エピローグ
一週間が経った。
シンヤ・クロミネが見知った世界は一変していた。
世界中の国家が行っていた、「史上最大の非人道的極まりない犯罪」と、アンデッドたちの行った、「史上最大規模の人間の命を危険にさらしたテロ」、このふたつの特大スキャンダルは、世界中の地下都市を混乱に巻き込んでいた。
ハヤタ・ツカサキを「英雄」と呼ぶ声もある。「狂人」と呼ぶ声もある。
そんなのどうでもいい、と、シンヤはラウンジのディスプレイに流れているニュースに向かって、つぶやいた。次のニュースは、どこかの偉い政治家が自殺したことに関するニュースだった。
タクヤ・タカハシの部屋の前を通る。当然、誰もいない。
ユイ・オカモトの部屋の前を通る。扉の名札が外されていた。
リョウゴ・ナカムラの部屋の前を通る。誰も居ない。
結局、アイツは見つからなかったらしい。地上の環境じゃあ生きている見込みもほとんど無いだろう。多分、死んだんだろうな。シンヤはそう思っていた。
自分の部屋の前を通る。何も変わっていない。
――みんな、居なくなってしまった。残っているのは自分だけだ。
廊下を歩く。知らない誰かとすれ違う。
幽霊屋敷に拉致されてきた人間には、ふたつの選択肢が提示されていた。
ひとつは、莫大な賠償金と共に家族のもとへ戻るという選択肢。
もうひとつは、既に死亡したことにして、幽霊屋敷に留まるという選択肢。
ほとんどの人間は後者を選んでいた。シンヤも同じだった。今さら家族のもとへ戻っても、また彼らを悲しませるだけだし、それに自分たちは、もう死んだも同然なのだ。
まだ、歩く。
腕時計を見る。左腕に壊れた腕時計をつけ、それとはべつに、新しい腕時計を右腕につけていた。
片手をズボンの後ろポケットに手を突っ込んだ。一冊の文庫本が手に触れた。
もう片方の手に持った、缶の炭酸飲料を一口飲んだ。さっきラウンジで買ったものだった。
ドックへ足を踏み入れる。AACVたちが並んでいる。
「やたがらす」は失われてしまった。シンヤは手近な高機動型に乗り込み、起動させた。
動き出したAACVは、地上ゲートへ向かって歩き出した。
幽霊屋敷――正式名称、「小惑星片回収ならびに小惑星核落下地点特定のためのあらゆる法的束縛を受けない、特殊機動兵器の軍事的運用のための極秘機関」――は既に解体されている。
その代わり、「小惑星落下地点防衛ならびにジオ・ジャパンへ敵対するあらゆる勢力を撃退・殲滅するためのあらゆる法的束縛をうけない、特殊機動兵器の軍事的運用のための極秘機関」が、幽霊屋敷解体と同時に設立され、メンバーや機材はまるごとそこへ移された。
結局、なにも変わっていない。
俺はまたAACVに乗り、戦争をする。
どこかで俺が死んでも、何も変わらず、世界は回る。
そのうち、俺を覚えている人間は誰も居なくなって――
……オカモトさん、ツカサキ、リョウゴ。今ならお前たちの気持ち、わかる気がする。
「でも、俺は生きてみせる」
戦って、喪って、他人を踏みつけて、その上に立って、恋して、殺されかけて、また喪う。
それこそが、生きるということなんだ。
暗黒の地上に出る。スラスターを点火する。
さぁ、人を殺しにいこう。絶望するには、人生は短すぎる。
「クロミネくん、今回の任務は、敵のAACV部隊を殲滅することよ」
アヤカの声がした。シンヤは「はい」と返事をした。
「かならず、生きてかえってきます」
グラウンド・ゼロ おわり
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