完全攻略
屋敷に戻ってきた一行をメイリ―が出迎える。
「おかえりなさいませ。食事の用意が整っていますが、先に湯浴みなさいますか?」
優雅にお辞儀をしながら、全員の荷物をてきぱきと預かっていく。
「先にお風呂入りたいかも」
エリーゼが言うと、他の皆も頷いている。
「ではこちらへ」
メイリ―が案内する先には、大浴場が用意されていた。しっかり男湯と女湯が分かれており、それぞれへと別れて入っていく。女湯の脱衣所には、すでに脱いだ服が棚の一つに入っていた。訝し気に思っていながらも服を脱いでいく。戸を開けると、白い湯気が全員を出迎えた。湯気が晴れると、白を基調とした清潔感のある大浴場が広がっていた。
「皆さんお疲れ様です」
湯船の方から声が聞え、そちらを向くと長い髪をまとめて、白い肌をピンクに染めながら湯につかるマリーがいた。
「マリー!」
クロムが、マリーに駆け寄っていく。そのまま、湯船にダイブしそうな勢いだ。
「クロム。まず体を洗わないと」
「あ!そうだった!洗ってくる!」
マリーの制止でハッと気づいたクロムは、体を洗いに戻っていく。
「フフッ仲良いわね」
エリーゼが微笑ましくその様子を見守っていた。
「はい。親友ですから」
「羨ましいわ。私たちも体を洗いにいきましょう」
他の女性陣も体を洗いに向かったところで、マリーは男湯の方を見る。先ほどまで、騒がしかったのだ
が、今ではシンと静まり返っている。
「大丈夫かしら?」
マリーの声が、浴室に響く。
「何が?」
「クロム?早くない?」
「えー!そんなことないよ!」
クロムは、ニコニコでマリーに抱き着く。
「まぁいいけど。サンダーバードと戦ってたんでしょ?大丈夫だった?」
「あのでかい鳥、そんな名前だったんだ。エリーゼ先輩たちのおかげで何とかなったよ」
「でもさすがね、魔術師無しであれを倒すなんてすごいよ」
「マリーいてくれたらもっと楽だったよね」
「行けなくてごめんね兄さんと今後の話をしてて……」
「その話は、私たちも聞いていいのかしら」
談笑する二人に、エリーゼを始めとした女性陣が続々と入ってくる。
「もちろんと言いたいんですけど……食事の時に兄さんから話があると思います」
「そう……」
「それにしてもこんなダンジョンもあるんですね。島全体なんて、かなり大規模では?」
リサは、湯船に肩までつかりながら魔力視で見たダンジョンの外殻らしきものを思い出す。葛篭のように精密で美しい魔力で編まれた結界。一体どれほどの力があれば、ここまでできるのか。初めて見た時、思わず魅入ってしまった。
「そうですね。他の比べても大規模です。通常開放型のダンジョンは、独自の結界を展開しているんです。魔力視ができる人間が、結界を視認して、ダンジョンの規模を推定。一般人が立ち入らないように、壁を立てたりするんですが……」
「あれ?でもここってリゾート扱いでしたよね」
ミクが、耳をピクピクさせながら首をかしげる。
「貴族用のリゾートと言っておけば、他の人たちが入ることはありませんし、この島に来るためには、我が家の許可がいるんです。表向きは、王室の許可ということになってますがね。だから貴族たちはここに来ることはないんですよ。まぁそもそも、リゾートと言わざるを得ない状況だったそうですが……」
「なるほどです!」
ミクが頷くと、男湯の方が俄かに騒がしくなっていく。
「なにかしら?」
「覗こうとしてるんじゃない?」
「え!?」
冗談めかして、リサが言うとエリーゼが、顔を赤くして体を隠す。
「でも本当ににぎやかですね、何してるんでしょう」
リコが曇っているメガネこすりながら男湯に目を向ける。その様子を見ていたほかの女性陣が目を丸くした。
「「「「お風呂に眼鏡!?」」」」
「してないと、ここだと気持ち悪くて」
