表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【不遇令嬢はエルフになりたい】〜介護要員として辺境の祖父の屋敷で働くよう命じられたが、ざまぁする間もなく実家が没落した件〜  作者: 一富士 眞冬
第2章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

223/277

223.妖精の取り替え子

 わたしには、お手本になるような家族がいなかったから、必要なことは本で学んだ。寄宿学校の授業と図書館の蔵書だけが、わたしに正しい貴族のあり方を教えてくれた。

 それも、亜人種(ハーフエルフ)として生きることを決めた今は、意味のない知識となってしまった。

 どこかの村で平民として暮らすのならば、貴族の子女として学んだ道徳や礼儀作法など、邪魔になるだけである。


 とにかく、どうにかして早く魔石を現金に変えよう。

 クロスのお師匠様である方にお会いした結果、魔法学園への編入話がどう転ぶとしても、まずはお金を作ってレッドとの約束を守らなければならない。

 約束を反故(ほご)にして軽蔑されるくらいなら、魔法学園に行くほうがマシだ。


(貴族でなければ、ずっと同じ従者を手元に置いておくことなんて、できないわよね……)

 従者や使用人が、一生を通して同じ家や主人に仕える風習があるのは、貴族社会の中だけだ。


 平民の場合は、家や主人に仕えるという概念が薄いため、転職や転居を(いと)わない。

 基本的に、子は親の仕事を継ぐものだけれど、鑑定の儀の結果次第では別の職業を選ぶこともあり得るからだ。


 対して貴族社会では、子の鑑定結果が身分に相応しくないものであれは、()のほうを()()えることなど、ざらである。

 親族から、そこそこの鑑定結果を持つ子供を養子として迎え入れ、冴えない結果を言い渡された子供は、逆に養子に出されたりもする。

 妖精の取り替え子(チェンジリング)のような真似を、人間がやるのだ。


 子供にとっても親にとっても、鑑定の儀など呪いでしかない。

 けれど、不相応な者が家督を継げば、領地経営が成り立たなくなるのだから仕方がないとも言えた。

 有事に対処できるだけの魔力を持ち、領民を守り、統治することができないのなら、貴族を名乗る資格がない。

 これは貴族の成り立ちにも関わる命題で、今世まで引き継がれた悪しき風習の一つでもあった。


(わたしも、魔力が少ないというだけならば……)

 もう少しマシな人生だったかもしれない。

 たとえシャーリーンと入れ替えられ、余所の家に出されたとしても、その家の養女としては存在を認めてもらえたはずだ。


 けれど実際は違う。

 わたしは、魔力はあったのに“属性なし”と判定された。

 それは貴族として不適格であるという以前に、人間として異常──異端ということだったのだ。

 魔力が少ない人間はいても、属性を持たない人間はいない。

(その上、病のせいで亜人種(ハーフエルフ)としか見えない色に、瞳の色が変わってしまった……)

 お父様の嫌いな、亜人(ハーフ)色彩(いろ)に。


 そのせいで、最初から存在しなかった者として扱われた。

 存在していないのだから、イーリースお継母(かあ)様やシャーリーンがわたしに対してどんな仕打ちをしていようと、誰もが我関(われかん)せずを貫いた。

(わたしはずっと、そこに居たのに──)


 でも、それも仕方がないと言えなくもなかった。

 ヴェルメイリオ伯爵家の当主であるお父様が、存在しない者として扱うように命じたならば、イーリースお継母(かあ)様もシャーリーンも使用人も、誰も逆らえはしないのだから。


(いいえ、違う──)

 存在を認めた上で、一歩間違えば死ぬような虐待を加えることと、存在しないものとして、殺す前提で接することには雲泥(うんでい)の差がある。

(好きの反対は嫌いではなく、無関心だとはよく言ったものだけれど……)

 取り替え子として余所の家に出されたほうが、どれだけマシだったかもしれないと、考えたことは幾度もあった。


 少なくとも、食事がカビた固いパンと虫入りスープだけであっても、最初から毒を盛られることはなかっただろう。

 今、わたしが元気に生きていられるのは、(ひとえ)にセレーナお祖母様が与えてくださったという恩寵のおかげでしかない。


 本当に、わたしはどれだけお父様から(うと)まれていたのだろう。

(政略結婚の道具にもならない娘では、仕方がないのかもしれないけれど……)


 亜人種の妻など、多額の持参金を付けたところで、下級貴族だって嫌がるに決まっている。

 いくら伯爵家との繋がりができたところで、人前に出せもしない女など、“お飾りの妻”にもならないのだから。

 そもそも、貴族の家から亜人種を嫁がせること自体が恥なのだ。伯爵家が下級貴族に頭を下げて「頼むから貰ってやってくれ」などと、言えるはずもなければ、言うはずもない。


(それなら、なぜ──)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