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tea break  作者: ふゆき
10/30

∬ 小鳥ちゃんのお正月 ∬

クリスマスが終わった途端、世間様はあっという間にお正月仕様に様変わり。


斯く言うオレも、人のことは言えない有り様なんだけど。



鮪の角煮と牛すじ煮込み。


それから箸休めに牡蠣酢と野菜たっぷりの生春巻きをテーブルに並べて。


後は、焼酎の瓶をデンと真ん中に据えておく。


これでたぶん兎場さんは、迷わずテーブルに着くはずだ。



お風呂あがり。


ほんのり火照った身体の兎場さんは、とんでもなく色っぽい。



じゃれて触っても怒られなくなったし、機嫌のいい日は構ってくれて、向こうからキスしてくれたりもする。


本当なら、兎場さんとイチャイチャしながらごはんを食べて、あわよくばベッドへ引きずり込んでしまいたい。



毎回引きずり込めるとも限らないんだ。


チャンスがあれば当然、いつでもどこでも誘いまくりたいのだけれど。



今年はうっかり、おせち料理作りに手を出した。


どうせ作るなら、クリスマスに出来なかった分、豪勢で王道なおせち料理を極めたい。


最近何故だか兎場さんは、台所仕事に興味を持って覗きにくる。


等価交換だとでも思っているのだろう。


オレの邪魔をした分、後で好きなだけ触らせてくれるから、いつもは台所へ招き入れ、喋りながら調理しているけれど。


今日はダメだ。


ウチの狭い台所じゃ追いつかなくて、クリスマス明けからこっち、兎場さん家に押しかけてる意味がなくなる。


独り暮らしだったくせして兎場さんは、郊外に一軒家を構えている。


しかも、デカイ。


もともとどこぞの政治家だかなんだかの別荘だったものを――……長谷川部長たちが共謀して、兎場さんには無断で、兎場さんのお金を遣って――……競売で安く手に入れたらしい。



