三節 お医者様でも草津の湯でも
「ハーレム……?」
「そう。ハーレム」
「むぐぐ……そう来ましたか……」
いまいち分かってなさそうなツンデレちゃんに対して、妹ちゃんの反応は渋い。彼女には妹としての立ち場がある。家族としては至極まっとうな対応だろう。
とりあえず私は、鍋の具をつまみながら、本日二度目の逃げ道を使って説得を試みる。
「なにも海外に移住してみんなで結婚、なんて話じゃない訳だし、とりあえず彼が一人を選ぶまでお試しで、ね?」
「別に強くは反対しませんけど……それを言い出すにはちょっと早すぎませんか? まだ兄ちゃんの気持ちも聞いてないんですよ?」
ぐっ……さすがに痛い所を突いてくる。私だけ既に告白しようとして振られかけている事は、知られる訳には行かない。プレッシャーをかけようにも、実妹である彼女には通用するはずもない。
やはり障害となるのは家族か……
「それにしても、あんたがそんな事言い出すとはね……」
「まぁね……私にも色々あるんだよ」
「……本当に、意外っすね。あなたは行動力も決断力もあるし、たぶんあたしよりも頭が良い。あなたが本気になれば兄ちゃんだって……」
「ご主人を見くびりすぎだよ。小手先の策を弄した所で、騙されるような人じゃない。私が思うに、女の子を見る目はあるよ、あの人……」
私が惚れるほどの子を二人も惚れさせているんだから確かだ。
「そんな大した奴には見えないけどねぇ……」
「ふぅん。それじゃああなたはなんで彼を好きになったのかな?」
「ふぇっ?! ち、違う! 好きになった訳じゃないから! ただ、あいつが私の知らない所で誰かと付き合って、私より先に、その……結婚とか……したりするのがいけ好かないってだけで……っ!」
「……それは、彼の初めては渡さない宣言って事で良いのかな?」
「は、はじめてって……っ! そんなつもりで言ったわけじゃ……うぅ……」
「それにしても、結婚とはまた大きく出ましたね。明るい未来予想図ですか? 子供は何人欲しいとか、決めてたりするんすか?」
「妹ちゃんまで!? 良い人のお嫁さんになりたいって普通の事じゃ……」
「お嫁さんかぁ……」
「良いですね、お嫁さん……」
「ちょっ、ニヤニヤすんなよ! 良いだろ別に!」
耳まで真っ赤になっちゃって、可愛いなぁ……。彼がいじめたくなる気持ちも分かる。見た目も小動物みたいだし。
ショートボブの髪にくりくりの目。どこか我の強そうな顔立ちは、いいとこ中学生くらいにしか見えない童顔だ。背もちっちゃいし、やっぱり中学生にしか見えない。
「……なに?」
「うん? 可愛いなって」
「なっ……!?」
「……うん。驚いた顔もかわいい」
「見境なしかよ……」
「あっ、そろそろうどん入れる? シメにさ、買ってきたんだよね」
「お好きにどうぞ。あたしはもう満腹なんで」
「あ、私ももういいかな……おなかいっぱい」
「そう? じゃあいっか」
ツンデレちゃんはちょっと引いてるように見えた。女の子が女の子を可愛いって言うのは、やっぱり少しおかしいのかもしれない。高校でただ一人の友人の影響を受けている事は否定できない。
なんとなくで人を好きになってしまうあたり、私も結構惚れっぽいたちなのかもしれない。でも、人間こればっかりは理屈じゃどうにもならないものだ。こういうの、なんていうんだっけ……えっと、たしか……
具のはけた鍋を見てふと思い付いた事を口にしてみる。
「ねぇ、今度みんなで温泉にでも行こうか。ご主人と後輩ちゃんも入れて、5人でさ」
「あ、あんた……頭の中どうなってんのよ……?」
「温泉……うぅん……ハーレムも悪くない、かなぁ……?」
「えっちょ、妹ちゃん? そんな軽い感じなの!?」
「でもちょっと季節感ないですよね」
「お金ないしね……」
「えっ、もうそんな距離感なの? ついて行けてない私がおかしいの?」
「あ、そうだ! あなた私のお嫁さんになりなよ! それで私がご主人と結婚すればほら、みんな家族!」
「あんたやっぱおかしいわ……」
「後輩さんはどうします?」
「あー……あれはいいよ、愛人とかで」
「急に適当!?」
「この場にいない者に発言権はないね」
今この瞬間も彼とデートしているんだろうし……それくらいが丁度いい処遇だ。
そんな訳で、彼のいない席での三者面談は、一応の合意の下でお開きとなったのだった。あとは、今日のデートの行方次第なんだけど……人事を尽くして天命を待つ、って感じ? いや、違うか……今はむしろ……
男は度胸、女は愛嬌ってやつ……?




