦那様がお亡くなりになられた時に、わたくしも一緒にいければ良かったのですが……」


 いや、一緒にいけなかった事を責めたりはせんよ。仕方ないと思うし。

 意外と、しおらしい女性だったわ!

 祖父が他界して、もう一年以上が経つ。その間、少しずつ存在が薄くなっていったのだと言う。


 ……一年って長くね?……とか、はよ成仏せいや!……とか、そういうのはやめてあげてほしい……というか、ずっとこの家に住んでて、気付いてあげられなくてゴメン。最近まで私、幽霊とか、そういうのまったく見えなかったんだよ。


 あっ、もうひとつ聞いておかないと……。


「うちの同居人二人とは面識あるの?」


「はい。お二人には、わたくしが見えてらっしゃったので、最初から家政婦として接してくれました」


 なるほど……家に来た時に、メイド服姿の女性が、当たり前のように家の中を掃除していたら、二人とも怪しいとは思わないかもしれない。


 後は、もうじき消えそうなくらい存在が薄くなっていたから、幽霊が見え始めて間もない私には見えなかったと。そして、存在を知らなかった状態から、異変に気付き、存在を認識するに至ったから、半透明だけど見えるようになったという事なのだろうか。知らんけど、謎は全て解けたという事にしておこう。


 よし、今日は二人が帰ってきたら同居人会議を開くか。


 いずれは消えるとは言っても、それまでは一緒に住むことになると思う。そうなると同居人である樹里と菜子の意見も聞いておきたい。

 それとメイド服女性にも……


「なぁ、今晩、同居人会議を開くんだが、それに参加してくれないか?」


「わたくしのようなものが同席するなど……」


「是非、参加してほしい」


「……承知致しました」


 件の当事者である家政婦さん?……も、会議に出席してくれることが決まり、兼ねてから予定していた物置部屋の整理が再開された。






――その夜。


「えー、これから同居人会議を開きたいと思います……パチパチ。では、まずこの方が誰だかわかる人ー?」


 開会を宣言し、家政婦さんを指す。


「……メイドじゃろ?」

「サーさんやんな?」


「えー、この方は長年うちで掃除をしてくれている家政婦さんです。ハイ、菜子さん!サーさんとは?」


「サーさんはサーさんやんな?」


 いやいや……菜子さん、それ、答えになってないから。


「あのぅ、以前わたくし、菜子様に名前を聞かれた時に、どうしても思い出せなくて「サ、サ、サ……」と頭文字を繰り返したことがありまして……その後も何度も思い出そうとしたのですが、長い間名前を呼ばれることが無かったもので、申し訳ありません」


 なるほど、それでサーさんか。そして家政婦さん、そんなに申し訳がらないでほしい。私の祖父が呼ぶ時に「オイ」とか「オマエ」としか呼ばなかったのだろう事は容易に想像がつく。


「家政婦さんの名前はさておき、本日、会議を開いた理由は、もうじき消えていなくなってしまう家政婦さんを、それまでの間どう過ごしてもらうべきか、そして本人はどうしたいか聞く為なんだが……」


「……と言われても、今までと何も変わらんのじゃが」

「ウチも、聡太に見えるようなっても結局一緒やんな?最後のその日まで今まで通り、おってもろうてええんちゃう?」


 だろうね。二人とも、日に日に存在の薄くなっていく家政婦さんを見て、過ごして来たのだろうし。


「わたくしは、ただ、このまま消えゆくものだと思っておりましたので……」


 消えゆくものと、それを見守る二人。

 私以外は、既にそれを受け入れているようだった。

 だとしても、ただ消えるなんて悲しすぎる。


「最後に何かやっておきたい事とか、ないか?」


「掃除……ですかね?」


 そう言って家政婦さんは少しはにかんで見せた。


 あんたは、いつも掃除はしているだろう!そうじゃなくって……

 私たちに出来ることなど、もう何もないという事なのだろうか。


「……それやったら、ウチにええ考えがあるんやけど、聡太がサーさんに名前つけたらええんちゃう?」


 は?……菜子さん、なんで名前??別に家政婦さんって呼べば良いと思うよ?


「……聡太が名付けるのなら安心じゃ!」


 樹里さん、安心って何が??


 二人とも何言ってんの!? 今、家政婦さんが最後にやりたい事の話だったよね?家政婦さんの名前の話に戻さないでくれるかな?

 なんだが私が名前を付ける流れになっているが、流石に本人が嫌だと言えば、この話はここで終わりなのだが……家政婦さんはキラキラとした目でこちらを見ていた。


 え!?……いいの?付けちゃうよ?名前どんなのになっても知らないよ?


 とはいえ、真剣に考えようと思う。キラキラネームは呼ばれる側だけでなく、呼ぶ側も恥ずかしいと言う罠なのだ。


「ウチの時みたいに良い名前頼むで!」


 菜子さん、何気にハードル上げないでほしい。確かに菜子は良い名前だと思うけど……人生の中で、こんなに女子の名前を付ける機会があるものなのだろうか。

 まぁ、父親にでもなればあるかもしれないが、今の状況みたいに突然振られて付けるのとは違うと思うんだ。


 うーん……でてこない。ペットに付けたら良さそうな名前はいくつか浮かんだのだが、さすがに駄目だよな。

 まずは、せっかく思い出したのだし、頭文字の『サ』はそのまま使おう。サ、サ、サダ、サ〇コは……テレビ画面から髪の長い女性が這い出てくる『輪』を横文字にした某有名ホラー映画を思い出すからやめておこう。


 それならば……


「『サワコ』でどうだ?……スマン、やっぱりもう一度考え直す」


 考え直すとは言ったが、本人は「そう言えば、以前そのような名前で呼ばれていたような……」と、まんざらでもない様子だった。

 家政婦さんの生きていた昭和初期かそれ以前には、普通によくあった名前なのかもしれない。


 家政婦さんの名前は、そのままサワコさんに決定した。


 その直後、サワコさんの存在が少し濃くなった気がしたのだが、まぁ気のせいだろう。

 サワコさんには今まで通り自由に過ごしてもらうという事で会議は終了した。




 会議が終わった後、私は部屋で一人、考え事をしていた。

 世の中には、普通の人達には見えないモノが同時にたくさん存在していて、中には不思議な力を持つ者だっている。

 樹里や菜子のような存在もそうだし、サワコさんの物を浮かせる力もその一つだ。


 ある日を境に平穏だった私の生活は一変した。

 いや、退屈だったと言うべきか。

 樹里や菜子と出会って良かった思っているし後悔もしていない。


 ただ、毎日のように危険な目に遭えば、何も見えなかった頃の方が幸せだったのかもと考えることもある。戻りたいとは思わないが……。

 もし、それが日常になるのだとしたら、私はこの先ずっと、守られ続けるだけで良いのだろうか。

 見えるだけの、ただの人間が彼女達と共に戦えるとは思えないが、稀に千影さんのような特別な力を持つ人間もいるにはいる。


 私にも千影さんのような力があれば、あるいは……

 本当は、この時の私は既に気付いていたのだと思う。


 遅かれ早かれ、いずれ千影さんの元を訪ねることになるのだろうという事に……。




続編をスタートするには良い流れなのかもしれませんが、書きかけた話もあるので、もう少しだけ日常編続けますm(__)m

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