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【不遇令嬢はエルフになりたい】〜介護要員として辺境の祖父の屋敷で働くよう命じられたが、ざまぁする間もなく実家が没落した件〜  作者: 一富士 眞冬
第2章

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259.治癒魔法は雄弁に語る⑪反撃、あるいは意趣返し-2

 ある意味、最も性質(たち)の悪い者たちである。

 手を出してこないから、敵ではないと思って助けを求めれば、素気(すげ)ない態度で拒絶される。

 貴族が平民を見下すのと同じようなものだ。

 領内の平民のことは、税を納めさせるために必要だから無意味に虐げることはしないけれど、自分たちとは関係のない存在としてしか認識しない。


“あの子、平民でしょう?”

“なんでこのクラスにいるのかしら?”

“平民が上位の成績を取っても、役に立たないことがわからないのかしら”


 お仕着せの制服を着て、一見は身分差が目立たないようにしていても、出自は鋭く嗅ぎわけられる。


“あの子、私生児なのですって”

“嫌だわ、あの身なりで貴族の末席に連なるというの?”

“あの制服の継ぎ当て、ご覧になった?”

“お金がないのなら、学問などやめてしまえばよろしいのに”

“あんなみっともない者と同窓だなんて、こちらが恥ずかしいわ”

“わたくし、あの子がゴミを漁っているのを見ましたわ”


 ほんの少し、ペンのインクを分けてほしいと頼んだだけで、やんわりと断られた挙げ句、後から盛大に陰口を叩かれたときの記憶が蘇る。

 わたしだけではない。

 似たような目に遭った平民出身の生徒は何人もいる。

 それだけ、内心で平民を見下している貴族学生のほうが多かったということだ。

 表向き、学内では身分差による垣根を設けない──平等の立場で交流して構わないことになっていたけれど、建て前は建て前なのである。


 そんな彼女たち(傍観者)と同じ匂いを、一瞬だけれど、この獣人族の少年少女からも嗅ぎ取ってしまった。

 こういうのは、放っておくと悪化する。

 悪い子たちではないけれど、圧倒的に思慮が足りないのだ。


 自分たちより上の存在──稀少な種族や、凄い魔法を使う者、見目麗しい上位者──にはすぐ心酔し、軽々しく賞賛する一方で、そうではない者への思いやりに欠ける。

 獣人族の自分たちから見ても、さらに下の存在──奴隷身分の獣人に向ける態度は、奴隷ではない上位種族(ハーフエルフ)のわたしに対するものと違って、明らかに雑だった。


 それ自体は、浅薄(せんぱく)な子供のやることであるから、仕方がない。

 冷たいわけでもなく、攻撃的でもない。

 仲間外れにするわけでもない。

 けれど遠慮がなく、不躾で、どうしようもなく苛立ちを感じさせた。


 レッドだって、好きで奴隷でいるわけではない。

 奴隷になった理由を根掘り葉掘り訊かれて、楽しい気分がするはずもない。

 誰が好き好んで“今までで一番最低だった命令は?”とか“命令に背くと、首輪の魔法が発動するって本当? 試したことある?”などといった興味本位の問いかけに答えたいものか。

 思い出したくもないトラウマ級の出来事をほじくり返されて、嬉しい者はいないだろう。

 

(そもそもレッドは冒険者なのよ!)

 こなした仕事はどうであれ、本質は盗賊(シーフ)ジョブの冒険者なのだ。

 奴隷の中でも、命令されたことだけをこなし、呼ばれたら秒で駆け寄ることが仕事の下僕とは違う。


 そこをわかっていない。

 恐らく、田舎で奴隷と言えば純粋な労働力なのだ。

 畑を耕す牛馬と同等──それの少し賢いもの程度の認識なのだ。労働力として大切にはするけれど、決して同列には扱わない。

 だからこそ、平気で厚顔無恥な質問が飛ぶのである。


 *


「彼自身は奴隷狩りに捕まったわけではなく、奴隷商会で生まれ育ったらしいわよ」

 悪気はないのだろうけれど、その無邪気さゆえに不躾な子供たちの好奇心を、わたしが代わりに満たしてやる。

 放っておけば、この子たちはレッドに直接、同じことを訊ねに行くだろう。

 正直、酔っ払いよりも性質が悪い。

 

 レッドはきっと、何でもないことのように受け流す。

 受け流して、奴隷ではない同族の子供たちの質問にきっちりと答えるだろう。

 なぜなら同じ獣人族であっても、奴隷である自分よりは、奴隷ではない(・・・・・・)子供たちのほうが立場が上だからだ。

 わたしは、レッドをそんな屈辱的な目に遭わせたくはなかった。

 ヒト族の子供や、同族でも格上の大人相手にならまだしも、年齢の近い同族を相手に、身分差を意識せざるを得ないような状況に陥ってほしくなかった。

 ただの、わたしのエゴである。

 

 わたしは、少しずついただいていた薄切り肉を、無理して食べることをやめ、半分ほど残してフォークを置いた。

 “お腹いっぱいで、もう食べられない”

 そうとしか見えなかっただろう。

 でも本心は“これ以上付き合う気はない”という意思表示だった。

 最初は、せっかく用意してくれたのだから、残しては申し訳ないと思ったけれど、もうこれ以上は付き合い切れなかった。

拙作をお読みいただき、ありがとうございます。

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