第十九話
登場人物紹介
登木 勇太郎 ……青山吹高1年2組。ユウくん、ボリと呼ばれている。
土筆坂 りぼん ……幽霊。下ネタ発言が多い。
登木 灯 ……勇太郎の妹。中学生。恐がり、金の執着心が薄い。
宮原 玲羅 ……中学生。霊感少女。
安嶋 大騎 ……勇太郎のクラスメイト男。園芸部。いがぐり頭。
若槻 妃織 ……勇太郎のクラスメイト女。園芸部。ギャルっぽい。
佐俣 啓悟 ……1年3組。男。園芸部。ちょっとおかしい。
喜多見 渚 ……1年4組。女。園芸部。おとなしい。
そして次の朝。俺は職員室に寄って和栗先生に礼を述べた。
一応、見舞いにも来てくれたし。
教室に入ると、クラスメイトが集まってきて質問攻めに遭う。
なんか芸能人になった気分だ。サインは勘弁してくれよ。
そんな中、妃織は自分の席に座って、
帆杖を付いたまま外を見ている。
園芸部員たちとは、入院以降連絡はおろか会ってもいない。
俺たちの間に大きな溝ができたのは仕方がない。
安嶋のほうは……姿が見えない。
席にも鞄が見当たらないので、まだ登校していないようだ。
この時間に来てないとなると、一本後の電車になる。
こりゃ遅刻確定だな。
ホームルームの予鈴にが鳴ると、
俺を囲んでいた人垣は一斉に散らばった。
安嶋の席だけが埋まっていない。
予想は的中したようだ。
すると廊下側から甲高い足音が響く。
後ろのドアを通り越して、前のドアが勢いよく開いた。
「安嶋くん、来てる?」
血相を変えた和栗先生が叫んだ。
教室内はどよめき返す。
安嶋の席が空っぽになっているのを確認した先生は、
「来てないようね、今朝見かけた人はいませんか?」
再びどよめきを呼んだ。誰も挙手しない。
妃織なら、と顔色をうかがった。
だが、妃織も目が飛び出るくらいに丸くして驚いている。
「若槻さん、安嶋くん見かけませんでしたか?」
先生はピンポイントで指した。
「いえ、会ってません」
妃織の声が少し震えていた。
「そうですか、登木くんはわからないよね?」
「はい」
「みなさん、静かに待機してください」
先生はドアを閉めると、足音が高く響いた。
「ユウくん、これって?」
りぼんが俺の席まできて問いかける。
言いたいことがわかった俺は強く頷いた。
先生の態度からして、だだ漏れだった。
行方不明だろう。
多分、俺が職員室を出てから、連絡が来たに違いない。
ガヤガヤと騒ぐ教室の中、妃織に視線を送った。
妃織は首を横に振る。
その動作だけでは本当に知らないのかわからない。
取りあえず俺はノートを取り出して、
『佐俣をマークしてくれ』と、りぼんに書き伝えた。
「うん」素直に出ていくりぼん。
的が絞れるのはラッキーだが、
これで安嶋が死んでいたとなると後味が悪い。
考えられる原因としては、安嶋と佐俣が仲間割れをして殺害した。
……安直すぎるか。
そして放課後。俺は鞄の中を整理する妃織のところへ立ち寄った。
「安嶋、来なかったな」
「知らないわよ。金曜日にクラスで見かけた以降、見てないもん」
「クラスって、部活やってないのか?」
「ボリが入院してから活動停止。
やっぱ顧問の有無が大きかったみたい。
無期限の停止だから、このまま廃部になるかもしれないよ」
そういえば昼休み、
部室で佐俣を待っていたが来なかったな。
オブラートに追究しようとして失敗に終わってしまった。
「私帰るから」
妃織は鞄を手に目の前から消えてしまった。
俺もどうしよっか?
りぼんが来るまで待つとするか。
椅子に座った俺はケータイを取りだして、
ヒマつぶしにニュースをチェック。
全国ネットとあって安嶋の行方不明の記事は載っていない。
妃織が去っておよそ30分が経過。
教室は俺ひとり。
りぼん遅いな、
窓辺に立って大きく背伸びをする。
ふとここで1つの過ちに気づく。
もしかしたら、佐俣の家まで尾行したのかもしれない。
それはそれで好都合。
なにせ、学校と自宅では見せる姿に隔たりがある可能性が出てくるから。
今日は帰ることにした。
田宝村に駅に着く頃には、
すっかり日が傾いて闇に染まっていた。
自宅へ向かう途中、複数もの大人たちの集団を目撃する。
恐らく安嶋の捜索で借り出されているのかもしれない。
安嶋はこのまま見つからないのだろうか?
