表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/23

第十九話

 登場人物紹介


 登木 勇太郎  ……青山吹高1年2組。ユウくん、ボリと呼ばれている。

 土筆坂 りぼん ……幽霊。下ネタ発言が多い。

 登木  灯   ……勇太郎の妹。中学生。恐がり、金の執着心が薄い。

 宮原 玲羅   ……中学生。霊感少女。

 安嶋 大騎   ……勇太郎のクラスメイト男。園芸部。いがぐり頭。

 若槻 妃織   ……勇太郎のクラスメイト女。園芸部。ギャルっぽい。

 佐俣 啓悟   ……1年3組。男。園芸部。ちょっとおかしい。

 喜多見 渚   ……1年4組。女。園芸部。おとなしい。

 そして次の朝。俺は職員室に寄って和栗わぐり先生に礼を述べた。

 一応、見舞いにも来てくれたし。


 教室に入ると、クラスメイトが集まってきて質問攻めに遭う。

 なんか芸能人になった気分だ。サインは勘弁してくれよ。


 そんな中、妃織は自分の席に座って、

 帆杖ほおづえを付いたまま外を見ている。

 園芸部員たちとは、入院以降連絡はおろか会ってもいない。

 俺たちの間に大きな溝ができたのは仕方がない。


 安嶋のほうは……姿が見えない。

 席にも鞄が見当たらないので、まだ登校していないようだ。

 この時間に来てないとなると、一本後の電車になる。

 こりゃ遅刻確定だな。



 ホームルームの予鈴にが鳴ると、

 俺を囲んでいた人垣は一斉に散らばった。

 安嶋の席だけが埋まっていない。

 予想は的中したようだ。

 すると廊下側から甲高い足音が響く。

 後ろのドアを通り越して、前のドアが勢いよく開いた。


「安嶋くん、来てる?」


 血相を変えた和栗先生が叫んだ。

 教室内はどよめき返す。

 安嶋の席が空っぽになっているのを確認した先生は、


「来てないようね、今朝見かけた人はいませんか?」


 再びどよめきを呼んだ。誰も挙手しない。

 妃織なら、と顔色をうかがった。

 だが、妃織も目が飛び出るくらいに丸くして驚いている。


「若槻さん、安嶋くん見かけませんでしたか?」


 先生はピンポイントで指した。


「いえ、会ってません」


 妃織の声が少し震えていた。


「そうですか、登木くんはわからないよね?」


「はい」


「みなさん、静かに待機してください」


 先生はドアを閉めると、足音が高く響いた。


「ユウくん、これって?」


 りぼんが俺の席まできて問いかける。

 言いたいことがわかった俺は強く頷いた。

 先生の態度からして、だだ漏れだった。


 行方不明だろう。

 多分、俺が職員室を出てから、連絡が来たに違いない。

 ガヤガヤと騒ぐ教室の中、妃織に視線を送った。

 妃織は首を横に振る。

 その動作だけでは本当に知らないのかわからない。

 取りあえず俺はノートを取り出して、

 『佐俣をマークしてくれ』と、りぼんに書き伝えた。


「うん」素直に出ていくりぼん。

 的が絞れるのはラッキーだが、

 これで安嶋が死んでいたとなると後味が悪い。

 考えられる原因としては、安嶋と佐俣が仲間割れをして殺害した。

 ……安直すぎるか。



 そして放課後。俺は鞄の中を整理する妃織のところへ立ち寄った。


「安嶋、来なかったな」


「知らないわよ。金曜日にクラスで見かけた以降、見てないもん」


「クラスって、部活やってないのか?」


「ボリが入院してから活動停止。

 やっぱ顧問の有無うむが大きかったみたい。

 無期限の停止だから、このまま廃部になるかもしれないよ」


 そういえば昼休み、

 部室で佐俣を待っていたが来なかったな。

 オブラートに追究しようとして失敗に終わってしまった。


「私帰るから」


 妃織は鞄を手に目の前から消えてしまった。

 俺もどうしよっか? 

 りぼんが来るまで待つとするか。

 椅子に座った俺はケータイを取りだして、

 ヒマつぶしにニュースをチェック。

 全国ネットとあって安嶋の行方不明の記事は載っていない。


 妃織が去っておよそ30分が経過。

 教室は俺ひとり。

 りぼん遅いな、

 窓辺に立って大きく背伸びをする。

 ふとここで1つの過ちに気づく。

 もしかしたら、佐俣の家まで尾行したのかもしれない。

 それはそれで好都合。

 なにせ、学校と自宅では見せる姿にへだたりがある可能性が出てくるから。

 今日は帰ることにした。



 田宝村に駅に着く頃には、

 すっかり日が傾いて闇に染まっていた。

 自宅へ向かう途中、複数もの大人たちの集団を目撃する。

 恐らく安嶋の捜索で借り出されているのかもしれない。

 安嶋はこのまま見つからないのだろうか? 

