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幸せになろう


 死んだらどうなると思う?

 天国、地獄、無、極楽浄土なんて場所もあれば違う生き物に生まれ変わるなんてことも耳にしたこともある。

 俺だって考えたことはある。でも猫であった時期もあれば、人間だった時期もあるイレギュラーな存在の俺はどうなるんだ?

 こんなことを考えていた俺はというと裏月神社の本殿の天井を眺めるようにあおむけで寝そべっている。外からは心地よい鳥のさえずりが耳をくすぐる。

 まだ正常とは言い難いが記憶だけはある、輝き寮の二階の窓からエリカを守るために頭から真っ逆さまに落ちた。当然死んだんだろうな。だったらここは天国か? それとも何かに生まれ変わったのだろうか?

 視線を自分に向けると人間の姿を確認。野良猫ではなく立川ヒロシのようだ。

 「目が覚めたようだな相棒」

 頭がボーっとする最中で現状を把握しようとしている俺の目の前に死者の案内人ではなく、着物を羽織った男が現れた。

 「よう、月御門さん。俺は死んだのか?」

 「変なことを聞くやつだな。生きておるではないか」

 「いや、魂だけがこの世にいるみたいな感じなのかと思ってな……って……生きてる? なんで生きてるんだよ俺? 死んだはずじゃないのか?!」

 自分の顔をベタベタと触りまくる。

 「その姿が嘘や偽りに見えるのか? 死んだのは誠のことだが相棒は生き返ったのだ」

 「そんなことできるのか? いったいどうやって……」

 「一人の人間の光と独りの陰陽師の光を使い切れば容易いことよ」

 悲しそうに吐き捨てた月御門の言葉は俺の心を深くえぐった。一人の人間……独りの陰陽師……その言葉の意味を考えればおのずと答えは出てくる。

 俺は誰かに助けられてこの場所にいる。

 「待てよ……陰陽師ってのは月御門のことだろ、助けてくれたのか」

 「はっきりと言おう。余は相棒を再びこの世に戻すことなど微塵も考えておらんかったとな」

 こいつ、きっぱりと言いやがったな。俺の命をなんだと思ってやがる。

 「表の世界に女子と相棒を送り出した時に女子の光を全て奪わなければ二人の人間を送ることができなかったからだ。だが相棒なら命に代えても鳳蘭エリカを助けてくれると思っておった、そして予測した言葉のごとく相棒は命に代えて鳳蘭エリカを助けてくれた。そして余と同じ気持ちを抱いたはず、立川ヒロシが生存すれば鳳蘭エリカの人生に邪魔になると……な」

 月御門に対して目くじらを立てていた俺はその言葉に納得する。なぜなら一理どころかその思いには両手を挙げて賛成だからだ。

 いや……正確には賛成だったけど……だ。

 「だがな、なぜか知らんが鳳蘭エリカはここに来た。あの火事が起きた翌日だ。そしてなんと申したか分かるか相棒?」

 「……いや……見当もつかないな」

 嘘をついた。

 本当は分かっていた。だけど嬉しくて笑みをこぼさないのに必死だった。

 「泣きながら『立川ヒロシ君を生き返らせてください。沖田コナツさんの視力を元に戻してください』と言いおった。余はおかしいと思った、表の世界に立川ヒロシなどという人間は存在しない、それ故に何故、相棒の名を知っておるのかとな」

 立場が逆転している。さっきまでは月御門に対して怒りを覚えていた俺だったが今とばっては名前と存在を教えてしまった自分が完全に悪だ。

 「俺が我慢できずに……教えたんだよ」

 「それでいい」

 「え?」

 この不届き者が! と罵声を浴びせられながら怒られると思い込んでいた俺は月御門からの言葉に疑問形で返してしまう。

 「余も最初は相棒を許せなかった。命に代えても鳳蘭を助けると言っておきながら彼女の記憶に残る事柄を残して死んでいった相棒を憎んださ。だがな、それは余の妬みだったのかもしれんな」

 月御門は本殿の引き戸をゆっくりと開けた。

 鳥のさえずりはさらに音量を上げて、日中の暖かな日の光が本殿の中に差し込む。

 「考えたのだ……死期を強制的に免れたとしても鳳蘭エリカはこの先も呪いを引きずりながら生きて幸せなのか、本当にそれでいいのか、と。そして気づかされた、鳳蘭エリカの幸せは相棒とこの先も一緒に寄り添って行くことなのだと。なぜなら、彼女は相棒といる時にこそ本当によく笑うのだ。そうさな……余と同じ時を過ごした七百年前の鳳蘭と同じようにな……」