りぼんの捜索時のように複数の要因が飛び交う。
1つだけ当てはまらないことがあった。
それは俺を突き飛ばしたことがバレると感じて家出をした。
……ちょっと考えすぎか。
家に着いて夕食と入浴を済ませると、
部屋で布団を敷いてゴロンと天井を見上げた。
夕食の話題も父さんから安嶋の行方のことだった。
手がかりも足がかりも見つからない。
明日、村中の大人を集めて再捜索するらしい。
りぼんと安嶋の事件に関連性があるかはわからない。
今の俺は佐俣の動きを待つだけだった。
翌朝、俺は教室に入る。
妃織の姿はあるものの、安嶋の席は埋まっていなかった。
バッグを机に置いて中身を取り出すと、
「ユウくーん」りぼんがふらふらと寄ってきた。
俺は小声で「場所を変えよう」と告げる。
向かった先は屋上へ繋がる踊り場。
人気のないことを確認した俺は、
「ご苦労さん、収穫はあったか?」
「ぜーんぜん、ないよ。
授業中に呼び出し喰らってて、
根掘り葉掘りジャガイモのこと追求されてて。
家まで付いてい行ったんだけど、
家族以外の接触はなし。
たまーにケータイ動かしてる程度。
もう退屈で退屈で」
「佐俣は安嶋の行方不明に関わりねえのか?
ってことは、他に犯人がいる可能性もありえる。
引き続き尾行を頼む」
「ええっ! ヤダよ。
あのキモメガネと一緒の環境にいるの。
どれだけ疲れると思ってるの?
ユウくんだって私と一緒のほうが安らげるでしょ?」
「でもな、1日尾行したからって、化けの皮が剥がれるとは限らないし。
安嶋がいない以上、佐俣が大きく関わっているんだよ。りぼんのことも」
「わかった、がんばるよ」
素直に応じた。
あの時の薬が効きすぎてるかもしれない。
変化があったのは次の日のことだった。
翌朝、青山吹駅を降りて学校へ向かう通学路で、りぼんが後ろから話してきた。
「ユウくーん」
俺は周囲に気を配り、ボリュームを下げて話す。
「どうだった?」
「ううん、変化なし。もう疲れた」
根性がないやつだ、2日目にして音を上げるなんて。
「佐俣は?」
肝心のターゲットが見当たらない。
「先行ったんじゃない?」
「なにやってんだよ!」
「駅を出るときまで、マークしてたから大丈夫だって」
今にも泣き出しそうな顔をしてきた。
まあ、りぼんの気持ちもわからなくない。
それにしても2日経過して変化なしとは。
本当に別問題なのか?
「ユウくん、ユウくんってば」
りぼんが2度吠えた。
「ん?」
「もう、ひとりで考えないで。相談してよ」
「ああ、悪い。やはり別問題なのかなって」
「うん。私もそう思う。
キモメガネって外見頭良さそうだけど、中身が残念だし。
どちらかというと、あのヤンキーが黒幕、いや1枚噛んでいるような……」
「だから、見かけで判断するなって」
「それよりどうする?」
「もうしばらく佐俣を……」
するとりぼんは顔をしかめる。
「わかったよ、放課後になったら判断するから」
「うん」
教室に入ると席に着きバッグを降ろす。
昨日同様、妃織はいるものの安嶋はいない。
今日も村中で捜索しているらしい。
けれど捜索は今日まで。
発見できなかったら打ち切りになるみたいだ。
昼休みになった。俺が弁当をバッグから取り出すと、
「おーい、若槻と登木いるか?」
七三分けの50代くらいのおっさんが、
怒鳴りつけるようにドアを開ける。
確かあれは4組の東浦先生だ。
「あのオヤジ、感じ悪ーい」
りぼんが目を細めて軽蔑する。俺と妃織に何の用だろう?
