239.宴会(旨味のない依頼)
騎士というか従士も含め、主君に忠誠を誓い名誉を重んじる者たちと、誰にも媚びず仕えず、己の才覚のみで稼ぎ、金銭のためにこそ命を張るような者たちを、同じ集団に組み込めば何が起きるか……。
旅の間中、ギスギスした関係が続くのである。
それだけで済めばまだいいほうで、最悪、有事の際の連携にも支障をきたすようになる。
「ま、獣人族は、傭兵でなくても嫌われてるから大差ねえけどな!」
前にジャックさんが言っていた。
獣人族は、傭兵になるのも、冒険者になるのも大変なのだ、と。
まず、獣人族が傭兵団を結成したところで、簡単には傭兵ギルドに入れてもらえない。
人間ならば、未熟な若者でもそれなりに新兵として歓迎されるが、獣人族に対してはそれがない。
人間に対しては誰にでも開かれている門戸が、獣人族に対しては開かれていないそうなのだ。
フリーで難易度の高い案件をこなし、実力を示し、知名度を上げ、ようやく加入を許される。人間のように、無条件で加入を許されることはないのだそうだ。
傭兵ギルドとしては、本当は亜人種の加入など拒否したいところだけれど、大前提として実力主義を掲げているために、実績のある者たちは拒否できないらしい。
というわけで、まずジャックさんたちは、傭兵として活動を開始し、苦労して傭兵ギルドに入れてもらった。
街道沿いの小さな町の傭兵ギルドから出発し、各地で領土境の小競り合いや、隣国との国境争いに参戦し、十分な戦果を上げてから、ようやく加入を認められたそうだ。
「で、傭兵として実績を積んでから、やっと冒険者になれたってわけよ」
ジャックさんが言っていたのは、そういうことだ。
冒険者ギルドへの加入には、人種による制限はないはずなのだけれど、当時はギルド職員の偏見で拒否されることが多かったのだそうだ。
最近になってからは、国による規制緩和とでも言うべきか、亜人種の冒険者登録を拒否すること自体が罰則の対象となったため、亜人種だからという理由で門前払いされることはなくなった。
(だからハーフエルフにしか見えないわたしでも、登録受付を通過することができたのだけれど)
ジャックさんもノアさんも、この国では年々、亜人種に対する規制が緩くなってきていると言っていた。
冒険者国家としての体面か、帝国との差別化をはかるための施策か、単なる冒険者の人手不足か、それはわからない。
差別が減るのはいいことなのだけれど、そのせいで獣人の子供達が気軽に“冒険者になる!”と言って集落を出て、奴隷狩りに捕まる事態になっているのもまた、事実なのだという。
*
「普通は冒険者ギルドに依頼を出すが、出したところで、辺境での依頼を受ける冒険者がいると思うか?」
ウランさんは言う。
辺境には、冒険者が喜ぶようなものが、何もない。やたらと強い魔物が棲息しているだけの、ただの田舎だ。
稼いでも遊ぶ場所がない。
出稼ぎと割り切るには、危険度が高過ぎるし、移動に時間がかかり過ぎる。そのため、拘束期間も長くなる。
経験値を稼ぎ、レベル上げをしたい冒険者なら興味を持つかもしれないけれど、もっと安全にレベル上げができる場所は、他にいくらでもある。
冒険者にとっては、全く旨味のない依頼なのだ。
「そもそも、Bランク後半からAランク程度の実力がないと、荒野の谷を超えて辺境領へは入れまい」
荒野の谷は“辺境”だけれど、辺境領という明確な領土の境界は、荒野の谷を超えた辺りなのだという。
(実はわたしたちも、それで困っていたのよね)
残念ながら、中級冒険者であるリオンとクロスでは、荒野の谷を越えられるほどの実力がないらしい。
ウランさんの言う、適性レベルに達していない冒険者そのものである。
(大都市であるアレスニーアまで行けば、大きな冒険者ギルドがあるだろうから、一人くらいAランク冒険者を雇うことができるかもしれない──という話だったけれど)
この村や周辺の村から、獣人傭兵の方々を護衛に雇えないかしら?




