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純白継承の指揮(タクト)
翌朝、楽器店の練習室には、窓から差し込む朝光とは裏腹に、厳かな空気が満ちていた。
ヴィクターは、棚の奥深くに安置されていた黒檀の木箱を、祈るような手つきで取り出した。
「ロゼア。……これを、お前に」
差し出された箱を開けると、そこには月光をそのまま形にしたような、透き通る**「純白のタクト」**が横たわっていた。
「これ……ママの?」
「そうだ。……姉さんが、最期まで振っていたタクトだ。ずっと、私の中の罪悪感がこの箱を閉じさせていた。だが、もうその必要はない」
ヴィクターは、包帯の巻かれた手で、愛おしそうにその銀の柄をなぞった。
「叔父として、お前にこれを託す。姉さんの影を追うためではない。お前が、お前自身の音で世界を塗り替えるためにだ」
ロゼアは震える手でそのタクトを握りしめた。ひんやりとした感触と共に、母の遺志と、ヴィクターがこれまで一人で抱えてきた孤独の重さが伝わってくる。
「……ありがとう。重いね、ママの想い……でも、もう寂しくないよ」
ロゼアはタクトを胸に抱き、ヴィクターの目を見据えて笑った。
その笑顔は、かつてのステラに似ていながらも、どこか新しい、ロゼア自身の輝きに満ちていた。




