六月最後の土曜日 2
「……ゔぅぁ……ごめんね……肩、借りちゃって……」
「いや、俺もまさかそこまでだめだとは……とりあえずその辺のベンチに座って、落ち着いたら昼食べに行こうぜ」
「ゔぅ……きもちわるいぃ……でもしあわせぇ……」
「何言ってんだ……」
彼女をベンチに座らせ、自分も隣に座る。何やら俺の脇腹辺りに顔を押し付けてもぞもぞしていたのは見なかった事にする。あまりにも楽しそうにしているから少し弱らせるだけのつもりだったのだが、どうやら本気の弱点だったらしい。
「ほれ、お茶飲むか?」
「……あぁ、うん……ありがと……」
顔面蒼白になりながら、ペットボトルのお茶を受け取って飲み始める彼女。こくりこくりと上下する喉元……うーんエロい。
「……ふぅ。ごめん、ちょっとお手洗い行ってくるね」
「あ、おう。ここで待ってるよ」
心なしかふらついているように見えるが、大丈夫だろうか……? それにしてもお手洗いとは、随分お上品な言葉だ……いくら女子でも今どき中々使わないんじゃないか? 俺は今一度、彼女のイメージについて考える。
今日の急激に密度の濃い交流を通して俺は彼女に、摑みどころのない子、という印象を持っていた。彼女が俺に、全く覚えのない恋心を抱いているらしい事も大きな要因ではあるが、それ以上にどうも彼女は、他の一般的な女子と比較してもだいぶ変わったタイプであるようだ。
今までの俺の知る彼女は、会話も笑顔の一つもなく、ただ淡々と作業をこなす無愛想な子、だった。対して今日の彼女はまさしく間逆だ。眩しいほどの大輪の笑顔を咲かせ、楽しくてたまらないという風だ。若干目つきが妖しい時もあったが。
楽しんでくれるのはもちろん嬉しいのだが、普段とのあまりのギャップにたじろいでしまう。どころか、一年余りの静かな片思いと突然の告白という強烈な二面性は、ある種病的な歪さすら感じさせる……考えすぎか。
そんな事を考えている間に、彼女が戻って来たようだ。
「お待たせー」
「あぁ、それじゃ行くか」
「うん……ねぇ、お昼食べに行くんだよね?」
「あぁ。その辺の食事スペースで良いか?」
喉が渇いていたのを思い出し、残っていたペットボトルのお茶を取り出す。キャップを外し、口に運ぼうとした手が止まった。なんだろう、ねっとりとした視線を感じる。主にすぐ隣から……
キャップを締めて鞄にしまう。
「……これはまだ必要だろう」
「?」
「まだ店混んでそうだし、今のうちにもう一回乗っておかないか?」
「えっと……?」
「ジェットコースター」
「……え」
「一緒に乗ってくれるよな……?」
彼女について一つだけ確かな事がある。それは、俺個人に対する異常なほど強い執着だ。そこにつけ込んで、こちらもしっかり楽しませてもらおう。




