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第60話(謀)

「フリギア、シアム君ととても仲が良いみたいだね。フリギアにしては珍しい…」

「ええと、その、ど、どこをどう見たら、僕らの仲が良い…と?」

「おいレガート」

「ふふ、なんでもないよフリギア」


 僕を見て、優しいレガートさんは労わるような笑顔を浮かべる。後半、小声で言われたような気がしたけど聞き取れない。

 一方、フリギアはレガートさんの登場に少し眉を潜めたけど、それ以上気にした様子もなく軽く手を上げてみせる。


「…まあいい。何を言われようが、こいつが世話になったのは事実だからな」

「あのさフリギア、苦労して僕、ここまで来たのになんか対応酷くない?」

「お前の苦労など仕様もないものだと分かりきっている。対応が酷いと感じているのは単なる僻みだ」

「………」

「全くフリギアときたら相変わらず…私こそ、道中ミノアを気にかけてくれたみたいで」

「当然のことだ」

「当然、か。さすがフリギアだね。ところでシアム君、体調の方は?」


 えっ? てっきりフリギアと話し込むかと思ったのに。レガートさんが振り向いてきて、驚いた。


「た、体調?」

「ええ。まだ休んでいた方が…」


 言いながらレガートさん、手を伸ばしてきて。慌てて全力で手と首を振っておく。

 これ以上レガートさんに心配されたら、僕困る。


「だ、大丈夫です! 元気、僕元気ですから!」

「無理しなくても、ここには私とフリギアしかいないのだから」


 氷水で起こされたけど、休ませてもらったから普通に元気なんだけど、何故か更に心配されマシタ。

 

 なんで?


「本当に平気なのに…そんなに心配することはないのに…」

「心配もするよ、シアム君。先ほどまであれほど顔色が悪かったというのに」


 そ、そう、でしたか? あはは…


「え、ええと…顔色悪いのも、調子が悪そうに見えたのも、いつものことだし! ねえ、フリギア!」

「ああ、そうだな」


 ここ最近は特にね! 誰が原因とか、フリギアは分かってると思うけどね!


「ね、フリギア!」

「ああ、そうだな」


 今までの色々を込めてフリギアを睨み付けても、当人は飄々としてる。

 しかも、僕見て肩をすくめてくるんだけど。


「レガート、何を勘違いしているのか分からんが、どれほど忠告しようとも、こいつは危険な方に飛び込んでいく」

「え? ちょっと!」

「からして、調子が優れんのは自業自得、いつものことだ。つまり、気にするだけ無駄、ということだな」


 まるで僕が悪いみたいな言い方してくれるね、フリギア!


「そもそもさ、僕が碌でもない目に遭うのは大体…全部フリギアのせいじゃないか!」

「見たかレガート、この通り無駄に元気だ。それと無駄に打たれ強いことだけが取り柄で囮が特技だ…あと一般人の癖に鍛冶もできたか?」


 なあシアム、と肩を叩くフリギアの手を叩き落す。


「無駄にって何! しかも一般人の癖にって! 怒るよ、僕!」

「そうか」


 思い出したかのように言わないでよ! 鍛冶が僕の本業なの! 囮は…囮は…ふ、副業?

 あれ? 囮って職業になるのかな?

 でも、僕なんだかんだで囮役っぽいこと何回かしてるし、そもそも二回も三回もさせられる人なんてそういないし。

 つまり、囮は職業、でいいのかな? いい、かな?


「ううむ…」

「シアム君? どうしのかい?」

「気にするな。下らんことを考えているだけだ」


 そうですよ! 下らないこと考えてましたよ!


「フリギア、流石に言い過ぎだと思うのだけども。気に入っているからと、全くもう…」

「仕方あるまい。レガートよ、こいつは何を言っても全く堪えんし反省もせん。だからして遠まわしに言葉を並べても伝わらん。困ったものだ」


 優しいレガートさんは、むくれる僕を見て物言いたげな表情をしたけど、優しくないフリギアが手を振って相手にするなとか言うし。 

 そのままフリギアはレガートさんに向け、軽く頭を下げる。


「こいつの紹介はそれで十分だろう。レガート、礼が遅れたが、ミノアには随分助けられた」

「いや…今回、ミノアは自分で付いていくと決めたんだ。だから僕に礼を言うのは違うよ、フリギア」

「そうか。ならば尚更ミノアに礼をせねばな」


 不貞腐れる僕の隣で遠慮なく進んでいく会話。

 除け者にされてるのは構わないけど、フリギア、ここにきて物凄い口悪くなってるような気がするんだけど?

 

 前から、口悪かったっけ? 最初の頃…は思い出せないけど、ここまで酷い単語を並べてはなかったような?

 でも、酷いことは言われてたと思うから、あんまり変わってない、のかな?


「…ふんだ」

「おいシアム」

「なにさ」

「この程度で拗ねるな。気色悪い上に、これから先、もたんぞ」

「拗ねてるってそれフリギアのせいで……え? もたない?」

「ああ」


 僕が拗ねてることが分かっているのに、フリギア、なんか嬉しくないこと言わなかった?

 さらにフリギアは憂鬱そうにため息なんて吐いてるし。なんだろう?


