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神木の精と結界を守る鬼  作者: 貝石箱
第一章 神木の精と結界を守る鬼
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日常① 休日の買い物と『土用の丑』参

なんだか、お腹が空きましたね…………いや、眠いのか?…………どっちだ!?


――だが、おかげでようやく思い出せた。



 歴史の教科書に出てくるような人物と私のご先祖様であるところの『文太』が学友であったとか、眉唾物のような話ばかりで、全く信じていなかったのだが、その書物の中で『山の女神』と称された樹里も実在したのだ。今では概ね真実だと思っている。


 その文太の書物によると、この半牛魚は『土用の丑』という妖怪らしい。



 これは文太が全国を旅している時に、偶然再会した源内から聞いた話である。

 源内というのは歴史の教科書に登場する『平賀源内』であり、文太とは江戸で『本草学(ほんぞうがく)』を学んでいたときの学友であるらしい。

 それで、その話の内容というのが、ある日、源内の知り合いの鰻屋が、夏に売れない鰻を何とか売ることが出来ないかと源内に相談したところ、源内は「本日丑の日」と書いて店先に張るように進言した。すると、その鰻屋は大繁盛。その後、他の鰻屋もそれを真似て、『土用の丑』の日に鰻を食べる風習が定着したという。

 この話がここで終わればただの自慢話であるのだが、その後、土用の丑の日に鰻を持って歩いていると、化け物に襲われて鰻を奪われるという事件が相次いだ。襲われた人の証言によると、化け物は通常の数倍もある牛の体に鰻のヒレがあったという。


 その時の化け物は源内によって対処されたのだが、その化け物は毎年、土用の丑の日になると現れ、人々から鰻を奪い去っていくらしい。


 きっと、『夏場は鮮度が落ちやすく鰻が売れない』という、それまでの常識を覆した事による弊害が、こういう形で現れたという事なのだろう。




「おーい菜子ー、ソイツの正体が分かったぞ!毎年この時期になると、高級な鰻を手にした人の前に現れては襲うといわれてる妖怪。その名も『土用の丑』だそうだ」


 なんか、急にアホらしくなってきた。

 なんだ、そのふざけた名前の妖怪は……

 もっとも、今の状況をなんとかしなければ、そのふざけたやつにやられてしまうわけだが……


 え!?高級鰻を諦めれば、助かるだろうって?……バカヤロウ!!

 こんな半牛魚なんぞに、樹里と菜子の高級鰻を差し出せるか!!

 後、私の高級鰻に至っては論外だ!!!


 って、そうしている間に菜子がピンチじゃねぇか!


「菜子ー!こっちだ!」


 菜子から投げ寄越された高級鰻をキャッチすると、菜子をあと一歩のところまで追いつめていた『土用の丑』とやらは、あっさりとこちらへと標的を変更する。


 これで暫くは時間が稼げるだろうが、完全に危機が去ったわけではない。


 この『土用の丑』をなんとかせねば……


 ……だが、どうする?



「なぁ、菜子。コイツの突進、オマエの鬼の力で何とかならないのか?」


「せやな、これだけの質量だと、受け止めるんにしても、跳ね飛ばされて終いやろな。聡太の方こそ、コイツの正体が分かったなら対処法も分かったんちゃうんか?」


「ああ、それに関する記述はなかったな」


 文太の書物には『妖怪 土用の丑』の弱点や倒し方について一切書かれておらず、『源内が対処した』とあるが、対処法についての記載もない。

 更には『毎年現れる』とある事から、倒せるようなモノではないのかもしれない。


 しかし、源内はこんな奴を一体どう対処したっていうんだ?

 まさか、土用の丑が諦めてくれるまで、今の私達がやってるみたいに鰻のキャッチボールをしたというわけではないよな?


 仮に諦めてくれるとして、それは何時?土用の丑の日の終わる深夜0時か?


 現在、時刻はお昼をちょっと過ぎたくらいだ……って、バカヤロウ!!そんなに続けられるわけないだろう!


 もう、その辺の石でも拾って投げつけてみるか?もしかしたらあの時みたいな凄い力が…………うん、出せる気しねぇーわ。


 結局、あの力が何だったのか、わからないままだ。

 私自身が夢だと認識していた事と何か関係ありそうだが、実際、あの時の私がどのような状態だったのか、それすらもよくわからない。


 私に攻撃手段が無い以上、やはり……



「おーい、菜子ー!鬼ってどういった攻撃が出来るんだ?後はオマエの得意技とか必殺技とか、何か役に立ちそうなのがあれば教えてほしいんだが!」


「ウチが今一得意なのは、結界作る事やな。せやっ!結界作ってそこから聡太を排除すれば、聡太だけでも逃げ――」


「――却下だ!!オマエを囮にして私だけ逃げるなど出来るわけないだろう!それより他に必殺技とか何か技はないのか?」


「せやな、必殺技……んっと……相手の心臓を一突きで倒す『鬼の爪』っちゅう技があるらしいなァ……」


「それが使えるのか?」


「……」


 菜子さーん、返事はーー??


