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【不遇令嬢はエルフになりたい】〜介護要員として辺境の祖父の屋敷で働くよう命じられたが、ざまぁする間もなく実家が没落した件〜  作者: 一富士 眞冬
第2章

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221/280

221.とある貴族の……

「ケンカっ早いのは獣人の性分みたいなものだから仕方ねえさ」

 モントレーおじさんは、そう言ってさらっと流してくれた。

 けれど、イザークさんのほうは面倒くさいところに突っ込んできた。

「先ほど、彼のことを“従者”と言ったのか?」


 通常、人間(ヒト族)に連れられた亜人種は“奴隷”である。“従者”と呼ばれることは、まずない。

 その上、従者の主人であるわたしが亜人種(ハーフエルフ)なのだ。

 いくらエルフと猫族に、亜人種としての格差があるとはいえ、不思議に思うのも無理はない。


 *


 わたしたちはイザークさんやモントレーさんに、打ち合わせ通りの設定を話しながら、宴会場までの道のりを歩いた。

 曰く、わたしはとある(・・・)貴族の庶子である──と。

 村の三人の獣人さんたちはそれを聞いて、口には出さないけれど、全てを察したような顔をした。

 

“ああ。どこぞの貴族が、遊びで手を出したエルフ女の子供なのか”

“どうりで素性を隠したがるわけだ”

“貴族の親父さんにとって、人生最大の汚点だしな。探し出して証拠隠滅しようとするのも無理はない”


 そんなところだろう。

 わたしは彼らの勝手な想像を、肯定もしなければ否定もしない。

 彼らの想像を補強するように、追加の情報を与えていく。


 曰く、冒険者として市井で暮らしていたけれど、母が亡くなったため、辺境に住む親戚のところへ身を寄せようと思い、旅をしている。

 リオンとクロスとは、旅の途中で知り合ってパーティーを組んだのだ、と。


 知り合ったのはごく最近であり、互いの好物を知らなくても、不自然ではない程度には付き合いが浅いことを強調しておく。 

「あと、レッドは正真正銘わたしの従者よ」

 そう言ったところで、村の獣人たちには理解できない。

 誰もが、亜人種は“従者”というジョブには()けないと思っているからだ。

 

まだ(・・)身分は奴隷だけれど、これは唯一のわたしの従者よ」

 そこには、いずれ奴隷身分から解放して本当の従者にするつもりだ、という意思を(にじ)ませておく。

 奴隷身分から解放し、奴隷商会からも自由になったら、レッドは冒険者として旅立ってしまう。

 けれど、それまではわたしの従者なのだ。

 

 理解してもらえなくてもいい。

 たいがいの者は、若い娘の“ごっこ遊び”だとしか思わないだろう。“お姫様と騎士”のようなごっこ遊びだ。

 ましてや、わたしが貴族の庶子であると聞かされた三人の獣人たちは、余計にごっこ遊び──貴族のお嬢様とその従者──の設定なのだと思い込むはずだ。


 よく考えたら、貴族家とは縁を切ってハーフエルフとして生きるのだと言いながら、貴族のように従者を傍に置きたがるというのも変な話だ。

 けれど、平民でも裕福な商家や豪農では、使用人を雇っているのだから構わないだろう。

(だって、今さらレッドを奴隷と呼ぶことはできないもの)


 最初からできなかった。

 わたしはお父様の裏の商売である、奴隷売買が嫌いだった。

 だから、奴隷も奴隷制度も嫌いだった。

 奴隷制度に賛同する人間と、奴隷売買に出資する人間は、もっと嫌いだった。

 嫌いだからといって何ができるわけでもないのだけれど、成り行きでレッドと契約することになってからも、彼のことは奴隷ではなく従者として扱ってきた。

 わたしにとってレッドは、搾取の対象にされる奴隷ではなく、人格のある一人の従者なのだ。


 魔石が大金になるのなら、アレスニーアに着いたらレッドを買い上げて解放してあげることができるだろう。

 冒険者になるのなら、早いほうがいい。

 アレスニーアのように大きな都市なら、新しくパーティーを組むのも依頼(クエスト)を探すのも楽だろう。

 もう二度と、わたしの都合で瀕死にさせるわけにはいかない。

(辺境までは、リオンとクロスが一緒に行ってくれるというし……)


 レッドには、いずれ買い上げて奴隷身分から解放するという約束をしている。

 どうしてそんな話の流れになったか、細かいことは忘れたけれど、約束は守らなければならない。

 魔石が大金になることがわかった今、お金が足りないという言い訳はできない。

 せめて辺境に着くまでは……と先延ばしにしたところで、その行為が欺瞞(ぎまん)だということは、わたしがレッドの立場でもわかる。

 お互い、嫌な気分になるだけだ。

 どうせ最後になるのなら、気持ちよく別れたほうがいい。

(辺境までは……一緒に行けると思っていたのにな……)

拙作をお読みいただき、ありがとうございます。

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