 りぼんの捜索時のように複数の要因が飛び交う。

 1つだけ当てはまらないことがあった。

 それは俺を突き飛ばしたことがバレると感じて家出をした。

 ……ちょっと考えすぎか。



 家に着いて夕食と入浴を済ませると、

 部屋で布団を敷いてゴロンと天井を見上げた。

 夕食の話題も父さんから安嶋の行方のことだった。

 手がかりも足がかりも見つからない。

 明日、村中の大人を集めて再捜索するらしい。

 りぼんと安嶋の事件に関連性があるかはわからない。

 今の俺は佐俣の動きを待つだけだった。



 翌朝、俺は教室に入る。

 妃織の姿はあるものの、安嶋の席は埋まっていなかった。

 バッグを机に置いて中身を取り出すと、

「ユウくーん」りぼんがふらふらと寄ってきた。

 俺は小声で「場所を変えよう」と告げる。



 向かった先は屋上へ繋がる踊り場。

 人気のないことを確認した俺は、


「ご苦労さん、収穫はあったか?」


「ぜーんぜん、ないよ。

 授業中に呼び出し喰らってて、

 根掘り葉掘りジャガイモのこと追求されてて。

 家まで付いてい行ったんだけど、

 家族以外の接触はなし。

 たまーにケータイ動かしてる程度。

 もう退屈で退屈で」


「佐俣は安嶋の行方不明に関わりねえのか? 

 ってことは、他に犯人がいる可能性もありえる。

 引き続き尾行を頼む」


「ええっ! ヤダよ。

 あのキモメガネと一緒の環境にいるの。

 どれだけ疲れると思ってるの? 

 ユウくんだって私と一緒のほうが安らげるでしょ?」


「でもな、1日尾行したからって、化けの皮が剥がれるとは限らないし。

 安嶋がいない以上、佐俣が大きく関わっているんだよ。りぼんのことも」


「わかった、がんばるよ」


 素直に応じた。

 あの時の薬が効きすぎてるかもしれない。

 変化があったのは次の日のことだった。



 翌朝、青山吹駅を降りて学校へ向かう通学路で、りぼんが後ろから話してきた。


「ユウくーん」


 俺は周囲に気を配り、ボリュームを下げて話す。


「どうだった?」


「ううん、変化なし。もう疲れた」


 根性がないやつだ、2日目にして音を上げるなんて。


「佐俣は?」 


 肝心のターゲットが見当たらない。


「先行ったんじゃない?」


「なにやってんだよ!」


「駅を出るときまで、マークしてたから大丈夫だって」


 今にも泣き出しそうな顔をしてきた。

 まあ、りぼんの気持ちもわからなくない。

 それにしても2日経過して変化なしとは。

 本当に別問題なのか?


「ユウくん、ユウくんってば」

 りぼんが2度吠えた。


「ん?」


「もう、ひとりで考えないで。相談してよ」


「ああ、悪い。やはり別問題なのかなって」


「うん。私もそう思う。

 キモメガネって外見頭良さそうだけど、中身が残念だし。

 どちらかというと、あのヤンキーが黒幕、いや1枚噛んでいるような……」


「だから、見かけで判断するなって」


「それよりどうする?」


「もうしばらく佐俣を……」


 するとりぼんは顔をしかめる。


「わかったよ、放課後になったら判断するから」


「うん」



 教室に入ると席に着きバッグを降ろす。

 昨日同様、妃織はいるものの安嶋はいない。

 今日も村中で捜索しているらしい。

 けれど捜索は今日まで。

 発見できなかったら打ち切りになるみたいだ。


 昼休みになった。俺が弁当をバッグから取り出すと、


「おーい、若槻と登木いるか?」


 七三分けの50代くらいのおっさんが、

 怒鳴りつけるようにドアを開ける。

 確かあれは4組の東浦ひがしうら先生だ。


「あのオヤジ、感じ悪ーい」


 りぼんが目を細めて軽蔑する。俺と妃織に何の用だろう?


