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【不遇令嬢はエルフになりたい】〜介護要員として辺境の祖父の屋敷で働くよう命じられたが、ざまぁする間もなく実家が没落した件〜  作者: 一富士 眞冬
第2章

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244.宴会⑭(甘味料)

 わたしはお礼を言って、リエラさんのとっておき果実水(テンカジュース)をいただいた。

 一瞬、舌を刺すような刺激があって驚いたけれど、慣れれば甘くて美味しい、そして風味豊かな飲み物だった。


「わあ、美味しい!」

 と、思わず感嘆の声がもれた。

 リエラさんが隣で「そうでしょう?」と得意気な顔をして胸を張る。

 そんな仕草をしても、もともとが小柄だから、少しも尊大には見えないし、体も大きくなったように見えない。むしろ孫がいるような年齢だろうに、いちいち仕草が可愛いらしかった。


「この甘さはお砂糖……じゃないですよね?」

 あれは高級品だ。田舎で果実水に入れるようなものではない。

「ほとんど天然の甘さだけど、時には糖蜜草を使うこともあるわ」

「ああ、白糖蜜草ですか。あれ精製するの大変ですよね」

「そうそう、お若いのによくご存じね」


 王都で流通している白砂糖は、根菜の一種から作られていて、産地が限られていることと、精製するために大変な手間と労力がかかるために、高級菓子や、貴族のお茶会などでしか使われないような高級品になっている。

 庶民の口に入るのは、全く別の野草を使った代用品でしかない。


 糖蜜草という、煮詰めると甘みを抽出できる野草があって、これが砂糖代わりのシロップとして使われているのだ。

 白砂糖よりは安価だけれど、それでも平民にとっては十分な高級品である。

 わたしも、お店で買ったことはない。


 糖蜜草には白糖蜜草と黒糖蜜草の二種類があって、黒糖蜜草からはコクのある濃厚な味のシロップが得られる。

 けれどその名の通りに色が黒く、味にも強いクセがあるため、飲み物に入れるには適さない。もっぱら、主に料理の味付けや隠し味として使われている。

 

 白糖蜜草は、上手く精製すれば無色透明のシロップが得られるため、庶民向けに流通しているのは、主にこちらだ。

 蜂蜜や黒糖蜜草のシロップよりもあっさりとした甘さのため、万人に好まれている。

 

 純度の高い物はギルドでも買い取ってくれるけれど、作成に手間がかかるため、売るほどたくさん作ったことはない。

(何回も煮詰めたり漉したりしなきゃならないから、すごく面倒なのよね)

 精製工程をショートカットする魔法があったとしても、都近郊では糖蜜草自体の自生が非常に少ないのだ。


 *


 作ったものを褒められれば嬉しい。その気持ちはよくわかる。

(自分が作った料理を、美味しいと言ってもらえたら、それは嬉しいに決まっているもの)

 前に入れてもらった冒険者パーティーで、食事係を押しつけられていたころのことを少し思い出した。

 食べているときだけは、みんな素直でいい人たちだった。お世辞でも何でもなく、笑顔で“美味しい”と言ってくれたから。

 そのときだけは、彼らの善意を信じられた。


(リエラさんは、人間(ヒト族)のわたしがお料理を誉めても、同じように喜んでくれたかしら……?)

 リエラさんが親切にしてくれるのは、わたしのことをハーフエルフで、同族(亜人種族)だと信じているからかもしれない。

 こうして村を挙げて歓待をされているのも、ノアさんたちの恩人で、しかも亜人種だと思われているからかもしれない。

 同じ恩人でも、実はわたしが貴族家出身の人間(ヒト族)だと知られていたら、ここまで大袈裟な歓待はなかったはずだ。


 そう思うと、なんだか急に緊張してきた。

 ハーフエルフと呼ばれることを肯定し、人前で虹彩異色(オッドアイ)を隠さずに過ごすことは、これが初めてだ。

 わたしの身体には、エルフであるセレーナお祖母さまの血が流れているのは確かだから、全くの嘘を吐いているわけではない。

 わたしの目がオッドアイである以上、人間(ヒト族)であることを疑われる可能性もない。

 なのに、初めて“アイリス”として外出したときよりも、ドキドキした。


 アイリスの場合は、たとえ認識疎外魔法が破られたとしても、恥をかくのは自分だけだ。

 でも、ここでわたしが失敗したら、手のひらを返したように邪険にされて、全員まとめて夜の平原に放り出される恐れがある。

 歓待されている分、裏切られたときの怒りと失望は大きいだろうから、可能性は()きにしも(あら)ずだ。

(せ、責任重大だわ……)

拙作をお読みいただき、ありがとうございます。

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