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268.治癒魔法は雄弁に語る⑳罠

 自分から“奴隷になってもいい”などという発言をしていては、どこで言質を取られて捕らわれてしまうか知れないのだ。

 契約を可能な限り強制的に履行させる魔法、制約はあるが対象を意のままに操る魔法、呪いとしてその身を蝕み続ける魔法──ある種の毒のように目に見えず、病のように音もなく忍び寄る──そういう魔法は存在する。

 そして魔法とは、魔法使い本人が意識しなくても、何かの拍子にうっかり発動してしまうこともあるものなのだ。


(レッドに生じた「呪い」が、まさにそれよね……)


 ただし普段は、互いに防御が効く性質のものなので、惨事が起きることはない。

 腕を捕まれたところで、たいした力の差がなければ、振りほどくことができる。

 誘拐されても、力があれば逃げることができる。

 それと同じで、魔力に大きな差がなければ、相手の罠に易々と囚われることはない。


 けれど、ヒト族の魔法使いと、ほとんど魔法が使えない種族の子供であれば、話は別だ。

 獣人の子供など、抵抗もなく罠にかかるだろう。


 亜人種狩りの中に魔法使いがいれば、そういった言質を使った罠を仕掛けてくる可能性は高い。

 力技で捕まえるよりは簡単だし、獲物を傷つけることもない。

 最初に自分から奴隷になることを約束させていれば、その後の調教も簡単になる。

 魔法にかかった本人さえ、状況を理解できないまま捕まっているのと、亜人種狩りに加わる魔法使いの人数が少ないことで、一般に知られていないだけだ。


(騙された瞬間、ただ言葉巧みに騙されただけなのか、そこに魔法が介在していたのか、魔法耐性のない獣人族の子どもにわかるはずもない──)


 実際、抵抗したり、逃げようと考えることを奪われ、封じられた状態で奴隷にされた子供は何人もいた──と、レッドは言っていた。

 すでに奴隷であった獣人たちには、魔法や呪いの有無を見抜くことはできなかったけれど、(いびつ)な言動をする子どもたちは、見れば状態異常であることがわかったという。


 ──例えば。

 広い平原で魔物に襲われ、仲間とはぐれた冒険者の振りをする者。

 方向感覚を失って困っているから、最寄りの村まで案内してほしいと頼む者。


 子供なら“大人のくせに迷子になるなんて、ヒト族ってバカだなあ”という小さな優越感と、純真な親切心でもって、案内を買って出るかもしれない。

 武器を持っていない人間(ヒト族)は、獣人族より弱い。

 亜人種狩りに見つかっても、戦えば勝てる。

 たとえ迷い人の存在が罠であっても、ヒト族ごときに負けはしない。

 大人でも、そう思い上がっている獣人がいるかもしれない。


「助けてくれないか」

 そう請われて気安く「うん、いいよ」と答えたところ、「今日中に亜人種を納品しないと困るから助けると思って捕まってくれ」という意味だったなんて話も、ないとは言い切れないのである。

 この場合、返事をすることで魔法にかかった者は、捕まることで相手を助けなければならなくなる。安易に魔法使いと約束をするということは、そういう危険性をはらんでいるのだ。


「近くの村まで案内してほしい」

 そう言うからには迷ったのだろうと思い、人間の村まで案内しようと歩み始めたら、なぜか足が勝手に自分の集落へと向かい、亜人種狩りの人間に集落の場所を明かしてしまった。

 そんな出来事が起こらないとも限らないのだ。

 村に案内する=人間の村、とは規定されていない文言に同意してしまったための悲劇だ。

 

 どちらの例でも、自分から約束してしまっているため、そこに介在した魔法を解除しなければ、逃れることは難しい。

 こういった事例は、人間同士でも枚挙に(いとま)がない。

 恐ろしいことに、同じことを魔力なしでやってのけるのが、奸智に長けた人間(ヒト族)という生き物なのである。 


 人間は、魔力を使わずに他人を操り、束縛する。

 爪や牙を使って戦う力がない者でも、それ以外の方法で他者を屈服させる方法があることを知っている。

 魔力が極小でも他人を呪い、罠を巡らせ、言いなりにすることが可能なのだ。

 人間が使う魔力の代替──それを“(カネ)”と呼ぶのである。

拙作をお読みいただき、ありがとうございます。

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