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210.エルフになりたい㉑二人の課題

「レッドはせめて、魔石の魔力量だけは見定められるようになれ」

 クロスは言った。

「そんなの、どうやって訓練すればいいんだよ」

 レッドは、無理難題を押し付けられたように困惑している。


 それはそうだろう。レッドは魔法使いではないから、魔法周りの訓練の仕方を知らない。

 わたしは最初から、魔力が“見えた”し、魔力の波長も“読めた”ので、教え方もわからない。そもそも、盗賊(シーフ)のレッドに魔力や魔法のあれこれを教えようと思ったことなどなかった。

 自身を奴隷身分であると正しく理解している少年に、人間の従者のように振る舞えと、ただでさえ無理を言っているのだ。生活するための手伝いをしてくれるだけで、十分にありがたかった。


「とりあえず“なんとなく”で判断するのをやめることだな。お前(レッド)には魔力の波長は見えないだろうが、直感で選ぶにしても、何か判断基準があるはずだ。それを探して、言語化できるようになれ」

「なんとなくこっち(・・・)だと思った理由……ってことかよ」

 レッドは考え込んだ。


「アリアの回答は満点ではあるが、もっと常識を学ぶことだ」

 わたしは魔法使いとしての一般常識がなさすぎる、とクロスからお説教を受けた。

「アレスニーアの魔法専科の学生にも、魔石から魔力の量、波長、出所(でどころ)──天然物か否か、あるいは何の魔物から採れた魔石か──そういった複数の事象を読み取れる者はいない」

 クロスは、わたしの視力が良すぎるのだと言った。

「魔法使いとしての高い素質がある証拠だが、あまり表でその才能をひけらかすな。少なくとも、名のある魔法使いが後見に付いていることが広まるまでは、大人しくしておけ。余計な厄介事に巻き込まれて利用されるぞ」

「別にひけらかしているつもりは……」

「無意識にやらかすだろう。まずは一般的な魔法使いの姿を知れ。一般より少し上、くらいに見えるように調整しろ」


 常識って、なんだろう。

 わたしにとって一般的な魔法使いの姿とは、属性魔法が使える魔法使いのことだ。

 人より魔力量が多いことは理解しているけれど、見えているものについて他の魔法使いと答え合わせをしたことはないから、どの程度が適正なのかよくわからない。

(少なくとも、見えたものを全部を口に出したら駄目ってことね)

 今まで他の魔法使いと話す機会がなかったから、気づかなかった。

 それに、人前ではあまり右目を使わないようにしていたから、指摘されなかったせいもある。

 

 でも実のところ、視力がいいのは右目だけである。

 右側だけは、エルフのお祖母様がくれた恩寵──特別な目だから。

 これがなければ、わたしは半人前にも満たない、出来損ないの魔法使いだ。この右目のおかげで、なんとか“半人前”を名乗ることができたのだ。


(右目の恩寵こと……話しておいたほうがいいのかな……?)


 褒めてもらうと、なんだかズルをしているような気分になって心苦しい。

 今のところ、わたしが右目を隠していたのは、虹彩異色(オッドアイ)だから、ということになっている。

 オッドアイというのは、長耳と並ぶハーフエルフの特徴であるから、それを隠すために片目を髪で覆っていた──のだと思われているはずだ。


 それは嘘ではないけれど、理由の全てでもない。

 両目の色が違う虹彩異色(オッドアイ)であることを隠すためなら、別に右目でなくてもよかったのだ。

 左右どちらかを隠せばいいのだから、左目でもよかった。

 リオンやクロスは、たまたま右目が紅玉色というとても珍しい色であったから、より目立ち難いように右側を隠したのだと考えているかもしれない。


 でも、理由のもう半分は“見えすぎるから”に他ならない。

 この右目は、()えないほうがいいものまで、()えてしまうことがあるからだ。

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