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こじらせぼっちはハーレムエンドを目指さない  作者: 猫派
二章 このハーレムは重すぎる
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五節 偏愛と変愛と返愛と



 その後、せっかく集まったのだからと、四人で近くのショッピングモールへ行く事になった。俺としてはこの暑い中、外を歩く気は微塵も起きないのだが、もし逃げたと見なされたら待っているのは軟禁生活である。


 ぶっちゃけ普通に脅迫である。主犯格がストーカーの前科持ちなので冗談に聞こえない辺り闇が深い。美少女三人に軟禁されるとか羨ましがる奴も多かろうとは思う。


 実際、俺だって彼女たちを憎からず思っている訳なので悪い気はしないが、できればそういうのはもう少し順を追ってお願いしたい。ぼっちは環境の変化に弱いデリケートな生き物なのだ。


 店を出ると、もわっとした湿度の高い風が肌を撫でる。あぁ、やっぱり家に帰ってゲームでもしていたい……


 目的地まではここから歩いて行ける距離だ。アスファルトの照り返しがきついが、向こうに着けば少しは涼しいだろうから我慢して歩くしかない。


 雲一つない空の下、歩道を四人で歩く。そういえば、こんなに大人数で道を歩くのは初めてかもしれない。やばい、なんか楽しくなってきたぞ。




「あ、そう言えばパン少女よ」


「えぇ……いい加減名前で呼んでよ」


「そうか? ぴったりだと思うんだけどなぁ……。登校中とか、パン咥えて走ってそうだし。あと、いかにも少年少女っぽい感じで、少女よ、って呼びかけるのがしっくりくる」


「それは私がちっこいって言いたいのか……! それに、イメージがどうとかじゃなくて、私はただ名前で呼んでほしいって言っただけじゃん……」


「……そうか」




 俺が下の名前を呼んでやると、見る間に顔が真っ赤になった。口元が緩んでいるのをみるに、喜んでくれているらしい。というか、こいつも俺の事が好きだったのか? 全然気付かなかったぞ。


 いや、決めつけるのはまだ早い。単純に友人として、俺の心のオアシスになってくれるつもりなのかもしれない。今はボーッとしているみたいだから後で直接訊いてみよう。この手の勘違いほど恥ずかしい物はないからな、うん。




「へぇ……随分サービスするんですね。その子がお気に入りですか? 妬けますね」


「睨むのはやめろ……っていうか、お前はこの程度で嫉妬する柄じゃないだろ。俺を追い詰めて遊ぶんじゃない。そのうちストレスで禿げるぞ」


「私はご主人様が禿げても好きだよ」


「嘘ですね。あなたは真っ先に見切りを付けそうです」


「マジかよ。その時こそ俺は鬱になるぞ。心に深い傷を負って」


「やだなぁ、ご主人様はともかく、こんなに可愛い女の子二人を捨ててどっか行ったりしないよ?」


「近付かないで下さい、この変態」


「……泣いていい?」


「本当に泣きたいのはこっちだぞ。お前、俺を敬う気全くないだろ……」


「そんな事ないよ? ご主人様が今ここで裸になれって言うなら喜んで脱ぐね」


「その時は私が通報しますね。危険人物が一人減って好都合です」


「ふーん。それなら先にあなたの口を封じなきゃね……」


「……な、なにを……!?」




 手をわきわきさせながら美少女に襲いかかる美少女。顔を近づけてきゃあきゃあ言いながらじゃれ始めたので、目を逸らす。困ったな、ついに話し相手がいなくなってしまった。


 俺の事が好きな女の子三人に囲まれているはずなのに、みんな俺を無視してるってどういう状況だ……いや、ぼっちとしてはその方が居心地が良くて助かるけど。


 そもそも、考えてみればおかしな話だ。俺はどこにでもいる平凡な男だし、人とのコミュニケーションに関してはむしろ避けてきたくらいだ。フラグだって立てた覚えはない。


 それなのに今俺は、複数の女の子に好意を抱かれている。その上、誰か一人を選ばなくて良いなんて、男なら誰でも一度は夢見るような話だ。俺ばかりこんなに幸せで良いのだろうか。




「……あのっ!」


「あ、あぁ。なんだ?」


「ふぅ、やっとこっちを向いてくれた。えっと……良いですか? 私は、あなたを好きになったんです。あなたが何かしたからとか、過去に何があったからとか、そういう理由じゃありませんから」


「……なぁ、お前やっぱり俺の心が読めるのか?」


「……はい。あなたの事なら、何でも分かりますよ。あなたの事が好きですから」


「何でも分かるのか……」


「あ、私もご主人様が何考えてるか分かるよ! ご主人様が大好きだからね!」


「お前のは、なんか軽いな」


「え、ひどくない……?」




 ……確かに、好かれる理由なんて、俺が考える事でもないか。彼女たちは俺を好きで、俺は三人みんなを大切にしたい。俺と彼女たちはそれぞれに出会いがあって、愛の形だって三者三様だ。


 その結果として今があるなら、こんな幸せも悪くない。暑さで靄のかかる頭で、そんなのろけた事を考えていた。

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