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【不遇令嬢はエルフになりたい】〜介護要員として辺境の祖父の屋敷で働くよう命じられたが、ざまぁする間もなく実家が没落した件〜  作者: 一富士 眞冬
第2章

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220.水も滴る……

「他には?」

 背中側もまくって確認した。

 行動がほとんど痴女なのは自覚している。往来で男性が女性に対して行ったら、明らかな犯罪行為なのだから。

「よせって! もういいって! 大丈夫だから!」

 男性ばかりとはいえ、さすがに冒険者仲間でもない村人の前でひん剝かれて、慌てふためくレッド。

「ちゃんと治さないと、美味しくご飯食べられないわよ! 魚料理もお願いしてあるんだからね!」

 ご飯と言われると弱いのか、逃げ腰だった身体が「うっ」と止まる。

「だからってこんな道の真ん中で……」

「自業自得でしょ」

 男の羞恥心に構う気はない。

 淑女の態度ではないけれど、上半身だけなら人前でひん剝いたところで問題はない、とお姉さんたちから教わっている。

 だいたい、道の真ん中といっても、絶えず人が行き交う町の中ではないし、真っ昼間でもないのだから、気にするほどではないはずだ。


「あの……いったん戻って着替えますか?」

 おずおずと宿屋の旦那さんが提案してきた。

 レッドが水浸しの泥だらけなのを見ての発言である。

 確かに、泥水を滴らせながら宴会場に来られても困るだろう。

「心配いりません!」

 わたしは笑顔で応えて、レッドに特大の浄化魔法(クリーン)をお見舞いした。

 次いで、乾燥(ドライ)の魔法も掛けて、濡れた髪や服を乾かす。


「えらいもんだなぁ」

 慣れた調子で連続してかけられる生活魔法に、モントレーさんが感心したような声を上げる。

 イザークさんはうんうんと頷いている。

「あ……ごめんなさい。さっきの四人、泥々のまま行かせてしまったわ。あと、わたしの従者が村の方に無礼を働いて申し訳ありませんでした」

 従者の失態は主人の責任。わたしは、モントレーさん達に頭を下げた。


「構わない。悪ガキどもにはいいクスリだ。あいつらは元々、宴会に出る気もなかっただろう」

 と、気にも留めないイザークさん。

「しかしスゲーな。お前さん、あの四人を相手に互角とは」

 と、気に留めないどころか、感心したような口振りでレッドに声をかけるモントレーさん。


 悪ガキ四人組は、普段から暴れているから喧嘩慣れしていて、同年代の間では負け知らずらしい。

 明らかに、彼らより年下で小柄なレッドが善戦していたので、興味を持ったらしい。鼻っ柱を折られた四人組が、明日からどんな顔をして村を歩くか楽しみだ、と大きく笑った。


「あまり褒めないでください。調子に乗るから」

 わたしはレッドを傍に呼んで、改めて二人で頭を下げた。

「……すんませんでした!」

 頭を押さえてうながすと、不承不承、形ばかりの謝罪をするレッド。

「ここが田舎の村で、相手が獣人族でよかったわ。これが王都で人間相手だったら、捕まってたわよ」

「……」

 人間の冒険者同士でも、怪我をさせた、させられたという状況では揉め事に発展する。下手をすると、役人に突き出されるか賠償責任を問われることになる。

 

(レッドが本気を出していたら、あの四人は一瞬で死んでいたはず……)

 というのは黙っておこう。

 いくら身体能力に優れた獣人族で、喧嘩慣れしている若者と言っても、所詮は冒険者でもない素人である。本職の盗賊や暗殺者を相手取るのに比べれば、楽勝だっただろうし、素手で十分に対処できたのだろう。

 だからレッドは、半獣化を解いて戦ったし、短剣も抜かなかった。

(短剣が借り物だから、っていうのもあるかもしれないけれど)

 キレ散らかしていたくせに、越えてはならない一線だけは(わきまえ)えていたことは、褒めてもいい。


 わたしは押さえていたレッドの頭から手を離しかけ、やはりもう一度手を伸ばして軽く撫でた。

 レッドの身体が一瞬、怯えたように強ばった。

「本気を出さなかったのは、えらかったね」

 小声で囁いた。

(レッドが本当はもっとずっと強くて頼りになることは、知っているから大丈夫よ)

「ごめん……」

 応えるように絞り出された言葉には、今度は何らかの気持ちが込もっていた。そして、強ばっていたレッドの身体から、ふっと力が抜けていつも通りの雰囲気に戻る。

「腹減った」

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