死の恐怖
目の前の学友から叩きつけられる恐怖の波に、リコ以外の全員が体を細かく震わせ固まってしまう。
「皆さん!」
リコが叫ぶと同時に、ドレット達が我に返る。見るとトムは先ほどいた場所から移動し、リコの前まで来ていた。意識が少し飛んでいたらしい。トムは、思い切りリコの構えている盾を殴りつける。盾と拳がぶつかった瞬間、ドゴンという鈍い音と共に、リコの体が後ろに引きずられる。しかし、姿勢を崩さず受けきって見せた。
『イノシシに突進されたかのような衝撃ですね』
頬から汗を垂らしながら、精一杯踏ん張る。
「今の一撃で吹き飛ばないのはさすがだな。リコ」
トムはリコを称賛しながら、次の攻撃に映ろうとする。そこに、クロムが横から飛び込かかる。クロムの鋭い蹴りがトムの後頭部を狙うも。空を切った。同時にクロムの背筋に冷たい感覚が奔る。すぐに飛びのき、距離を取る。自分の頭があった位置にトムの拳があった。あのまま逃げなかったら、頭に一発貰っていただろう。クロムは冷や汗を流す。
『今の殺す気だったよね……今、あの場から逃げなかったら……』
自分の頭が潰されて倒れ込む惨い姿が脳裏をよぎる。膝が笑い始め、次の攻撃に移れない。そうこうしていると、一人離れてしまったクロムにトムが向かって行く。リコは必死に自分に標的を向けようとするが、うまくいかない。トムは強く地面を蹴り、リコを引きはがしてクロムの前へ。動けないクロムは振り上げられた拳から濃厚な死の気配を感じとり、走馬燈が駆け巡った。そして、固く目を瞑ってしまう。すると、頭に手が置かれた感覚がした。
「ハイアウト―。出るなら一人じゃなくてエリーゼと合わせるべきだったな。でも、ちゃんと初撃逃げれたな」
そう言って、リコたちに向き直る。
「で?エリーゼ、ドレットはいつまで震えてる?このままだと全滅だぞ?どうする?」
トムがエリーゼたちに問いかけるもエリーゼたちは何も答えない。トムはまた走り出す。その速さは風のようでリコの横を容易に通り抜けることが出来た。エリーゼとドレットの眼前に拳を突きつける。二人は腰を抜かして座り込んだ。最後にリコへと振り向く、リコも振り向き盾を構える。トムはその盾にゆっくり触れて、終わりを告げる。
「はい、ここまで」
そう言って、クロムの方に行き、背負ってへたり込ん出るエリーゼたちの横に座らせる。
「どうだ?感じたか?」
先ほどまでの殺気がウソのように消え、死神からいつものクラスメートに戻ったトムの笑顔にわずかに恐怖を残しながら安堵ずる。いまだに激しく弾む心臓に、自分が生きてる事を教えてもらいつつ深呼吸する。
「走馬燈なんてはじめてみました」
「全く体が動かなかったわ」
「同じくだ逃げようにも足が動いてくれなかったぜ」
クロムとエリーゼ、ドレットがぐったりしながら、それぞれの感想を口にする。
「動けなくなるのは問題だけど、この恐怖の感覚ってのは探索において重要だ。今みたいな相手にかなわないと本能的に分かったら、撤退戦をするか、気づかれないようにと降りずギルかそういう判断ができる。優秀な探索者程、恐怖を飼いならしてるもんだ」
「恐怖を飼いならすかぁ」
トムの言葉にドレットが顎に手を当て考え込む。
「リコ」
「なんですか?」
盾に寄りかかり、肩で息しているリコにトムが声をかける。
「今誰がやってんのか知らないけど、このパーティのリーダーお前がやれ」
「え?」
思わぬ一言に、リコの眼鏡が驚いた拍子にずれて地面に落ちた。
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