全員にそうツッコミされたリコが、バツの悪そうに頬を掻いた。
男湯では、トムが倒れているドレッドの上に座っている。
「こっちは、数多のダンジョンで戦闘経験を積んでるんだぜ?高々濡れて足場が悪い程度で、お前らに遅れはとらんさ」
「ぐっ」
下に敷かれているドレッドがくぐもった声を出す。
「ドレッド!クソ!この化け物め!」
「カイリ!二人がかり行くぞ!」
「おう!」
カイリとリクが一斉に飛び掛かる。
「フッ」
そんな二人を鼻で笑い、ゆっくりとトムが立ち上がる。
男達は湯につかりながら、心の溶けたような息を吐く。
「「「ふぅ~~~~~~」」」
「なんで、風呂入って最初にやることが相撲なんだ?」
呆れたように、三人を見るトムにドレットがニカッと笑う。
「うちは職人同士で浴場入ると相撲撮るのがお決まりなんだよ」
「なんだそれ」
「俺らはノリでなぁ?」
「あぁ」
やれやれと言った感じで、トムは湯に肩までつかる。
「それにしても、リクよく気づいたなここがダンジョン内だって」
「港の人たちの様子がおかしかったのもそうだけど、潮の流れが決定的だったな。あの流れ方は絶対自然にできるものじゃない」
リクは、見ていた海面を思い出す。何かに遮られたかのような流れの変わり方に、違和感を抱いていた。
「このダンジョン変じゃないか?」
カイリがトムに身を乗り出して聞く。
「普通ではないな」
そういってトムは、湯から上がる。その体には大小さまざまな傷痕が残っている。これまでのダンジョン探索の過酷さを、物語っていた。
「のぼせそうだから先上がるな」
そういって脱衣所の方に去っていくトムの背中を、三人は見つめていた。
全員が、ホカホカの湯上り状態で食卓に着く。テーブルに並べられた食事はどれも豪華で、ここがダンジョンであることを忘れさせる。カトラリーが用意され、貴族組は難なく使いこなすが、平民組は苦戦していた。
「別に会食の場とかじゃないから、食べたいように食べていいぞ」
トムの言葉に安堵したカイリは、肉を豪快に口に詰め込んでいく。
「こうしてみると、ドレットって本当に貴族だったんだな」
いつもがさつな男も、テーブルマナーはしっかりとしていた。浴室での相撲が嘘のようにナイフとフォークを綺麗に使っている。
「まぁな。これくらいはな」
ドレットの自慢気な様子に、エリーゼは笑う。
「誰のおかげかしらね~」
「んっ」
エリーゼの一言で、口に入れた料理が喉に詰まる。その場の全員がなんとなく事情を察した。
「なんだよエリーゼのおかげかよ」
「そんなことだろうと思ったよ」
「なんか安心しました」
全員が談笑しているなか、運ばれてきたデザートのゼリー。桜色の宝石のように美しいそれに、全員の目が釘付けになる。
「これは、このダンジョン内で唯一食べることができる食べ物のから作った」
トムはそういうと、メイリ―を呼ぶ。メイリ―はお盆を一つ持ってきた。机の上に置き、蓋を開ける。そこには、すももが皿の上に載っている。
「このすももが、このダンジョンで採れる唯一の資源だ」
「これが?」
リサとエリーゼがまじまじとその果物を見る。二人とも魔力視を使ってみるも、特になにもおかしいところはない。
「何か特別なものなんですか?」
ミクは、すももに鼻を近づけてスンスンと匂い嗅いでいる。
「いや?普通のすももだ。強いて言うなら、他より少し品質が良いってだけだ」
「それだけのですか?」
「あぁ。それで明日全員にやってもらうのは……」
トムは目の前のスモモを見て、少し悲し気な表情になる。
「【スイートホーム】の完全攻略だ」
トムの言葉に、先ほどまで賑やかだった食卓が静まり返った。
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