 「月御門……」

 「生きるのを手伝ってやれ、そして余に変わって傍で支えになってやってくれ。それから案ずるな。鳳蘭エリカのお前に対する記憶もそのまま脳に入れておいた。今の世で言ううところの特別ボーナスというものだ」

 「お前はどうなるんだ?」

 「余か……そうさな……さすがに鳳蘭エリカから光を奪うことなどできないからな。余の全ての光で女子の視界も相棒の命も再生させた。その代償にこの世界に存在しておることが出来なくなったがな……しかし、余はもう充分すぎるほどこの世界を堪能した、いろんな時代を生きた……最後に陰陽師として大切な人を守ることが出来て本望。この喜びに満ちた感情を抱きつつ余は逝く」

 「すまない……」

 俺は立ち上がり、背中を向けている月御門に対して深々と礼をした。

 「礼を言うとは……猫であった相棒が人間らしくなったな、ふふふ……余のように愛した人間を愛しすぎて道を踏み違うではないぞ」

 「ああ、わかってる」

 「隠さずに物を言いおるわ……鳳蘭エリカと一緒に未来を歩め。さあ、相棒に会いに来たお客人が賑やかに鳥居の近くまで来ておる。行ってやれ」

 振り返りさわやかに微笑んだ彼を見た俺は視界がにじむ。

 床をきしませながら俺は月御門の横を通過して外に出る。

 「感謝しているぞ……じゃあな、相棒」

 月御門のそんな言葉に、俺は振り返ったがもう本殿には誰の姿も無かった。

 涙は見せないと思っていたが、ふいをつかれた俺の目から滴が流れ落ちた。

 「ありがとう……月御門」

 風に溶けて消えそうなぐらいの小声で俺は呟く。

 石畳をゆっくりと歩いて拝殿へ、そしてまたそこから石畳を歩いて行くと赤くて小さな鳥居が見えてくる。一歩一歩と地面を踏みしめ近づいていく、と、それと同時に声が聞こえてくる。三、四人ほどの賑やかな声だ。

 その賑やかな男女の声がピタリと止まった。

 そして俺も鳥居を目前に立ち止まり顔をあげた。

 顔をあげた先にあった光景は瞳がしっかりと輝いたコナツ、めんどくさそうに頭を掻いているトラタロウ、なぜか頬が少し赤い真白先生、そして……。

 鳳蘭エリカは俺の姿が視界に入るや否や、少し恥ずかしそうにうつむいて、それから優しく微笑んでこちらを見つめた。

 「やっと会えましたね……ヒロシ君」

 「ああ、ものすごく時間がかかったけどな、ありがとうエリカ」

 「実は……私は……あなたのことが好きになってしまってたのかもしれません。一緒に過ごしているうちにその感情は大きくなっていって、優しくしてもらったから、悩み事を一緒に解決しようとしてくれた、とかそんな理由じゃないんです。やっと、自分の気持ちに正直になれた気がします。ヒロシ君とこれからも一緒にいたい。……い、いいですか?」

 「いいも何も、俺もこんな未来を俺は望んでいたのかもしれない。一緒に生きてくれ、エリカ。それで……幸せになろう」

 「えへへ……ものすごく恥ずかしいです……はい……幸せにしてください」

 涙を流しながら、鳳蘭エリカが俺に向かって走り出してきた。それにつられて俺も走り出す。

 そして俺たちは再び出会う。

 裏月神社の赤い鳥居の下で俺たちは力いっぱいに抱き合った。


 エリカはオナラをしなかった。


 が。


 俺は勃起する。


こんちゃー!


RYOです!


ついに終わっちゃいましたね~

久しぶりにいっぱい書けたかな、と思う作品でした!

長いあいだご愛読していただいた皆様、Twitterで応援してくれた皆様、

本当にありがとうございました!

次回作についてはまだ未定ですが、またアイディアが浮かんだらバシバシ執筆したいと思っておりますのでその際はまたお読みいただけると幸いです!


では、また!


RYO

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