曰く、


「だって証拠物件だったんだもん」


だ、そうで。



一連のゴタゴタが片付いて、転売するのもめんどくさいと棲みついた兎場さんも兎場さんだけれど。



この人たちの関係は、いまだによくわからない。



どうせ遣わないし、と。


兎場さんは、お金にまるで執着がない。


旨い酒と旨い飯、それに安眠できる寝床があればいい。


そういうタイプの人だ。



まあ、夜勤は嫌がらないわ、出動すれば必ず危険手当てがつくような現場だわ。



収入に困ってないってのもあるんだろうけれど。


身内同然だとはいえ、勝手に家を購入されて、気にもかけていない神経は、オレにはまだよくわからない。


とはいえ。


馬鹿デカイ家には当然ながら馬鹿デカイキッチンがあって。


ちょっとしたお店の厨房のような仕様になっている。


クリスマスの後くらいから毎晩、少しずつ仕込みをして。


残るは難関、黒豆だけである。


できれば綺麗に仕上げたい。



黒豆以外は、もうほとんど出来上がっている。


クリスマス連休に当番だった代わりに、年末は30日から休みが貰えた。


だもんで。


今日は朝仕事へ行く兎場さんを送り出してからずっと、キッチンにこもって料理をしていた。


ひとりきりだし。


なにより、ここのキッチンは、オーブンからコンロ、水回りに至るまで。


全部が全部、最新型だ。


その上広い。


熱中して作っていたら、1日なんて、あっという間だった。



兎場さんの家で兎場さんを仕事へ送り出し、兎場さんの帰りを出迎える。



ふふ……。


なんかちょっと――……いや。


かなり幸せな気分だ。


いつもは兎場さんがオレの家に入り浸ってるけど。


逆は滅多にないもんなあ。


年始も、3日までは休んでいいらしいし。


そんでもって、毎年ひとりは退屈だからという理由で、クリスマスにも年末年始にも出ずっぱりだった兎場さんは、強制的に休まされている。


オレが人前でもベタベタしまくるもんだから、いままで兎場さんに当番を変わってもらっていた人たちが、こぞって気を遣ってくれたらしい。


お世話係りが出来たなら、逃がさないよう周りから固めよう作戦だとかなんとか。


逆なんだけど。


オレのが兎場さんを逃がさないよう必死なんだけど。


周囲の人たちの目には、オレの好きにさせている兎場さんの方が、オレに惚れてるように映るらしい。


まあね。


クリスマス当番が当たって愚図ってたら、差し入れ持ってきてくれたり。


そのまま一緒にいてくれたり。


結構、オレを甘やかしてくれている。


付き合いだしてはじめてのクリスマスは一緒にゆっくり過ごせなかったけど。


年末年始は、思う存分イチャイチャできそうだ。


そのためにも、見目美しい、味もばっちりなおせち料理を作りたい。


まあ、正統派なおせち料理は小さなお重だけで、後はほとんどパーティー料理なんだけど。



「なあ、小鳥ちゃん。栗きんとん食ってい?」



気配もなく、声だけが不意に降ってきて、一瞬止まる。


家の中ではだらけまくってる人だ。


気配なんて、いつもは消してない。


つまみ食いしようとして、量の少なさにあきらめた。


そんなところか。


彩り重視で詰めた重箱だ。


各品、少量ずつしか入っていない。


つまみ食いなんかしたら、すぐにわかる。



「お酒のおつまみなら、テーブルに並べといたでしょ。そっち食べてくださいよ」



甘く煮た椎茸の佃煮だの煮豆だの。


兎場さんは、甘めの副菜がけっこう好きだ。


試しにさつまいもの甘露煮を出してみたら、ちまちま嬉しそうにつついていた。


食べたいのなら、食べさせてあげてもいいけれど。



絶対、食べ尽くすに決まってる。



「ん? んー……いま携帯鳴って、ヘルプで夜勤入った。飯食ったら出るわ」



「は? だってあんた、ついいましがた帰ってきたとこでしょうが」



「坂上班の連中が、装甲兵とやりあって、装備パアにしたんだと。この年末に馬鹿だよなあ」



「え、ちょ。じゃあお正月休みも返上なんですか?!」



ぎょっとして手を止め、あわてて振り向く。


せっかくおせち作ってるのに。


年末年始はイチャイチャしまくろうと思ってたのに!



「うんにゃ。今晩だけ。明日の朝いちで代替品がくるまでの繋ぎだと」



未練たらしく重箱の中の栗きんとんを凝視している兎場さんの口元へ、皿に余っていた分を差し出してやる。


味重視で大量に作ったから、重箱に詰めた量より、残っている量の方が多い。


まだかなり余ってるけど。


パッと顔を輝かせてパクりと食いついた兎場さんの表情を見て、そっと死角へと移動させる。


渡したら最後。


これしか食べないで出掛けて行ってしまいそうだ。



「じゃあ、年越しは一緒にできます?」



「うん」



「えと。だったらオレ、お迎え行ってもいいですか……?」



家で待ってるより早く会えるし。


重箱に詰めきれなかったおせちの残りを差し入れで置いてくれば、始末に困らないし。


兎場さんには美味しいトコだけ食べてもらおうと、どれもこれも大量に作った残りが山ほどある。


年始の挨拶に行った時にでも差し入れで置いてこようと思ってたし、ちょうどいい。



「帰り道、ドライブデートしましょうよ」



「あー…。出動してなけりゃあな」



「大丈夫。もし事件が起きてたら、オレも現場へ出て、犯人に馬をけしかけますんで」



「ばあか」



お風呂あがりのいい匂いのする濡れた髪が近づいてきて、甘い味が舌に広がる。


うんまあ。


この味なら合格点かな。


甘い栗きんとんの味をたっぷりと堪能して。


そっと離れていく舌先を、がぶりと噛んでやる。


仕事場へ戻るくせして、エッロいキスしてくれちゃってもう。



「ちゃんと食事はして行ってくださいよ?」



下半身が反応したらどうしてくれるんだ、この人は。


未練たらしく唇に指を這わせば、ニィと細まる、鈍色の眼差し。



――……ちくしょう、確信犯か、この野郎。



てか、くそ。


珍しくソノ気だったんじゃないか!



うわあん。


もったいないもったいないもったいない〜ッ。



兎場さんの方がソノ気になることなんて、滅多にないのにィッ。



「おっま……ッ。全部顔に出て、かぁいいなあ」



ご機嫌な獣が、喉の奥で低く笑う。


あーくそ。


全部顔に出てて、悪ぅございましたね。


あんたみたいに、なんでもかんでもポーカーフェイスでやり過ごしちゃうよりマシでしょうよ。


てか!


この人のエロスイッチどこなんだよ!!


これ、この顔〜ッ。


絶対、エロスイッチ入ってるぅ。



「もう。人で遊んでないで、さっさとごはん食べちゃってくださいよ」



「へーへー」



「明日、何時頃帰れそうなんですか」



「代替品がきたら帰っていいみてぇ」



濡れた髪のまま服を着て食事をはじめた兎場さんの背後に立ち、ドライヤーで髪を乾かしてやる。


ドライヤーの熱風に気持ち良さそうに目を細めて。


一口ごとに満足そうな顔をする。


前は、自分でするだのなんだのと、触られるのを嫌がって逃げてたけど。


この頃は、オレにされるがまま、おとなしく座ってくれている。


人馴れしない獣がオレにだけはなついてくれたみたいで、ちょっと嬉しい。



「なあ。こっちの家のキッチンのが使い勝手いいなら、居住移すか?」



「…………は?」



言われたセリフが意外すぎて、一瞬、耳を素通りする。


え……いま。


さらりとなに言った、この人。




居住移すかって、それ――……ッ!!