「ふたりとも来てくれ」
連行されてきたところは生徒指導室。
入ってみると和栗先生も来ていた。
「まあ、座ってくれ」
長テーブルを挟み、俺と妃織、対峙して東浦先生と和栗先生。
ここに呼ばれるとしたら、恐らく安嶋のことだろう。
「単刀直入に言おう。
うちのクラスの喜多見が学校に来ていないんだ」
「喜多見ですか?」
思わず声を上げてしまった。
「ああ、そこでふたりに心当たりがないかって。
さっき佐俣にもここで質問してみたんだが、知らないらしい」
「連絡したんですか?」
妃織が言った。
「音信不通で参ったよ。
安嶋のこともあるから公にしないほうがいいってことで、
お前たちを集めたってことだ」
喜多見まで行方不明?
まだ断言はできない。
俺は妃織に聞いてみた。
「喜多見と一緒に登校してたんじゃないのか?」
「ボリには言わなかったけど、
あの日以降、色々とギクシャクして渚とも距離を置いていたんだ。
別に絶交してるってことじゃないけど」
うつむきながら膝の上に載せている拳をギュッと握りしめていた。
「落ち着いて。まだ喜多見さんも行方不明って決まったわけではないから」
和栗先生が俺たちをなだめるように、
胸の前で両手を押すように揺らす。
「ふたりとも知らないならいい。
取りあえず、今から喜多見の家に行ってくるか」
東浦先生が言うと妃織が、
「先生、私が渚、いや喜多見さんの家に伺います。
早退していいですか?」
「あのな、若槻。午後の授業はどうするんだ?
後2時限残っているんだぞ」
「喜多見さんのことが心配で頭に入りません。
何かありましたら和栗先生に連絡いたしますので」
東浦先生と和栗先生は互いの顔を見合わせた。
こくんと頷くと東浦先生が、
「今回だけ任せる。
あってもなくても和栗先生には連絡しろ。
それでいいな?」
俺たちはひんやりとした空気の生徒指導室から解放された。
廊下で待機していたりぼんが、後ろから付いてきた。
俺はりぼんに気を取られることなく、妃織に尋ねることに。
「ひとりで大丈夫か?」
「先生が行ったって仕方ないし。
渚、以前にもこういうことあったんだ」
更に続ける。
「あの子、以前、向かいに行ったときに家で倒れているときがあったの。
きっと今回も同じだって。
ヤスの行方不明と被ったから、みんな事を大きくしているのよ」
「だったら誰か家族の人が気づくはずだ」
「渚の家庭ってちょっと訳ありなんだ。
中1の時に両親が離婚して、
両方とも引き取らないって話になったらしいよ。
それで父方の祖父が面倒見るってことになって、
この村に引っ越してきたの。
村外れに機械の解体場あるのわかんない?
あれが渚の家」
喜多見の家どころか、妃織とかみんなの家も知らない。
このことは置いといて。
そんな身の上話をしていると、
いつの間にか教室前に着いてしまった。
まだ昼休みの途中なので、ガヤガヤと話し声が廊下まで聞こえてくる。
「ボリも飛んだとばっちり喰らったね。気にしない方がいいよ」
妃織は口角を少し上げて笑うと、
席に着くなりバッグの中身をまとめ始める。
その異変に気づいて複数の女子が、
心配そうに妃織の席に集まってきた。
「ねえユウくん。モブ子のこともジャガイモと関係あるの?」
りぼんが神妙に呟く。
「場所を変えよう」
移動した先は昨日同様、
屋上へ繋がる人気のない踊り場。
俺は1番上の階段に腰を下ろすと、
りぼんも真似して横に座る。
「まだ喜多見が行方不明になったことは明らかになっていない。
妃織も言ったように、
安嶋のこともあって先生方がピリピリしてると思う」
「仮に関連性があったとしたら?」
「現時点で佐俣を疑うべきだって事だ。
安嶋と喜多見の接点が近すぎる」
「でもキモメガネに動きはなかったよ?
別問題じゃないの?」
「うーん」
悩みどこだった。
りぼんに見落としがあったかもしれないし、偶然かもしれない。
「よし二手に分かれよう。
りぼんは急いで妃織を追ってくれ。
俺は放課後、佐俣を尾行する」
ひらめきと共にポンっと立ち上がった。
「危ないって、私がキモメガネを追うから」
「午後の授業抜け出せないし、
今からだったら、りぼんのほうが早い。頼む」
「うん」
ここまでお付き合い頂き、誠にありがとうございます。
次話投稿の予定は、4月28日21時の予定です。





