第61話(謀)
突然勢いよく頭を下げられる、それもお貴族様に違いないレガートさんに。
これで慌てないはずがない。
少なくとも、僕は慌てた。慌てて首を振って、嫌な音がした。
「あいたっ? え、えっと、別に大したことじゃないですから! ミノアに杖を作ってあげるのは、約束ですし! あてて…」
「杖を作ると言ってくれて……本当に…」
「と、とりあえず落ち着きましょう! ね!」
「そういうことだ。加えて費用は俺持ちだ、全てにおいて問題はない」
こいつが万一不良品を作り上げてもな、と相変わらず絶好調なフリギアに抗議をしようと思ったけど、なんか引っかかる言葉があった…ような?
あれ? なんだろ、何が引っかかったんだろう? ううむ…………まあいいや!
一方、レガートさんは顔を曇らせてフリギアを見上げる。
「フリギア、あの子のためにわざわざ…」
「構わん。ミノアには幾度も助けられたのだ。礼の一つや二つ、個人的にしておかねば俺の気が済まん」
「…本当に、有難う…フリギア……シアム君…」
「レ、レガートさん?」
声を詰まらせて、感激してるらしいレガートさん。今にも泣きそうで、見てる僕がはらはらするほど。
だけど。
「礼は実物を見てからにしておけ。こいつに粗悪品を掴まされるかもしれんのだからな」
「粗悪…って! あのねえフリギア!」
「大丈夫、私はシアム君を信じてるよ。フリギア、君が推薦するぐらいだからね」
「推薦?」
鍛冶の手間賃を省くためじゃないの? そもそも、フリギア、何時僕を推薦したっけ…?
泣き笑いのような顔のレガートさんへ、フリギアは仏頂面を向ける。
いつもの、物理的に刺さりそうな視線を受けてもレガートさんは平然としてる。凄い。
「余計なことを言うな」
「全く、君ときたら…そう分かりづらいことをするから…」
「おい」
それにしても。
普通、魔法師は子供の頃から杖を持たせて慣れさせるものだけど、それがないっぽいミノア。
でもって、杖を作ると言った途端ここまで感謝するレガートさん。
ということは?
ミノア、杖をもてない事情でもあったりする、のかな?
「彼みたいに、損得無しで仲良くしてくれる人なんてそうそういないのだから、もう少し愛想を良くして…」
「…説教されるために来たわけではないが?」
「君のためを思ってだよ、フリギア。だから…」
自分の杖がなくて、貴重そうな杖を持たされるんだよなあ……もしかして、杖の方が耐え切れない?
でも、僕が知る限りそんなことはないし。でも、あるのかも、しれない? ミノアだし、ありそう?
「どゆことだろ…」
「ミノアの家、レガートの家でもあるフォルツァンド家には色々問題があってな。お前には理解出来んから理由は割愛するが」
「む…」
僕の呟きが耳に入ったらしく、フリギアが余計な一言を沿えて答えてくれた。
でも、不満そうな言い方からして、ミノアの家族がわざと杖を持たせてない、みたいな感じだ。
…例えミノアの家に問題があっても、あのミノアに専用の杖がないっていうのはとてつもなく勿体無いし。
よし! ここは僕が張り切ってミノアの杖作ってあげよう!
で。
「あのさフリギア」
「なんだ」
「ミノアにお礼するんでしょ? ならフリギア、僕には? 僕にお礼の一つや二つ、ないの?」
「………」
当然の疑問に、動きを止めるフリギア。別に僕、おかしなこと言った覚えは無いんだけど。
「……ふふっ」
続いてレガートさんがフリギアを見上げて……小さく噴き出す。
そして、なんでかレガートさんを軽く睨んでから僕へと、不愉快そうな顰め面を向けてくれるフリギア。
「何故お前に礼をせねばならんのだ。お前に助けられた覚えはない」
「お、覚えは無いってなにさ! 息子を託したし、囮になったじゃん! 何度死ぬかと思ったか!」
人でなしなフリギアは、やっぱり人でなしだった。
僕の涙ぐましい努力とか、体を張った、いや、命を張った活躍を一言で切り捨てるぐらいに、人でなしだった。
「その程度か。助けにもならん」
「助けにもって!」
「むしろドラゴンの屍骸をけしかけられ、俺の命令を無視した行動をし、場を混乱させた記憶しかないな」
「………」
…なんか腹立から、本当に遠慮しないよ、フリギア。
後で涙目になって謝ってきても知らないよ?
完成したミノアの杖を見て、僕の実力思い知って謝ってきても遅いんだからね?
「レガートさん! ミノアの杖、絶対にいいの作りますから安心して待っててくださいね!」
「え、ええ」
「フリギア程度、軽く仕留められる位の杖を作りますから! そりゃもう期待しててください!」
「よ、よろしく頼むね」
「はいっ!」
お金に制限なさそうだし、これぐらい広くて交易も盛んな国なら、質が良い鉱石、精霊石があるだろうし!
むしろ溢れてるぐらい? それを、欲望のままに買い漁れる! なんて素晴らしい!
そして、そして完成した杖で、フリギアを圧倒して、謝らせて! 今までの迷惑料もせびって、ついでに新しい鉱石とか、精霊石とか、あと、それに…!
