あいつら、そんなにランクが高いのか? ずいぶん態度がでかかったが
「いや、ほら。審判者事件が経って今日で一週間だろ? あの事件でなんていうか、自信が持てたとこあったんだけど」
「うんうん」
「この学園のランク至上主義をなんとかしようと思った。それから一週間。だけどなにも変わってないよな、って」
信也はどこか遠くを見るような目で校舎を見た。声は弱々しくて少しだけ落ち込んでいるのが分かる。
アークホルダーにとって、とりわけ信也にとって審判者事件は大きな出来事だった。あれをきっかけに自分は変われたと思えた。
けれど現実はこれだ。ランク至上主義は依然揺るぎない現実として立ち塞がっている。
異能という幻想は現実へと変わった。特別は夢物語ではない。
では現実は? この現実を夢や理想に変えることはできるのだろうか。
それは異能という名の幻想を以ってしても打破するのが難しい強敵だ。
信也は変化の見えない周囲に根を詰めているが姫宮はあっけらかんとしている。
「そうは言うけどさ、まだ一週間だよ? そんな劇的に変わることないじゃん。そんなに焦ることないと思うな」
「それもそうなんだけどさ。なんかこう、変化を感じないと不安にならないか?」
「うーん、それは確かに。気持ちは分かるかな。私もアイドルになりたいって夢があるし、それが近づいてるっていう手ごたえ? みたいなのがないと不安になるかも。でも結果を急いでも仕方がないんだし。それにさっきも言ったけどまだ一週間だよ? まだまだだって」
「ま、それもそうか」
姫宮からの励ましに自分を納得させる。知らず一人だけ焦っていたようだ。こうして話をするだけで不思議と胸の重石が下りる。それに小さく感謝して、信也は姫宮に振り向いた。
「おはよう」
「うん、おはよう」
朝の挨拶を言う。姫宮は笑顔で答えてくれた。
ランク至上主義の異能学園。そこには夢と希望があり、それらを支える現実がある。
それでも人は進んでいける。自分の道を見失わず、諦めない限り。
第三アカデミアの一日が始まる。
学校の正門前に信也と姫宮はたどり着く。入学式の時には咲き誇っていた桜は花弁の数を大きく減らし通い慣れた生徒たちが門をくぐる。世界最大にして最高の学園だ。きれいに整備された道や街路樹、視界に映る数々の建物。ここはまるで一つの街だ。
「いつ見てもすごいな」
たまらず本音がこぼれる。
「ほんとだよねー。ここに自分が通ってるってことがまたびっくり」
「同感だ」
そんなこんなで二人が正門を通ろうとした、その時だった。門の隅から声が聞こえてきたのだ。
「止めてくれよ! 中に入れてくれ!」
「駄目駄目、ランクFはお荷物なんだから入ってくるんじゃねえよ」
「そうそう、お前なんかいなくていいんだよ」
「そんな!?」
見れば一人の男子生徒が正門を通ろうとしているのを三人組の男子が塞いでいる。男子生徒は必死に抗議するが三人はゲスな笑い声を上げながら無視していた。
「あいつら」
「ひどい!」
信也が駆け寄るよりも早く姫宮が走り出す。
「おい、姫宮!」
信也が呼び止めるが姫宮は三人に近づいていった。
「なにやっとるかあー!」
「なんでなまってるの?」
姫宮は怒濤の勢いで三人の前に立つ。そのままビシッと指をした。
「止めてあげなよ! こんなこと格好悪いよ!」
「あ? 誰だよお前」
「アイドル!」
「いや、そうじゃなくて」
三人組の男は困惑しながらもう一度聞いてくる。
「お前のランクはいくつなんだよ」
「それは~……」
質問に姫宮は気まずそうに顔を逸らす。
「なんだ、お前も低ランクかよ。ビビらせやがっって。低ランクが調子乗ってるんじゃねえぞ」
「そうだそうだ。お前等は素直に上のランクの言うこと聞いてればいいんだよ」
「なら俺の言うことは聞くのかよ」
そこへ信也が到着する。話は聞こえていた。腹の立つ内容に目がつり上がる。
「おい、こいつイレギュラーだ」
「こいつが?」
「ランクA……」




