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第53話(謀)

 王城の前だというのに、大きな笑い声が響き渡る。


「で、選んだのがソレ! キャハハハハ!」


 大笑いしてくれた後、ふうん、と今度はニマニマと僕を上から下から観察するドゥール。とても、そりゃあとても楽しそうで。


 到着したよケケケケケ、と意地悪な声に疑問を抱きつつ馬車を降りてみれば、まさかの王城前だし。

 まさか僕も中に? と聞けば、当然当然、シシシシ! なんて答えが返ってくるし。


 ちなみに馬車は王城前の兵士に預けてたり。これまたドゥールが、じゃよろしく! とか言って押し付けたのには驚かされた。

 あと、荷物はドゥール曰く『良きに計らわれ』、僕の寝床になっていた棺桶はミノアの実家に送るとのこと。

 兵士も兵士で、一般少年の姿をしたドゥールに向けて、使命感溢れる顔してきっちり頭を下げてたし。


「むむむ」

「どしたのシアム?」

「ドゥールって偉いんだなあ、ってさ」

「今更何悩んじゃってんの。オレとっても偉いエルフだよ?」


 白い壁に蒼い屋根。横に広くて奥行きもある巨大な城は、中に入ったら出られなくなりそうで怖い。

 城を囲むようにして流れている水路には、魚影が見える……あれ、肉食だったりするのかな? 怖い。

 こっちには巨大な門がない代わりに、外の兵士より数倍強そうな兵士たちが険しい表情で僕らを睨みつけてきました。コレも怖い。


 よくよくドゥールに聞いてみれば、眼前の、結構な年季が入ったこの城は誰でも入れるわけじゃないみたいで、大部分の人にとっては観光の名所とのこと。

 言われてみれば、確かに多くの人が行き交っていて、賑やかだったり。天気もいいし、ね。

 僕にはよく分からないけど、城の壁は結構な魔法にも耐えらる材質らしい。本当に?


「こちらがかの有名な……」


 近づいてくる声に振り向けば、多くの人を引き連れた男性が城を背にしたり顔で歴史を説明してたり。


 しばらく顔をそっちに向けてたけど、いい加減現実に戻ることに。

 …満面の笑顔を浮かべたドゥールを前に、気を取り直して服を確認する。


「ミノアに選んでもらったから、変じゃないと思うけど……どう?」

「髪」

「それは仕方ないって」


 ミノアは少し不満そう。でも、髪の毛なんて自力じゃあどうしようもないし。

 一方で。


「シアムさ、実は鍛冶じゃなくて没落貴族の六男とかじゃない? シシシシシ、似合ってる似合ってる!」

「ねえドゥール、そのさ、僕…喜んでいいの?」

「当然! ほらほら、遠慮せず喜んで! オレが褒めるだなんて滅多にないし? キャハハハハ!」


 指摘するドゥールは、何一つ変わらない普段の服装。

 当人曰く、これがエルフの正装だから問題ないし? だそうデス。


 絶対嘘だ。


 目元を拭うほど散々笑ってくれたドゥールは、なおも楽しそうに手を持ち上げる。


「じゃあオレ、王様と話してくるからねえ。シアムはミノアと一緒に中入って兵舎で待ってて」

「……へっ?」


 ミノアと、一緒に?


「えっと…ミノアはドゥールについていかないの?」


 で、僕はこの周辺を観光してていいって話じゃないの?


「行かない」

「そ、そう…?」


 フリギアの口ぶりじゃあ、三人は一緒でなにやら怪しげな任務をこなしてたようだし、てっきり報告も三人でやるものとばかり。

 関心なさそうに呟くミノアを見て、ドゥールは笑いながら首を振る。


「ミノア恥ずかしがり屋だから、王様の前にいるといつの間にかいなくなるんだよねえ。コレ毎回探すの大変で」

「ちょ、い、いなくなる、の? っていうか、ソレ、恥ずかしがりとか関係ないんじゃ…」


 王様の面前で? いなくなる?

 話題のミノアは今、鉄壁の無表情で僕を見上げている。

 全く表情が動かないから、ドゥールの言ってることが本当かなんて読み取れない。


「そ。今回の重大な重大な任務もらった時も行方不明になってねえ。結局、料理場でお菓子食べてたんだけど」

「美味しかった」


 ミノアが言えば、ドゥールも大きく頷いてみせる。


「確かに美味しかったねえ!」

「結局ドゥールも食べたんだ」

「美味しそうだったから、つい。食べなきゃ損だし?」


 悪びれることなく言い切り、エルフの少年は笑いながら手を振る。


「フリギアは先行ってるから、オレは一緒に王様に報告してくるねえ。長話終わったら兵舎に迎えに行くから、ミノアと一緒に大人しく待っててね」

「え? うん…」


 本当にこのお城の中に入らないといけないの? 本当に?

