真田さん。どうしてそこまで言い切れるあなたが生徒会なんているんです?
彼女は生徒会の四天王、その中の戦闘要員だ。生徒間の風紀を取り締まるのが仕事。荒事が多い役職なだけにそういうことが好きなのかと思っていたが戦闘とは縁も縁もない園芸とは。分からないものだ。
「気を悪くしないで欲しいんだが、楽しいのか?」
「楽しい、か」
信也に花を育てた経験はない。したいと思ったこともない。彼女には申し訳ないが退屈な作業にしか思えない。
「表現が難しいな」
「そうなのか?」
それが当の本人にすら難しいのならなおさらだ。
だがそれは表現がなかなか出てこないだけで意義がないわけではない。深優は考えながら話していく。
「花に限らず植物っていうのはどれだけ丁寧に世話をしても感謝されることもなければ懐くこともない。一緒に遊ぶことも出来やしない。基本交流というものがない」
「ペットとはそこが違うよな」
「でもな、世話をしていればこいつらも生きているというのが分かる」
表情に変化はない。傍から見ていても無表情のそれに近い。話し方だって特別柔らかい印象もない。
だけどなぜなのか。彼女が言う言葉にはどこか優しさが感じられた。
「楽しいと言えばいいのか、喜びなのか。ただ、小さな変化と成果を見られるとな、心が通じたような、報われた気持ちになれるんだ。その報われたという気持ち。それがあるから好きでしている」
「報われた気持ちか」
報われた。その気持ちよさをなんと表現すればいいのか。信也もパッとは思いつかなかった。
「確かに楽しいとも喜びとも言いづらい、似ているけど微妙に違う感情だな。ある時ふと思い立ってな。なんでかは分からないんだが。それでも自然にやってみようと思えてさ。それで、いざやってみれば苦労の連続で何度止めようと思ったことか。それでも片づけるのも面倒だから続けていたんだ」
「止めるのも億劫とは継続の秘訣かもな」
「それで続けていくといろいろ分かってきてさ、ついに花が咲いたんだ。今までの努力が報われた瞬間だったよ。それが嬉しくてさ」
そう言うとき、初めて深優の口もとが持ち上がった。普段の険しい顔からは想像できないが、その顔はとても可愛らしいものだった。
「こいつは種のまま、私に出会わなければ花を咲かすこともなかったかもしれない。そういう意味では私はこいつの恩人なのかもしれんが、私もこいつには感謝している。よく咲いてくれたって。よく頑張って生きてくれたと」
世話をする。応援する。それで成功してくれたら時感謝の思いを抱く。なぜだろう、成功したのはその人やその生き物なのに。その成功は自分にとっても成功になる。
人は誰かの願いに自分の願いを重ねる。だから感謝するのだろう。
「ぱっと見生きているかどうかなんて分からないだろ? でもこいつらもちゃんと生きている。想像すれば分かるだろ。茎を折られたら痛いだろうし根から引き抜かれたら死んでしまう。そんなの誰だって嫌なはずだ、こいつらだって同じだ。みんな生きている。必死に生きようとしているんだ。声がなくたって、抵抗がなくたって、そんなの想像すれば分かることだ」
植物も生きている。それは目で見て分かるものではないが生き物なら察しがつく。なにをして欲しくてなにをして欲しくないのか。それは視覚や相手の主張で判断するものじゃない。
心だ。目で分からないのだから思いやりや気遣いで判断するしかない。日々の小さな変化に気づきその植物にとってなにが必要なのか考えることが出来る人。
優しい人でなければ、この作業は務まらない。
「…………」
この人の人柄を、信也は初めて知った気がした。
「分からないな」
「…………」
だからこそ分からない。今の彼女は信也の印象とはまるで違う。初対面の時に感じた彼女の強引さ、それは生徒会の強引さだが彼女はそれを引き継いでいた。
相手の嫌がること、それは想像すれば分かると言い切る彼女と生徒会の方針は真逆に思える。彼女がそれで従っているのが信也には理解出来ない。
「名前、なんて言いましたっけ?」
「真田深優だ」
この時彼女へ抱く心証はすでに変わっていた。
「真田さん。どうしてそこまで言い切れるあなたが生徒会なんているんです?」
「どうした、いきなり殊勝になられても不気味なだけだぞ」
「まあ、その」
「今更だろ、今まで通りに話せよ」
そう言って深優が立ち上がる。
信也にとっては彼女はただの敵だった。倒すに値する悪だ、生徒会に所属する者は全員そうだと思っていた。
でも話をして思う。彼女は誰かを思いやれる心がある。
そんな人が、本当なら生徒会の暴挙に加担するはずがない。
「ならこの喋り方でいくけど、再度聞くけどどうして生徒会にいるんだ? どうしてやつらのやり方を許せる? なにか弱味でも握られてるとか?」
「そうじゃない」
「ならどうしてだよ?」




