ウイユの村 10
―――――カツン……カツン……
私達は、明かりをつけながら暗がりを歩いていく。 足音が反響して聞こえてくる。 ……ここまで来て明かりが見えないとなると、出口は無さそうだ。
「レティさん。 キースさん。 明かりが見える気配がありません、これでは出口はないでしょう。 引き返した方が良いかと……」
私もそれに賛成だ。 引き返して、入った所から出てしまおう。 そう私が口を開きかけると、キースが何かを見つけた。
「あそこに何かある」
「あちらですか? ……確かに。 人工物のようですが……」
キースは貧民街で、テレズさんは狩人として。 それぞれ夜目を鍛えてきたのか、暗がりの中に何かを見たようだ。 ……私は何も見えない。
警戒しながら進んでいくと、先程の広場程ではないが開けた空間にたどり着いた。 ここまでくれば私にも見える。 そこにあるのは、大きな像だ。
「女神像……か?」
「村の近くに、こんな物があったとは……。 私も初めて知りました……」
キースが像を照らす。 テレズさんも初めて見るようだ。 無理もない、山の中に像が佇んでいるなんて誰も思わない。
「……」
私は、その女性の像に釘付けになった。 長い間、放置されていたんだろう。 像はボロボロで、亀裂が走って居る所もあった。 その顔は心なしか、涙を流して悲しんでいるようにも見えた。
「これ以上先は無い様だな。 引き返すとしよう。 ……レティ?」
キースが周辺を確認する。 一通り見て回り、なにもないことを確認した彼は像をじっと見つめる私に声をかけた。
「どうした?」
「……あ。 いいえ、なんでもないわ。 行きましょう」
キースに言われ、像に向けていた視線をそらす。 そうだ、外に出なければ。 先がないのなら、ここにもう用はない。 来た道を戻っていく二人の後ろに私も続く。
―――――『……』
「……!」
ゾワッ。 背筋が凍る感覚が私を襲う。 直ぐ様振り返り、像の方を見た。 ……なにもない。 視線のようなものを感じたのだけれど……。
「レティ? どうした?」
「……嫌な感じがしただけ。 ごめんなさい、なんでもないわ」
私の言葉に、キースはもう一度奥を照らす。 しかし、そこには先程と変わらず像が佇んでいるだけだった。 ジェナのこともあって、気が立っているのかしら……。
「レティ、無理はするな。 一度村に帰るか?」
「いいえ、後は森を見て回るだけでしょう? 大丈夫よ」
キースは優しい言葉をかけてくれる。 でも、大丈夫だ。 そう言うが、彼はそれとなく私の後ろに付く。 背後を警戒してくれているのだろう。 再び歩みを進め、私達は来た道を引き返していった。
今度は特に何事もなく進み、前方には明かりが見えてきた。 あれが私達が入ってきた場所だろう。 さて、狼達はどうしただろうか。
「今度こそ出口です」
「ああ。 警戒して外に出よう」
テレズさんが明かりを指さして言う。 キースの言う通り、外に居た狼がどこに行ったかはわからない。 ジェナの言葉に確信が持てない以上、襲われても良いように警戒しながら出るのが良いだろう。
―――――ザリッ
「……」
「……」
私達はそれぞれ武器を構え、辺りを確認しながら外へ出た。 ざっと見たところ、狼達も他の動物も居ないようだ。 もちろん、あの黒い狼も。
「気配は感じられませんが、来た時のように襲撃されないとも限りません。 私は上から辺りを見渡してきます」
「ああ、頼む」
テレズさんは洞穴のあった山に登った。 上から辺りを確認するそうだ。 私達は洞穴の横に移動し、山を後ろにして辺りを警戒することにした。
「レティ。 あの少女だが……」
「ジェナの事? ……正直まだ驚いているわ。 会ったこともないし、突然母親だなんて……」
キースに言われ、ジェナの事を思い出しながら考える。 過去に彼女と私は、出会った事があるということだろうか。 それでも、私を母親と慕うのはおかしい。 という事はやはり、適当に私を母親と決めつけているだけ……? 彼女の母親に対する執着は異常だった。 その不安定さはすぐに分かる。
「……とにかく、今後現れないとも限らない。 出来るなら、冒険者ギルドに護衛を依頼したいところだが……」
「魔物と仲良くしていた。 突然母親と言われた……。しかも、次はいつ来るかわからない。 ……引き受けてくれそうもないわね」
私はため息をついた。 けれど、ジェナのあの様子。 私が対応を間違えなければ、次も平気な気がしないでもない。 私が抱きしめた後は、まさに母親に甘える子供だった。 ……得体が知れず、危険なのには変わりがないが。
「ああ、無理だろう。 ずっと冒険者を雇うわけにも行かない。 ……だが、無茶はするなよ?」
「ええ、分かっているわ。 ……屋敷を出て、いきなりとんだ目にあったわね」
肩をすくめて笑う。 しかし、これは私が選んだことだ。 後悔はしていないし、人助けはこれからも続けていきたい。 そんな事を話していると、上からテレズさんが戻ってきた。
「戻りました。 上から見た様子ですが……」
テレズさんは、山の上から見た森の様子を私達に話す。 彼の話では、見える範囲にはいくらかの野生動物が確認できたそうだ。 しかし、以前と違って群れを組んで暴れまわる様子はなく、黒い狼の姿も確認できなかったとのこと。
「木の陰までは見えませんので、居ないとは断言できません。 ですが、少なくとも以前よりかは安全になっているとは思います」
「ジェナが魔物を倒したっていうのは本当なのかしら……」
私の言葉にキースとテレズさんは渋い顔をする。 彼女は信用できないが、現実に動物が大人しくなっているのを受け入れられない様子だ。 つまり、彼女が魔物を倒したという話を信じることになる。
「信じられませんが……。 彼女が司令塔の魔物を倒した可能性は高いですね」
「とにかく、安全になったのは良いことだ。 俺達は森を見回って、確認したら村へ帰ろう」
未だにテレズさんは渋い顔をするが、ここで考えていても仕方がない。 とにかく森を見回って、安全を確認したら村へ帰ろう。 日が落ちてきているし、あまり遅くなるとシエラ達が心配する。
「そうですね。 暗くなる前に、森を見て回りましょう」
テレズさんの声を合図に、私達は森へ向かって歩き出した。 私はもう一度、洞穴の方をみる。 そこには、穴から覗く暗い空間が広がるだけだった。 その黒は、ジェナが使っていた力と同じ色に感じた。




