明日へ繋ぐ交響曲(シンフォニア)
決戦から数日後。街を覆っていた霧は晴れ、広場には柔らかな朝日が差し込んでいた。
復興の火が灯り始めた街の片隅で、ロゼアは母シエルから受け継いだ純白のタクトをそっと手に取った。戦いの中でついた小さな傷は、彼女が自分の音を見つけた証でもある。
「……ママ。聴こえてる?」
ロゼアが空に向かってタクトを優しく振る。
すると、弦楽器が歌うような、清らかで温かい旋律がどこからともなく溢れ出した。それはかつてステラがロゼアを抱き締めながら口ずさんでいた、陽だまりのようなメロディー。
「いい音……。なんだか、包まれてるみたい」
背後から声をかけたのはミリルだった。彼女の隣には、包帯を巻いたヴィクターが、慈しむような表情でその音色に耳を傾けている。
「……ああ。ステラの音に似ているが、それだけじゃない。ロゼア、お前がミリルの手を取り、レオンに立ち向かった……その『強さ』が、この音をより輝かせている」
ヴィクターの言葉に、ロゼアは胸の奥が熱くなるのを感じた。
音が消えることは、失うことではない。
奏でるたびに、大切な人との思い出が今の自分たちと混ざり合い、新しい希望の響きへと生まれ変わっていくのだ。
ロゼアはミリルと視線を交わし、満開の笑顔で告げた。
「ミリル、ベースを貸して! ママが大好きだったこの街に、一番明るい曲を届けたいの!」
「うん! どこまでだって、一緒に響かせよう!」
ミリルが影のタクトを軽やかに振ると、地面から心地よいリズムが刻まれ始める。
ロゼアの純白のタクトが、朝の光を反射してキラキラと輝いた。
二人の奏でる音が重なり、溶け合い、空へと舞い上がっていく。
その旋律は、風に乗って街の隅々まで届き、絶望に沈んでいた人々の心に、小さな灯火を灯していく。
ふと、風がロゼアの頬を優しく撫でた。
まるで、愛しい娘の指揮に合わせて、ステラが共に歌い、背中を押してくれているかのように。
「——いこう、ミリル!」
ロゼアがタクトを高く掲げる。
空はどこまでも青く、二人の前には、誰も聴いたことのない新しい楽譜が広がっていた。




