眩しい言葉だが、絶望が足りないな
信也の登場に三人が動揺している。相手は学園に数人しかいないランクA。いわばこの学園の支配階級だ。三人は目合わせすると「ちっ」と舌打ちし去っていった。
「なにあれ感じ悪い!」
姫宮激怒!
「なあ、大丈夫か」
「うん、ありがと」
信也はいじめられていた男子生徒に声をかける。弱々しい態度だったが若干声は明るくなっている。それでも完全に立ち直ったわけではなくまだまだ落ち込んでいるようだ。
「こういうのはよくあるとか?」
「うん、しょっちゅうだよ」
「許せない! 先生に言いつけてやる!」
「実際そうすべきじゃないか? こんなのおかしいだろ」
ランク至上主義の悪習は目に余る。こうしたいじめが目に見える形で行われているのだ、それをなんとかするのも教師たちの仕事のはずだ。
「無駄だよ。注意してくれる先生もいるけどその場凌ぎで誰も聞きやしない。ほとんどの先生たちも半ば諦めてるよ。それが分かってるから連中は好き放題だ」
「許せない! 親に言いつけてやる!」
「そうだそうだ!」
「名前で呼んでたってマッキー先生に言いつけてやる!」
「それは止めてやれ」
男子生徒から聞かされる話に姫宮は怒っているがしかしそれは冗談にならない。学園の庭から遺体が出そうだ。
「あいつらそんなにランクが高いのか? ずいぶん態度がでかかったが」
「ううん、三人ともランクEだよ……」
「ランクE!? それであんなに威張ってたのか?」
驚きだ。ランクEは下から数えて二番目。言ってしまえば低ランク。最低ではないというだけだ。
「連中は自分よりもランクが下だと分かれば容赦ないよ。くそ」
男子生徒がつぶやく恨み言。言っていた通りこういうことはよくあるのだろう、声から伝わる感情からは一日二日ではない思いがある。
「助けてくれてありがとう。それじゃあ僕はこれで」
そう言って男子生徒は去っていった。悔しそうな声と表情がなによりも印象的だった。これがランク最低辺、ランクFの実状なのだと思い知る。
二人は彼の小さな背中を見送った。
姫宮がぽつりと言う。
「きっと、ランクEの人たちは自分よりもランクが上の人からいじめられたりとかあるから、それで八つ当たりしてる面もあるんじゃないかな?」
「なるほど」
上から下への圧力。そのしわ寄せがこれというわけだ。
「どのみち酷すぎだ」
「うん……」
姫宮の視線が足下に向かう。表情は寂しそうで残酷な現実に落胆している。
「姫宮」
「ん?」
だが、隣から名前を呼ばれ振り向く。
信也は前を向いていた。力強い眼差しで。そこには固い決意がある。
「俺、諦めないから。ランク至上主義を変える。じゃないとこの学園はいつまでも救われない! 苦しみが広がるだけだ!」
信也は決意を新たに宣言する。打倒ランク至上主義。変わらない周囲の反応に落ち込んでいる場合ではない。こうしている今まさに誰かが苦しんでいる。悲しんでいる。
可能性が、摘まれているのだ。
信也は片手を握り込む。拳を見つめ絶対に変えてみせると意思を込めるように固く拳を作っていた。
「素晴らしい意気込みだな」
「え」
そこへ声が掛けられた。拳から目を前に向ける。
正門から校舎に続く真っ直ぐな道。その向こう側から白い服を着た集団が歩いてくる。
「生徒会だ!」「どうして生徒会がここに?」
周りの生徒たちがざわめき始める。彼らは全員が険しい表情を浮かべており緊張がこの場を覆う。
中でも先頭を歩く女生徒の風格は他を圧倒していた。王者のような雰囲気がひしひしと伝わってくる。黒の長髪が歩調に合わせて揺れその手には日本刀が握られている。
「神崎信也。この学園唯一のイレギュラー」
彼女は鋭い眼光を信也に向け立ち止まる。なんでもない空気だったのが彼らの登場で一変していた。
「お前は、確か入学式で」
先頭に立つ女性には見覚えがある。それに強烈なまでのこの態度は忘れもしない。
「生徒会会長、二年、天王寺未来だ。この学園は不服か? いや、だからこそのイレギュラーだったな」




