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あいつのために、戦ってるのか?

 なおさら分からない。弱味を握られて嫌々させられているというなら同情も出来たがそうでないならそれも無理だ。本当に彼女が嫌なやつになってしまう。


「熱くなるな、なんなんだいったい」


 つい声を荒げてしまい深優もやれやれと軽く息を吐く。


「なんていうか」


 信也は迷っていた。今目の前にいる女の子と思っていた印象とのギャップが違い過ぎてどうすればいいのか分からない。


「初めて会ったとき、はっきり言ってひどい人だと思った。部長に入りたくもない生徒会に無理矢理参加させようとするなんてさ。生徒会の人間はみんなそうなんだって思った。でも今は違う。普通にさ、真面目じゃん」


 彼女は物言わぬ植物にさえ優しさを掛けられる人だ。その姿勢はすごいと思うし良い人なんだと思う。正直に言うと好印象だ。


「だから戸惑ってる」


 そんな人が生徒会のやり方に従うだろうか。彼女をどう扱えばいいのか。

 敵なのか。良い人なのか。


「そうか。ま、私はお前に対する印象は今も変わっていないがな」

「はいはい、もう好きに言えよ」


 自分の評価が低いのはこの際どうでもいい。いちいち報告してくるのが少しだけ性格悪いが。でもそれくらいだ。冗談の範囲で嫌味を言うくらいで本当は優しい心を持っている女の子。出会いが違ったら仲間や友達になっていたかもしれない。


 だからこそ、そんな人に生徒会のやり方をして欲しくない。


「なあ、なんで生徒会に入ったんだ? どうして生徒会のやり方に従う?」


 信也の問いかけ。それは真剣な質問だ。声色からそれを感じ取った深優も真剣な顔で信也を見返した。


「そうやってさ、植物に気遣いとか思いやりを持って接することができるあんたなら分かるだろ。今の生徒会がやっていることでどれだけ多くの人が苦しんでいるのか。言われなくたって想像できるじゃないか、当たり前なくらいに! 分かってるはずだ、生徒会のやり方で傷ついている人がいるってこと。どうしてそれが分かっていながらこんなことができるんだよ!?」


 いつしか言葉は荒くなり声は大きくなっていた。それだけに彼女の矛盾が許せない。


「どうしてそこまで私にこだわる」

「それは」


 信也はバツが悪そうに顔を背ける。だけど意を決めて正面に戻す。


「嫌いになりたくないんだよ、今のあんたを知ったらさ。普通にいい人をさ、嫌いになんてなりたくないだろ」

「嫌いになりたくない、か」


 深優が恥ずかしそうに笑う。苦笑いというか、こうもはっきり言われて照れ臭いのだろう。


「私が生徒会に入った理由は簡単だ。単に能力を買われただけさ。生徒会は学内の風紀も守らなくちゃならない。それで私はスカウトされたんだ。それで受けた。特に理由はない。断る理由がなかったくらいだ。だが、その後になって未来が現れた」

「天王寺が……?」


 最初から会長だったのではなく途中から入ってきたのか。それに今の話だと生徒会の後輩に当たる立場だ。にも関わらず会長に就いたのは天王寺だった。


「あいつは力づくで生徒会の会長になるとランク至上主義を打ち出した。みなを言いなりにさせてさ。方法は強引だったよ、反感を持つやつだっていた。だけどあいつは強い。誰も勝てなくてな。私も最初は反感を持ってたよ」

「ならどうして」

「…………」


 深優の顔に影が差す。


「あいつな、たまに寂しそうな顔をするんだ」


 その時の彼女の顔を思い返しているんだろう。今の彼女の顔も少しだけ寂しげなものだった。


「私たちには理由を教えてくれたよ。どうしてランク至上主義が必要なのか。なぜ強固な生徒会が必要なのか」

「理由?」


 生徒会がランク至上主義を推し進める訳。知りたい、なぜそうするのか。


「それは言えない。それに私も正直半信半疑だ。でも、あいつが時折見せる顔を見るとな。ほっとけないんだよ」


 彼女は生徒会の方針に賛同しているわけじゃない。


「あいつは、なんだろう。どこか懐かしい」

「懐かしい?」

「古い友人みたいな気がするのさ。私の思い違いだろうけど、そんな感じがするんだ」

「あいつのために、戦ってるのか?」


 天王寺のことを思って戦っているんだ。たった一人のために。


 信也の質問に深優はすぐに答えなかった。その代わりに真剣な眼差しが見つめ返してくる。


「……たとえ自分が悪者になっても叶えたい目的がある。そういうの、お前に分かるか、イレギュラー?」


 目的のためなら悪にでもなる。それは当然悪いことだ、だって悪者なのだから。誰かに迷惑を掛けたり苦しめたりすることが良いことなわけがない。


 それを踏まえた上で、なおしなければならない目的があるとしたら? 自分は悪になれるのだろうか。


「……どう、だろうな」

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