「クラヴィアが戻ってきたからだね。今は屋敷にいるのかい?」


 理解したとばかり、レガートさんが困ったように笑う。それを受けてフリギアも渋面で頷く。


「報告も済んでおらんというのに、早速拉致されかけた。帰還日は知らんはずだが、何故かクラヴィアは俺の到着を知っている…」

「クラヴィアの情報網は目を見張るものがあるからね。勿論、誰も彼女には君の帰還について教えていないよ」


 苦笑するレガートさんに、真顔でフリギアは腕を持ち上げる。なんかちょっと殺気立ってない?


「当然だ。教えていたら、俺はそいつを殴りに行く」

「ふふ、フリギアの制裁を食らいたい人はいないよ。そこは皆分かっているはずだ」

「さて、な」

「あのさ、どういうこと? クラヴィアって人名? なんでフリギアが困るのさ?」


 よく分かってないのは僕だけで、一体何の話をしているのか、さっぱり。

 僕が一人理解してないことを察したフリギアが、嫌そうに説明する。


「俺の許嫁が今、屋敷にいてな。後は察しろ」


 説明になってないし! 

 というか…


「い、許嫁っ? フリギア、許嫁がいたんだ!」

「ああ」

「へえ!」


 人に優しくしない、すぐ人を囮に使う鬼のフリギアに許嫁だって?

 無理矢理許嫁にされたのかな? そうだよね、きっとフリギアの、この口の悪さとか態度の悪さとか知らないんだろう。


「前々からの関係だ。クラヴィアという」

「それだけじゃあ説明不足だろうに。クラヴィアはね、シアム君、商人ギルドを治めている貴族の娘さんだよ」

「商人ギルド?」

「商人たちの寄り合い、と言えばいいのかな。商業のことは勿論、城下の自治にも力を入れている…あまり余所にはない仕組みだろうね」

「へえ……凄い人なんだ。クラヴィアさんね! へえ!」

「ああ」


 照れる様子もなく、淡々と頷くフリギア。レガートさんも許嫁のことを知ってるみたいで、説明してくれる。

 それにしては、許嫁だっていうけど、あんまり嬉しくなさそうに見える。なんでだろ? 無理矢理許嫁にされたのは、フリギアの方? まっさか。

 でもフリギア、嫌悪っていうか困ってる、みたいな微妙な顔してるなあ…よく分からないから、置いとこう、うん。


「それでフリギア」

「ああ」

「それで、許嫁がいて、そのクラヴィアさんがフリギアのお屋敷にいてっていうのは分かるよ」

「そうか」

「うん。それで僕はどう、何を察すればいいの?」


 僕の問いかけに、フリギアは目を瞬かせて。


「言わなくとも理解できるだろうが」

「あのさ、無理だから。それ絶対に無理だから。僕じゃなくても無理だからねっ?」

「…ある意味、お前とは相性がいいのかもしれん」

「え? 何? だからフリギア…」

「無駄に順応性も高いからな……レガート」


 フリギアは一人頷き、勝手に話を終わらせる。って僕全然理解できてないんだけど!

 どこか言動おかしいフリギアに、レガートさんも困った様子で目を向ける。


「なんだい?」

「悪いな」

「悪い、とは?」


 急激な話の切り替えに、おかしいと思ってるのはフリギアだけっぽい。

 変なフリギアはレガートさんに手を振って僕を顎で示す。


「明日、こいつを案内がてら、杖の製作に取り掛からせる予定だ。ミノアに、礼は遅れることになると伝えておいてくれ」

「杖? ミノア……? シアム君は鍛冶だと…まさかそういうことか」


 一瞬眉を顰め、次には僕に目を向けて、最後、フリギアに猜疑の視線を送るレガートさん。

 そんなレガートさんへ頷いてみせ、フリギアは続ける。


「その通りだ。鍛冶らしいが、それとは全く関係ない、中々下らないことをしでかしてくれる男だ」


 一応…腕も確かだったか? と聞いてくるフリギアは、呼吸するように暴言吐いてくる。


「あのね! 毎度毎度ついでのように言わないでよ! 僕は鍛冶なの! それに一応腕は確かってなにさ!」

「言葉の通りだが?」

「フリギア、君ね! 僕の息子を散々道中で酷使して、満足そうだったのにそういうこと言う?」


 馬車を走らせてる途中で魔物に遭遇した時、何かの鬱憤を晴らすように武器を振り回してたくせに!

 怒る僕へ、フリギアは手を打ってみせる。


「そうだった。コイツはどうしてか、作り上げた武器を子ども扱いするのだ」

「当然じゃないか! フリギアには分からないかもしれないけどね!」

「色々言動がおかしいが、武器に関してだけは信用できる」

「……フリギア、さっきから僕のこと散々言ってるけど。貶したいの? 褒めたいの?」

「褒めているだろうが」

「………」


 背中を叩くフリギアを睨んでおく。だけどフリギアは分かってないし。


 数秒そうしてると、黙っていたレガートさんが突然頭を下げてきて、慌てる。

 しかも、持ち上げた顔は真剣そのもの。えっ? なんで?


「えっ? ちょ、ちょっとレガートさん?」

「シアム君。ミノアの杖…頼みます」









 とうとう三作目通しで60話です。

 この勢いですと、話数が三桁行きそうな気もしないでもないですが、どうでしょう?


 なにはともあれ、ここまで目を通していただき、有難うございました。

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