結末
吉田真理子は取り調べをするまでもなく全てを自供したらしい。同時に桜井幸子も夫の殺害を吉田に依頼したとのことで逮捕。フォーカストラベルの四名の社員も殺害現場を目撃していたにもかかわらず偽証したということで逮捕。そして田中も殺人未遂で逮捕された。
事件は犯人が逮捕されて全て解決したが、予想以上に多くの人間が関っていた。
何より亡くなった桜井和人はもう帰ってこない。彼の子どももしばらくは和人の両親が面倒をみることになったようだ。
嘉子は警察署で事件に関する一通りの取り調べを受けた後、新幹線に乗って自宅に戻る。二十一時台の上り列車は静かなものだ。車両には二十人程乗っているものの、平日というのもあってか快適だった。嘉子はシートの後ろを事前に確認することも無く、リクライニングを最大限まで倒し身を沈めた。
「やっと終わった」
ホームの売店で買った缶ビールの蓋を開けると、燻製の入った袋の端を、開け口に沿って切り裂いた。イカの強烈なにおいというものは食べている本人には案外分からないものだなどと思いながら、天井を仰ぐ。
つまらない旅行は、最後まで本当につまらない。旅行だけならまだしも、殺人事件まで起きてしまい後味も最悪のものになってしまった。
自分のことだけでも窓口業務から外され、探偵までさせられ、殺人未遂が起きた現場にまで立ち会うことになってしまった。
もうこりごりだ。
缶ビールを半分ほど飲んだところで、疲れがどっと嘉子へ押し寄せ、瞼はいつの間にか閉ざされていた。
しかし再び瞼は開かれた。あることを思い出したのだ。
父親が旅行の事前に受け取っていた脅迫状を早く対処していればこのようなことにはならなかったのではなかろうか……。
今度は逆に苛立ちで眠れなくなってしまった。
翌日の午後、嘉子は社長室まで呼ばれた。父親である社長が上海出張から戻ってきたからだ。
社長は事件の経緯と結末を戻りの機内で秘書から聞いていた。
社長室に嘉子が入ってくるなり、立ち上がって両手を広げ抱きかかえようとする。嘉子は腕を前に出しそれを拒絶する。
「よっちゃん、よくやってくれたよ。事件のことは全て聞いたよ」
「そんなこと言われても全然嬉しくない」
嘉子は憤った。
「何だまだ怒ってるのか、我々が何も悪くなったとこれで証明できたんだぞ」
「そんな理由なんて聞きたくも無い。結局お父さんは会社に送りつけられた脅迫状が明るみに出なくて嬉しいだけでしょ。私が良くやったとか、苦労したとか全然思ってないくせに」
「それは違うぞ。お父さんは、ちゃんと今回の功績を認めてよっちゃんに係長のポストを用意することにしたんだ」
「私はそんなのが欲しくて調査に協力したんじゃないの。分かるでしょそれくらい」嘉子の頬は膨らむ。
「まあポストの件は冗談だがな。お父さんはよっちゃんが最後まで諦めずにやり遂げたことが嬉しいんだよ。なんたって社長である前に父親だからな。
ただ事件の結末は好ましいものではなかったがな。多くの人が逮捕されてしまったそうじゃないか。罪を着せられそうになった田中さんも最後は自ら罪を犯してしまった。そしてなくなった桜井さんは戻ってこない」
「だから何」嘉子は細めた目を懐疑的に社長に向ける。
「但しまだ結末じゃないんだよ。お父さんもこれから警察に行こうと思っているんだ。脅迫状のことは全て話すことにした」
嘉子は戸惑った。脅迫状を明るみに出さないために私が頑張ったのにと本末転倒に感じた。「ちょっと、それどういうこと……」
「成長したよっちゃんに気付かされたんだ。凄く嬉しかったんだ。今までよっちゃんは言われたことばかりしてきたろ。仕事にしても、行き方にしても。お父さんはそこがよっちゃんがどこの会社にも就職できなかった理由だと思っている。
けど今回は自分から足を使って、頭を使って行動してくれた。
そんなよっちゃんの行動がお父さんの心を動かしたんだ。
お父さんも罪をつぐなわないとな。これだけの事件になってしまったんだ。迷惑かけたな、ありがとう」
そう言うと社長は嘉子を部屋に残したまま秘書を連れて部屋から出て行った。後姿からは何か覚悟めいた会社を背負う男の潔さを感じた。
書き終わりました。当初の目標達成!
改めて読み直して、人物描写が弱かったり、それゆえに世界観も無くて、ただ淡々と文字が連なっているだけかもなんて自覚しています。
なので何かアドバイス等ありましたらいただければ幸いです。
何より、最後まで読んでいただきありがとうございました。