表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【不遇令嬢はエルフになりたい】〜介護要員として辺境の祖父の屋敷で働くよう命じられたが、ざまぁする間もなく実家が没落した件〜  作者: 一富士 眞冬
第2章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

265/277

265.治癒魔法は雄弁に語る⑰意趣返しとダンジョンの話-4

ちょっとグロ注意。

 *


 本当は、全身火傷なんて可愛らしいものではなかった。

 何度も顔を庇ったのだろうシアンの両腕は、皮膚が溶け崩れて筋肉組織肉が剥き出しになっていた。

 酸が口に入って喉を焼かれてしまったら、呼吸ができなくなる。

 それを本能的に察知していたのかもしれない。

 

 わたしは、テーブルの上の残った焼肉に視線を落とした。

 

 炎による普通の火傷なら、皮膚が溶け落ちることはない。

 炎で焼けば、炭化するのだ。

 わたしはそれを見たことがある。

 昔、まだ屋敷にいたころに襲ってきた刺客の一人だ。

 わたしが、暴走した魔力で焼き殺した。

 ひどい臭いがした。


 シアンの傷からは、それとはまた違った異臭がしていた。

 血と“ヘイト集中の妙薬”とも違う、もっと鼻を突くツンとした臭いだった。

 わたしはそれを知っている。

 アトリエで過ごすことが多くなってきたころ、襲ってきた刺客の死体を処分したときの薬剤の臭いだ。

 相手が、こちらを無力な小娘だと思って油断している隙に、毒を浴びせて死に至らしめた。


 死体に軽量化の魔法をかけ、下水の流れるドブ川まで運んだ。

 その近くの高架下で、死体の処理をしたのだ。

 雇った刺客が返り討ちに遭ったとわかれば、お継母(かあ)様を逆上させることになる。

 だから、刺客の人には失踪したことになってもらった。

 お継母様には、プロ意識に欠ける雑魚を雇ったから、依頼料を持ち逃げされたのだと思ってもらうつもりだった。


 小娘が一人、深夜に大きな箱を運んでいるという、怪しげな光景だったかもしれない。

 見咎められたら、妖精の鱗粉を使って切り抜けるつもりだったけれど、幸いにも誰にも見咎められはしなかった。


 妖精の鱗粉とは、幻覚を引き起こす魔法薬の名前であり、実際に妖精の成分は入ってはいない。紛らわしいけれど、その名前で流通しているのだから仕方がない。

 毒薬使いであるアイリスに対しては、そうした怪しい薬品の納品依頼も、時々あった。

 アイリス(わたし)にしてみれば、致死性の毒薬を作るよりは罪悪感も少なく、簡単だったので在庫もそれなりに持っていたのだ。

 なお、幻覚の種類を指定することはできない。


 毒になる植物は、意外と近場の森でも採れるものである。

 それだけ身近に毒草が生えているということなのだけれど、毒耐性のある人間で、なおかつ森に入って毒草を探し当てることのできる人物は、決して多くはない。

(だから被害も少ないのだけれど……)

 知識のない素人が摘んだところで、簡単に使えるものではないからだ。


 もっとも、誰かが見ていたとしても、声をかけようとは思わなかったかもしれない。

 夜中に大きな箱を運ぶ少女──どう見ても不気味だっただろう。

 わたしが運んでいた物体が、死体かもしれないと疑いたくなるような質量であれば、通報されていたかもしれないけれど、軽量化の魔法のせいでそうはならなかったのだ。


 箱の大きさからして、入っているものが死体だとしたら、大人の死体である。

 大人(の死体)入った箱を、年端もいかない少女が一人で持ち上げ、軽々と荷車から下ろし、中身をつかみ出すことなどできはしない。

 だからたぶんあれは人形なのだ、と見た者は思い込もうとしたに違いない。


(仮に、毒で悶絶死した人間の死体だと見抜いた者がいても、)


 苦悶の形相を貼り付けた死に顔(デスマスク)に、スライムの溶解液(培養濃縮済)をたっぷりと垂らし、溶けきったそれを下水に流している小娘──の風体をした怪しい人物に声を掛けようと思う者など、王都内を巡回している警備兵くらいだろう。

 が、下水の流れる下町の、さらに下流の掃き溜めになど、巡回の兵士は訪れないのだ。


 そんなこんなで、わたしは刺客の死体を首尾よく始末することができた。

 醜く焼け爛れ、溶け崩れる刺客(の死体)に同情などしなかった。

 スライムの溶解液が、人間の肉塊を浸食するときに発生させたツンとする異臭──それは下水の臭いに紛れて消えた。

 汚泥と化した刺客の死体も下水の底に流れて消えた。


 シアンの傷から漂っていたのは、そのときと同じ臭い。

 人の肉が酸で焼け、溶け崩れるときの臭いだった。

 

 *

拙作をお読みいただき、ありがとうございます。

気が向いたら下の方の「☆☆☆☆☆」を使った評価や、ブックマークなどでリアクションいただけたら嬉しいです(*^^*)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