番外編『生徒会に裏金!? 犯人は誰だ!(棒)』
季節は八月、今花百合学園は夏休みだが、生徒会は活動していた。
夏休みが明けると、学園は本格的に文化祭モードに入る。今、生徒会では文化祭の準備期間に入るまで準備――という、準備のための準備に追われていた。
いつもの長テーブルでは、レギュラーメンバー四人が各々の仕事をする中、一人、補助員が物凄い速度で右手で電卓を弾き、左手で資料のページを捲っていた。
「栞、貴女まで引っ張り出してごめんなさいね」
京香が呼んだ女子生徒の名は、三年の河野栞、十八歳。河野バンクの頭取の娘で、生徒会では会計を務める。
生徒会では、基本レギュラーメンバーで普段の仕事をするが、文化祭などのイベント時にはこうして補助員から役職を補充する。
「いえ、またお役に立てて光栄です」
栞はセミロングの黒髪を揺らしながら、ハシバミ色の瞳を左右に動かし、左手でページを捲りつつ、右手で計算を進めている。
彼女の右手には、誕生日プレゼントだという銀の腕時計が、静かに時を知らせている。
今、栞が行っているのは予算のチェックである。看板の材料やたこ焼き器など、使いまわせるもの、どの年でも大抵どこかが使う物は、故障などがない限り、陳情の時点で弾く。
銀行の娘である栞は、一円の無駄も許さず、各クラスや部活が出す予定の出し物にかかる予算と、現状の備品とを照らし合わせていた。
その作業は滞りなく進むと思われていたが、やがて、栞の手が遅くなる。
「……おかしいです」
彼女のハシバミ色の瞳が曇り、顔が資料から動かない。
「おかしい? 何が?」
「生徒会の倉庫にあるはずの備品がなかったり、購入のレシートと、残りの予算が合わないんです」
栞は補助員とはいえ、その仕事は極めて真面目で丁寧だ。
『河野栞は黒鉄の計算機、彼女からは逃げられない』
そんな言葉が残るほど、お金に関しての硬さにおいて、彼女はまさに黒鉄だ。
「どういうことですの?」
好実が紅茶入りの紙コップ片手に、栞が持つ資料を覗き込む。彼女は顔を上げると、二、三度目を動かし、言い辛そうに小さな口を、さらに小さく動かした。
「その……合わない額が、少し大きくて」
「ちなみにいくらですの?」
「二万円です……合計で」
二万円という金額に、好実は心当たりを感じつつ、『ふむ』と喉を鳴らす。
「……裏金かもしれません」
『裏金』――その言葉に、京香、好実、美穂の目が険しくなる。
だが、一人だけ例外がいた。
「み、みんなさー。な、仲間を疑うのは、良くないと……思うなー」
そんなしどろもどろなことを言うメンバーは一人しかいない。佐々木明美だ。
茶髪のポニーテールの先を弄るという、普段しないことをしながら、これまた普段吹かない口笛を吹く。しかも恐ろしく下手だ。
「……明美ちゃん?」「明美?」「佐々木さん……」「明美さん」
四人の視線が、明美に集中する。中でも鋭い目を向けるのは、黒鉄の計算機こと、栞だ。
「佐々木さん」
「な、何かな? しおりん」
栞はスっと立ち上がると、棚の上にある『明美ボックス』と書かれたプラスチックのコンテナボックス――四十センチ四方のそれを長テーブルの上に置いた。そして。
「このポテトチップスの値段はいくらですか?」
「ひゃ、百二十円ぐらい?」
「じゃあ、このクッキーは?」
「に、二百円ぐらい……?」
栞の問いかけに、明美は終始しどろもどろで、彼女の目を見ない。
栞の追及は止まらない。
「ところで佐々木さん」
「な、何かな」
「貴女、最近お小遣いが減ったとか」
「二万円です」
明美の背後から、栞に即答で援護射撃したのは美穂だ。彼女はまだ根に持っていた。
「ま、回らないお寿司奢ったじゃんー!」
「それはそれ、これはこれです」
「こ、この裏切り者ー!」
この事実上の自白に、一同のデカイため息が長テーブルに落ちる。
「……で、言い訳は? 佐々木さん」
「……バイクのオプションが欲しくて」
「いくらの何が?」
「一万円のドラレコを」
「後は?」
「お菓子が」
ついに明美が白状すると、栞が明美ボックスをひょいと持ち上げる。
「これは没収です。佐々木さん以外の全員で食べます」
「そ、そんなー!」
明美はポニーテールを揺らしながら美穂に後ろから抱きつくが、美穂はその手をペチンと叩く。
「自業自得です」
「助けてよー! 美穂っちー!」
「ダメです」
「うちら親友じゃんー!」
「それとこれとは別問題です」
明美は最後の頼りで京香に抱きつくが、彼女もまた、デコピンでそれを弾く。
その目は犬を叱る飼い主のそれだ。
「ダメよ。反省しなさい」
「わ、わーん!」
結局、明美は二万円をお小遣いから分割で返済、二週間おやつ抜き、向こう一ヶ月美穂の監視付きで手打ちにされたそうな。
番外編・完




