大丈夫だ姫宮。なんとかする
険しい表情は変わらない。なにが彼女をそこまで戒めるのか、そこに親しくする素振りは一切ない。
「生徒会が俺になんの用だ」
「そう邪険にするな。お前には我が生徒会に入ってもらうのだからな」
「なに?」
聞き間違いだろうか。そう思い信也の眉が曲がる。
「えええええええ!?」
と、自分の驚きを上回る大声で姫宮が驚いていた。
「すごい信也君! 生徒会にヘッドショットだよ!」
「ヘッドハンティングな。それだと凄腕のスナイパーだろ。って、そんなのはどうでもよくて。どうして俺を生徒会に?」
いきなりのことでわけが分からない。生徒会とは今まで縁もゆかりもなくそれこそ入学式の日には抵抗までしたというのに。
「決まっている。生徒会は優秀なアークホルダーを募っている。お前のアークはランクA。十分にその素質がある」
入会の理由。それは偏にアークのランクのためだ。ランク至上主義を推し進めるこの学園らしい動機といえば動機だ。
「なるほど。でも無理だな、俺は生徒会になんて入らない」
理由は分かった。だが信也は顔を横に振る。生徒会長未来に親しくする雰囲気がないように信也もきっぱりと断った。
「なぜだ? 待遇は今よりも格段によくなるぞ?」
「それはランク至上主義だからだろう」
「当然だ」
ランクが上の者は下の者よりも優遇される。それは差別的であり権威主義的な構造だ。それで言えば信也は厚遇されて当然の人間でランクAの輝きはピラミッドの頂上で輝く太陽に等しい。
しかし、そんなもの望んではいない。
「そんなの俺は認めない。俺はこの学園を覆うランク至上主義を変えたいんだ。あんたはどうなんだ!? なんとも思わないのか、この歪な学園を!?」
「歪?」
信也の主張に今度は未来が疑問を浮かべた。言っていることが分からないと眉間に小さなしわを作っている。
「そうだ。この学園はランク至上主義が定着している。それによってランクの低い者は差別的な扱いを受け、ランクだけで判断されている。その人が持つ、本来の力が軽視され踏みにじられているんだ! そんなのっておかしいだろ!?」
今まさにこの学園を変えると決意したばかりだ。怒りにも似た思いが胸の内側から湧き上がる。
「それがどうした」
「お前……それ本気で言ってるのか?」
それでも、彼女は変わらない。
これが異能学園の現実。頂点に立つアークホルダー天王寺未来だ。
「幻想は捨てろ。異能とは世界を変えるものではない。単純な力だ。力が己を変え、己が世界を変える。理解しろ。このランク至上主義こそが世界を変える唯一の方法だ」
「そんなの俺は認めない! 世界は己で変えるものじゃない、みんなで変えるものだ」
二人の主張が真っ向から対立する。二人の思想は真逆の位置にあってどちらも固い。
「ふっ、言ってくれる。眩しい言葉だが絶望が足りないな」
そこで、天王寺が少しだけ笑った。
「俺は絶望したりしないからな! 俺は諦めない。可能性を信じ、未来を切り開いてみせる!」
信也の考えを分かってくれたのだろうか。そうは見えないがしかし、その目つきから少しだけ険しさがなくなっていた。
細められた目つきからは、どこか郷愁のような思いが感じられた。
しかしそれもすぐに切り替わり最初の厳しさが現れる。
「ならば証明してみろ。お前に未来を切り開く力があるのなら私ぐらい倒せるんだろう?」
「そんなの、やってみなければ分からない」
「そんな甘い見通しでそれだけの啖呵を吐いていたのか」
「違う! 俺が言いたいのは勝ち負けの話じゃない。やる前からなんでも決めつける、その考えを変えたいって言ってるんだ!」
自分の考えが伝わらないもどかしさ。当たり前だと思っていることが通じない。
誰にでも可能性がある。
なぜ、そんなことがここでは通じないのか。
「そうか。ならば見極めさせてもらおうか。私が勝てばお前には生徒会に入ってもらう。もし私に勝てれば誘うことは二度としないと約束しよう」
その原因はまさしく生徒会会長の彼女のせいだ。天王寺未来がランク至上主義を推し進める限りこの学園は変わらない。彼女こそがこの学園のトップであり絶対者なのだから。
その天王寺が目を瞑った。厳格な雰囲気は一旦消え、嵐の前のような静けさになる。
それは溜めだ。この一戦に戦意を集中させるため気持ちを整理させる。
彼女が目を開いた時、双眸には熱のない猛火が渦巻いていた。
「見せてみろ、お前の可能性を」
彼女の態度は見掛け倒しなんかじゃない。本物だ。この学園の頂点に立つ者としての威厳と力が彼女にはある。