 どうやら期待してはダメなやつらしい。




 そして、策のないまま時間が流れ……


「菜子ー、次はカットボール、スライダー、縦カーブの順で投げるからなー!」


 数十回と、高級鰻のキャッチボールが繰り返され、私達のバッテリーは随分と上達していた。


……っと、私の変化球がすっぽ抜け、菜子はそれをとろうとバランスを崩すと、そのまま転んでしまった。

 地面に顔面をぶつけながらも死守した高級鰻は無事なようだ。

 その際、スカートがめくれ上がりパン………いや、なんでもない。


「菜子!大丈夫か!!」


 菜子の元へ駆けつけ、高級鰻を受け取った時には、既に牛は目の前まで迫ってきていた。


 そして、目の前にいる菜子を見て思った。マズイ、投げる場所がナイ!……と。



 この時、なぜ牛より先に菜子の元へ駆けつけることが出来たのかとかさ、もう、そんなどうでもいいこと考える余裕がないくらいに追い詰められていたわけだけどさ、


 ……そこへ鬱蒼と現れた正義の味方が、ナ・ナ・ナント!!


「聡太!こっちじゃ!!」


 突然掛けられた声は、遠く、商店街の方角からこちらへと駆けてくる樹里の物だった。

 何で樹里がこんなところにいるんだ?……っと、今はそんな場合じゃないか。


「菜子!行けるか!?」


 菜子は頷き、私から高級鰻の入った袋を受け取ると、それを天高く放った。


 え!?いくらなんでも飛ばし過ぎだろう?


 途中、一つ二つと袋から飛び出した高級鰻は明後日の方角へと飛んで行き、視界からも完全に見失ってしまう。


 そして袋に残った残り一つの高級鰻は、袋に風の抵抗をふんだんに受けて飛び、樹里のはるか頭上を越えようかという辺りで、樹里が触手のように伸ばした植物の蔦に絡めとられ難を逃れた。


 私と菜子の方へ突進していた牛は、直前で向きを変えると樹里へと向かって行く。


 後は樹里に任せておけば大丈夫だろう。アレでも一応は女神だからな。


 樹里はそのまま牛に向かって行き、突進してきた牛と衝突する寸前に、樹里から放たれた体重の乗った良い一撃、もといワンパンによって牛は殴り飛ばされて、彼方へと消えて、空のお星様となった。いや、知らんけど……



 一つとはいえ、なんとか高級鰻を守り切ることが出来た。



「樹里のおかげで助かった、ありがとな。だけど、家で寝ているはずのオマエがナゼこんなところにいるんだ?」


 そうなのだ。これが、危険を察知して真っ直ぐに駆けつけたと言うのであれば、素直に嬉しいのだが、樹里の来た商店街の方角というのが、家とは真逆の方角なのだ。


「儂はただ、お主らが心配で尾行……いや、様子を見に来たのであろう。そっちこそ、イチャイチャ鰻のキャッチボールなんぞしよってからに!」


「べ、べつにイチヤイチャしてねぇし!さっきの牛から鰻を守ってただけだし、見てたならもっと早く助けろや!それに今日の私は、大家として来ているのだからな!」


 菜子と樹里、二人は顔を見合わすと、


「いや、大家は買い物にまで付き合わんやろ」


「……付き合わんな」


 アレッ、お二人は……一体、何を言っているのかな?



その夜は一尾の鰻を三人で分け合って仲良く食べた。


戦い、みんなで守り抜いた鰻だからか、いつも食べている物より数倍美味しく感じられた


……あっ、高級なやつだからか。




 後日、『妖怪 土用の丑』について千影さんに聞いたところ、アレは全国での目撃証言は多数あるものの、遭遇するのは一生に一度あるかないかというモノらしい。

 なるほど、全国を周っているのなら、滅多に遭遇できるモノではないな。



…………と、翌年もまた遭遇する事になるとは、知る由もない聡太達であった。



――おしまい。


話の途中まで書きかけて、約三ヶ月も留守にしてしまいすみませんでしたm(__)m

……って、誰に謝っているんだ??

まぁ、アレだ、独り言だ!

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