「ふたりとも来てくれ」



 連行されてきたところは生徒指導室。

 入ってみると和栗先生も来ていた。


「まあ、座ってくれ」


 長テーブルを挟み、俺と妃織、対峙して東浦先生と和栗先生。

 ここに呼ばれるとしたら、恐らく安嶋のことだろう。


「単刀直入に言おう。

 うちのクラスの喜多見が学校に来ていないんだ」


「喜多見ですか?」


 思わず声を上げてしまった。


「ああ、そこでふたりに心当たりがないかって。

 さっき佐俣にもここで質問してみたんだが、知らないらしい」


「連絡したんですか?」


 妃織が言った。


「音信不通で参ったよ。

 安嶋のこともあるからおおやけにしないほうがいいってことで、

 お前たちを集めたってことだ」


 喜多見まで行方不明? 

 まだ断言はできない。

 俺は妃織に聞いてみた。


「喜多見と一緒に登校してたんじゃないのか?」


「ボリには言わなかったけど、

 あの日以降、色々とギクシャクして渚とも距離を置いていたんだ。

 別に絶交してるってことじゃないけど」


 うつむきながら膝の上に載せている拳をギュッと握りしめていた。


「落ち着いて。まだ喜多見さんも行方不明って決まったわけではないから」


 和栗先生が俺たちをなだめるように、

 胸の前で両手を押すように揺らす。


「ふたりとも知らないならいい。

 取りあえず、今から喜多見の家に行ってくるか」


 東浦先生が言うと妃織が、


「先生、私が渚、いや喜多見さんの家に伺います。

 早退していいですか?」


「あのな、若槻。午後の授業はどうするんだ? 

 後2時限残っているんだぞ」


「喜多見さんのことが心配で頭に入りません。

 何かありましたら和栗先生に連絡いたしますので」


 東浦先生と和栗先生は互いの顔を見合わせた。

 こくんと頷くと東浦先生が、


「今回だけ任せる。

 あってもなくても和栗先生には連絡しろ。

 それでいいな?」



 俺たちはひんやりとした空気の生徒指導室から解放された。

 廊下で待機していたりぼんが、後ろから付いてきた。

 俺はりぼんに気を取られることなく、妃織に尋ねることに。


「ひとりで大丈夫か?」


「先生が行ったって仕方ないし。

 渚、以前にもこういうことあったんだ」

 更に続ける。

「あの子、以前、向かいに行ったときに家で倒れているときがあったの。

 きっと今回も同じだって。

 ヤスの行方不明と被ったから、みんな事を大きくしているのよ」


「だったら誰か家族の人が気づくはずだ」


「渚の家庭ってちょっと訳ありなんだ。

 中1の時に両親が離婚して、

 両方とも引き取らないって話になったらしいよ。

 それで父方の祖父が面倒見るってことになって、

 この村に引っ越してきたの。

 村外れに機械の解体場あるのわかんない? 

 あれが渚の家」


 喜多見の家どころか、妃織とかみんなの家も知らない。

 このことは置いといて。

 そんな身の上話をしていると、

 いつの間にか教室前に着いてしまった。

 まだ昼休みの途中なので、ガヤガヤと話し声が廊下まで聞こえてくる。


「ボリも飛んだとばっちり喰らったね。気にしない方がいいよ」


 妃織は口角を少し上げて笑うと、

 席に着くなりバッグの中身をまとめ始める。

 その異変に気づいて複数の女子が、

 心配そうに妃織の席に集まってきた。


「ねえユウくん。モブ子のこともジャガイモと関係あるの?」


 りぼんが神妙しんみょうに呟く。


「場所を変えよう」



 移動した先は昨日同様、

 屋上へ繋がる人気のない踊り場。

 俺は1番上の階段に腰を下ろすと、

 りぼんも真似して横に座る。


「まだ喜多見が行方不明になったことは明らかになっていない。

 妃織も言ったように、

 安嶋のこともあって先生方がピリピリしてると思う」


「仮に関連性があったとしたら?」


「現時点で佐俣を疑うべきだって事だ。

 安嶋と喜多見の接点が近すぎる」


「でもキモメガネに動きはなかったよ? 

 別問題じゃないの?」


「うーん」


 悩みどこだった。

 りぼんに見落としがあったかもしれないし、偶然かもしれない。


「よし二手に分かれよう。

 りぼんは急いで妃織を追ってくれ。

 俺は放課後、佐俣を尾行する」


 ひらめきと共にポンっと立ち上がった。


「危ないって、私がキモメガネを追うから」


「午後の授業抜け出せないし、

 今からだったら、りぼんのほうが早い。頼む」


「うん」


ここまでお付き合い頂き、誠にありがとうございます。

次話投稿の予定は、4月28日21時の予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