「むっふっふっふ…フリギア、頼むよ? むふふふふ…ぐふ」
「気色悪い笑い方をするな。しかし、本当に単純で羨ましい限りだ」
「そう言ってられるのも今のうちだよ? にひひひひ…」
「…ドゥールの影響か。碌でもないところだけ似てきおって」
フリギアがなんでか呆れ果ててる。ため息まで吐いて。
だからって、もう遠慮しないからね? 覚悟、しといてよ? 後で泣いても知らないからね?
まずは金に糸目つけないって言ったの、後悔させるぐらい色々買い込んでやるからね?
「まあ良い。シアムよ、先も言ったが金の心配はするな」
「うんっ!」
「いい返事だな…存分に腕を振るえ」
「もちろん!」
お金の心配はしなくていい。
なんて素晴らしい言葉なんだろう! 何度聞いても素晴らしい響き。
カネノ、シンパイ、シナクテ、イイ!
…後で聞かなかったとは、絶対に言わせない!
「ミノアのためにも、破壊力抜群の杖を作るから! 辺り一面焦土にさせるぐらい余裕の杖! でへへへへ…」
「途端それか。現金な奴だな」
「ミノアならどんな杖でも平気だろうけど、やっぱり攻撃魔法と相性良さそうだし、それに特化したのがいいだろうなあ…」
ミノア、人を殺す魔法なら何でも使うって言ってたし、実際何度か殺されかかったし。
うんうん、ミノアにはやっぱり攻撃特化の杖だ! むしろそれしかない!
「あ」
「今度はどうした」
「フリギア、あの宝玉。ミノアが使ってた杖の宝玉だよ!」
「杖の、宝玉? それがどうした」
杖、杖といえば、ミノアが誰かから借りてたあの杖!
このナントカ国に着くまで暇だったから、宝玉部を解析してたの思い出した!
「実はアレ解析したんだけど、凄くいい物なのに装備対象が定まってないから、能力が平均的に設定されてたんだよ! あれで平均的だよ? それで補助力があるとか! 本当に驚いてさ!」
「……は?」
「見た目からして相当の年代物だっていうのは分かってたけど、全然理解できない技術が詰め込んであったし! 絶対に高名な魔法師か鍛冶が鍛えた宝玉だよ! 羨ましいよね! あの宝玉作った人の弟子とかいないのかな」
「……シアム?」
「それから、宝玉の加工技術は凄かったよね! 本当に誰が作ったんだろ? 特にさ、精霊石の後付けを想定した、属性の均一化に対する応用力とか、高出力魔法に対する魔力の漏洩量の抑制とか!」
ね! と同意を求めてフリギアを見たのに。
「すまんが、お前の言葉が理解できん」
思い切り首を振られた。
「え…? 嘘だあ! そういう冗談は面白くないからいいって」
「いや、冗談ではなくてだな…」
「や、やだなあ、フリギア」
意外すぎる言葉に、脳が理解を拒否する。
だって見たら分かるものなのに! 宝玉の具体的な作用は分からなくても、見た目で分かるのに!
「フリギア、全く分からないのっ? 何も? 本当に? 魔法の展開速度の補助効果ぐらいは分かるでしょ?」
「悪いが…」
「えぇっ? だってミノアの魔法! 何度も見たじゃないか! それで何も分からないって…ねえ本当に冗談じゃないの?」
信じられない言葉に思わず詰め寄ると、フリギアは眉をしかめて首を振る。
「喧しい。怒鳴るな。しかし、それは見たら分かるものなのか」
「ああもう! どうして分からないのさ! あの宝玉、ちょっと削って分けてくれないかなあ。でも出所が危険な予感がするし、傷つけたら不穏なことになりそうだし…でも欲しい…フリギアにもう一度見せ付けてやらないと…」
「悪いなレガート。武器のこととなれば、こんなものだ」
付き合ってられん、と僕がとっても悩んでるっていうのに、肩をすくめるフリギア。
けれど、レガートさんは目を見張って動かない。
反応がないことにフリギアが気づいて、首を傾げて近づいていく。
「レガート? どうした」
「シアムさん」
「あれだけの宝玉、ミノアの杖につけてあげたいけど、僕じゃあ無理だし…あれほどの宝玉、売ってるとは思えないし…」
「シアムさん!」
「は? はいぃぃっ?」
怒鳴るような声に、思わず姿勢を正したり。っていうかレガートさんの前だったの忘れてた!
振り向けば、恐ろしいほど険しい表情を浮かべたレガートさんがいて。
「ご、ごめんな…」
「あの杖を、あの宝玉を、解析したのですかっ?」
「…はい?」
そう言って、レガートさんは頭を下げた僕の両手を、力強く握り締めてきた。
「気まぐれ更新」とキーワード表記しつつ、ほぼ一週間間隔で投稿しているな!
…と予測していただいた一桁の方、申し訳ない。
というわけで、気まぐれ更新となりました。
更新を期待していた方がいることに驚いている今日この頃でございました。
ここまで目を通していただき、有難うございます。引き続き、根性と粘り強さが有り余っている方は、お付き合いよろしくお願いします。