しかも、『こっちの家』って言った!


『オレの家』じゃなくって、『こっちの家』って!


あんた、オレのボロアパートも、自分の家だと思ってくれてんの?


うわ、うわ、うわッ!


ちよ、それ。


どうせなら、帰ってきてから言ってくれれば……ッ。


有無を言わさず、ベッドへ直行だったものを〜〜ッ。



「ん。や。おまえが嫌なら、別に……。あっちのが職場から近くて楽っちゃ楽だしな」



生春巻きを口にほうり込んで、むぐむぐと頬張る横顔が。


心持ち、しょぼんと項垂れる。


すぐに返事をしなかったもんだから、拒絶されたと思ったんだ。



どう……しようこれ。


てかなにこれ。



なんで今日はデレてんの?



「じゃあ、向こうの家は仮眠部屋にして、生活はこっちでしましょうか」



ちゅ、とうなじをひとつ、啄んで。


こっそりと赤い痕を刻む。


馬鹿な人だな。


オレがこの家に滅多に来ないのは、ここがあんたのテリトリーだったからだ。


でも、向こうの家もここと同じく自分のテリトリーだとあんたが思ってくれてるのなら。


オレの存在を、テリトリーの一部だと思ってくれてるのなら。



ううん。


あんたが一緒にいてくれるのなら、どこだって。


そこがオレの『家』だ。



「いー……のか?」



「いいもなにも。言い出したのあなたでしょ」



「うん、まあ。うん……。おま、なんか黙るし」



「ああ……ちょっと。めくるめく休みの予定が頭を巡って……」



「予定?」



こくん、と。


兎場さんが小首を傾げる。


たまーに、オレに対して引きぎみなんだよなあ、この人。


こっちの広い家で一緒に住もうと誘われて、オレが喜ばないとでも思ってるんだろうか。



「おせち仕上げてぇ、兎場さんのお迎え行ってぇ、ドライブデートでしょ。それから、初日の出見ながら姫はじめして、お引っ越し?」



「…………おま、間になんか、いらん予定が入ってなかったか……?」



口に入れようとしていた牡蠣酢を取り落とし、兎場さんがぽかんとオレを振り返る。



こういう表情すると、若く見えて可愛いんだよな〜。



「なに言ってんです。ソコがメインでしょうが!」



「ない。ないない。外でとか、絶対ない」



「え〜。だってオレ、青姦したことないんですもん」



「オレもないわッ」



もぞもぞと身体をまさぐって悪戯すれば、跳ね起きた兎場さんが、そそくさと逃げていく。



なんにもなかった広いダイニングキッチンに、ウチから持ってきたローテーブルを置いて、床に直座りして食べてたんだ。


押し倒すのは、簡単なん……だけど。


今日は、まあ。


黒豆煮てるし。


兎場さんヘルプで夜勤だし。


キスだけで我慢しとくか。



「……ん」



兎場さんを壁際へと追いつめて、ねっとり唇を重ねる。


嫌そうな顔をして。


そのくせ、ちゃっかり唇を開いてオレの舌を受け入れて。


するりと腕を伸ばして抱きついてくる。



あー……このまま犯っちゃいたいなあ。



「おい、あんま……煽んなって」



「それはあんたでしょー」



額を付き合わせ、クスクス笑いあって。


どちらからともなく、軽く唇を啄み合う。



「続きは――……帰りに、初日の出見ながら、な」



ボソリ、と。


小さな囁きを残して、するりと獣が逃げてゆく。


耳まで赤いとか。


あんたそれ、反則でしょうよ。


ドアの所で立ち止まり、物言いたげにオレを見て。


でも、結局なにも言わないままで背を向けた兎場さんへ。



「いってらっしゃい」



なるだけ機嫌よく聞こえる声を聞かせてやる。


なんかやたらとサービスしてくれると思ったら。



「……おう。行ってくる」



この人でも、後ろめたいとか思ったりするんだ。


どこかホッとした表情を浮かべて出掛けてゆく兎場さんに、堪えきれず笑い声をこぼす。


いまさら。


あんたがワーカーホリックなのも知ってるし。


昔馴染みの人たちの頼み事を断れないことも知っている。



でも――……。



あんたがオレの機嫌を気にしてくれるだなんて、思いもしなかった。



今日イチャイチャできないのは残念だけど。



その分お正月にはサービスしてもらえるみたいだし?



今日のところは、まあ。





仕事にあんたを譲るとしようか――……。












※ 結局、どっちもどっちなバカップルの話 ※












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