233.宴会(村の掟?)
「冒険者になりたいって言って村を出たがってるんだけど、族長の許可が下りなくて、すっかり腐っちまってるんだよ」
「あなたたち、ここに来る途中で絡まれたんですって?」
「大丈夫だったかい? 怪我はなかったかい?」
新しい大皿を運んできた犬族のおばさんと、お茶のポットを持ってきた猫族のおばさんが、給仕をしながら取り留めもなく話し始める。
どうやら来る途中の乱闘騒ぎが、断片的に伝わっているらしい。
わたしは「ええ、まあ……」と曖昧に誤魔化す。
まさか、わたしの従者が応戦して、クロスが水をぶっ掛けて追い払いましたとは言えない。
「族長もさっさと出立の許可を出しゃあいいのにねえ」
「お兄さんたち、お酒はいけるクチかい? 地酒もあるけど、もうちょっと待っとくれね。宴会と同時に強い酒を出すと、すぐに男衆が飲んだくれて収拾つかなくなるからさ、」
大柄で気っぷのいい雰囲気の犬族で、クリーム色のふさふさした耳と尻尾が特徴的なエルさん。
「そうそう。ウランさんから止められてるのよ。今日の主役はこちらのお嬢さんなんだから、酔っ払いばかり増えたら困るって言って、」
猫族は細身の人が多いのか、エルさんと並ぶと小柄に見える、サバトラのような髪色をしたミーナさん。ちょっとお洒落だ。
二人は空になった皿を片付け、新しい料理を置き、わたしたちのテーブルと周囲のテーブルへ、甲斐甲斐しく飲み物を注いで回る。
「俺たちのことは気にしないでくれ。俺たちは、アリアちゃんの御相伴にあずかっているようなものだから」
「ああ、これで十分だ」
リオンとクロスのグラスに入っているのは、それぞれエールとワインのようだった。
「おやまあ、ヒト族にしちゃ珍しく謙虚な兄さんたちじゃないか!」
リオンの返答に、エルさんが大袈裟に驚いた様子を見せる。
いったい、前にこの村を訪れた人間は、どんな振る舞いをしたのだろう。
「よしなさいよ、そんな言い方。失礼でしょ」
空いた皿を片づけながら、軽く嗜めるのは宿屋の奥さん。名前はリエラさんといった。
「ああ、悪かったね。こないだのヒト族があんまりあれだったものだからさ、つい……」
「ここでは村を出て冒険者になるのに、族長──ノアさんの許可が必要なのですか?」
わたしは話題を変えようと、先ほどの会話で疑問に思ったことを問いかけた。
「ああ、そうさね。冒険者になりたいって子は、族長と手合わせして、認められなきゃあ出立は許されないんだよ」
「そういう“しきたり”があるのですか?」
「しきたりっていうか……」
わたしが、いかにも獣人族らしい決まり事に感心していると、エルさんは困ったように口ごもった。
「あいつらが弱ぇからだろ?」
すると、隣で山盛りのカラアゲを頬張っていたレッドが、一息に口の中のものを飲み下して言った。
「どういうこと?」
わたしはレッドに問い返した。
「あの程度じゃ、すぐ奴隷狩りに捕まるぜ。四人がかりで、オレ一人にも勝てねえんだから」
一瞬、エルさんとミーナさんを含む周囲の人たちが、全員「えっ?」という雰囲気で固まった。
「あんた……一人であの四人組と戦って勝ったのかい?」
周囲の声を代表するように問いかけたエルさんに、レッドが何でもない調子で肯定した。
「あいつら喧嘩慣れはしてるけど、それだけっつー感じ。タイマンなら、ヒト族の初級冒険者よりかは強いだろうけど、ダンジョンに放り込まれたらすぐ死ぬだろうな」
言いながら、レッドは運ばれてきたばかりの大皿に手を伸ばす。
今度の皿には小魚のカラアゲが大量に盛られていた。
目を輝かせてそれらを口に放り込んだレッドが、感激したように声を上げた。
「うまっ! おばちゃん、これなんて魚?」
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