 中途半端に頷いたんだけど、ドゥールは特に気にした様子もなく、そのままミノアへと顔を向ける。


「じゃあミノア、シアムのお守り頼んだよ」

「うん」


 決意を秘めた顔で頷くミノア。なんで?


「逆じゃない?」

「シアムさ、一応ココ、なんか順列とかにウルサイ城、なんだよ。だから貴族であるミノアに失礼しちゃだめ、ってことね」

「…そういえば、そういう場所だっけ…それでミノアはお貴族様で……うん」


 つまり僕はただの鍛冶だから、偉い偉いお貴族であるミノアに従わなきゃならない、と。

 なるほどなるほど…


「って、ドゥールがマトモなこと言ってるよ!」

「ひっどいなあ。オレいつもマトモなことしか言ってないじゃん?」

「そうだねドゥール」

「ヒドイよシアム。そんな言い方しなくても!」


 棒読みの僕に対して、およよよ、と泣きまねしてくれる。

 そんな、いつでも楽しそうなドゥールから目を離して、いつでも楽しくなさそうなミノアに目を向ける。


「じゃあ、僕はミノア『様』って呼んだ方がいいのかな? どうなんだろ?」

「シシシシ…って笑いたいところだけど、本当にそうした方がいいと思うよ、オレ」

「やっぱそうなんだ」

「シシシ。ま、後はミノアがどうにでもするから平気平気」

「そう」

「そう! ミノアなら何しても大体許してもらえるし?」

「お城怖い。お貴族様怖い」


 そんなお城に今から行くって? 有り得ないよ!


「緊張しないしない。慣れれば楽しいし?」

「いいよ! 慣れたくないよ…」

「シシシ、そう言わず! じゃお二人サン、頑張ってねえ!」

「……がんばるよ」


 ドゥールは王城の前なのに、礼儀とかそういうものを放り投げた様子で、馴れ馴れしく厳つい顔をした兵士に声をかけている。

 僕らのことを説明しているのか、時折こっちを見ては嫌らしい笑みを浮かべながら。


「ドゥール、何言ってるんだろうね。どうせ碌でもないことだろうけどさ」

「……」


 数分して、最後に僕らに向けて手を振ったドゥールは城内に消えていく。その様子を不思議そうに見やる人たち。

 まあそうだよね。一見したら、ドゥールはただのイジワル少年にしか見えないし。そんな不審な人をあっさり通しちゃってるし。


「……な、中に入りたくないんだけど」

「死ぬ?」


 一方で厳つい兵士たちは僕らを見て、早く中に入れと、こっちはお前に構ってる暇はないんだよ、みたいな目を向けてきて、実に居た堪れない。

 それでも平時と変わらず、何故か杖を構えようとするミノアの手を握って。


 足を一歩前に……出せない。


「…い、行こうか」

「うん」 

「う、うん…」

「行くの?」

「うん。い、行こうね!」

「行かないの?」

「行くよ!」


 結局、ミノアに引っ張られる形で城内に足を踏み入れることになりましたとさ……ぐすん。










※10月2日、粗筋を全面的に変更しました。これによって混乱する方はいないとは思いますが一応までに。

 目を通す気になるかならないかの重要な判断材料が粗筋だというのに、やる気のなさを全面に押し出したような雰囲気を醸し出していたため、さすがにこれは不味いかと思いまして訂正しました。

 とはいえ、こちらの自己満足のような気もしますが、いかがでしょうか? 個人的には粗筋にちらと目を通して、通した後に哂って下されば幸いです。

 尚、性格がねじ曲がってるのは今更なので、お気になさらぬよう。



 追伸。

 数少ない、勇敢な『ここまで一読してしまった』方々へ。

 今更ですが、キーワードに付け加えて欲しいものがあれば、検索するのにコレがあると便利、コレ付けてないと内容詐欺じゃないか? とありましたらよろしくどうぞ。

 『確かにナルホド』とこちらが納得できる理由でありましたら、付け加えますので。

 例:『後書きが暗い、関係ないこと書いてある』、『作者の性格が暗い、後ろ向き、変人』などは速攻却下でございます。

 上記につきましては感想にて思う存分語ってくださいませ。余程の内容でなければ、一日中喜びますので。

 …本当に、喜びますので。

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