潜る理由
学園の授業も終わり、生徒たちがトムの作ったダンジョンに挑む姿をトムは眺めている。学園の校庭では、アーツフェスティバルの準備が進んでいるようで、広い肯定の真ん中に選手が戦うステージとその周りを取り囲むように観客席の設営が生徒会主導で進められている。
「トム先生今のはどうですか?」
生徒がトムに攻略のやり方について、指導を求めてくる。今では上級生もトムに教えを乞う事に抵抗を示す事もない。反抗的だった生徒は、トムの実力を認め改心したか、別の演習を取ることにするかの二通りに分かれた。
「今のはドルクスが前に出過ぎだ。後衛のステラもニケもついていけていなかった。お前がやられたら、後ろもやられる。だからこそ慎重になれ。あと後衛二人も魔法の詠唱にかかる時間は正確に前衛に伝えろ。それで前衛の体力管理が楽になる」
ドルクスという盾と剣を持つ男子生徒は、トムよりも年上だがトムの言葉を素直に受け入れる。
「詠唱はもっと早くした方がいいですか?」
ステラは杖を胸に抱えながら訊いてくる。
「今出来るのか?」
「あ、あれ以上は無理ですけど、そういう訓練をした方がいいのかなと」
伏し目がちにトムを見る。
「もちろんそういう訓練は必要だとは思うけど、でも今は現状でのダンジョンに潜った時の動きの授業だからな。探索で大事なのは、今ある手札でしっかりと結果を出すことだ。ステラの詠唱も決して遅いわけじゃない。詠唱を短くする試みと並行してみてやってみた方が良いな」
「ハイ!」
ステラたちは、トムのアドバイスを聴くとすぐにチームで集まり相談し始めた。それを見ていると、また一組ダンジョンから出てきた。マリーを抜いたドレット、エリーゼ、クロム、リコのパーティだ。エリーゼとドレットが、何か言い合いをしているようだ。
「あなたが前に出過ぎるからリコの盾の邪魔してるのよ!」
「だから悪かったって言ってるだろ!でもオレの武器も槌なんだから前に出ないとあたんねぇんだよ」
「あんなに大きく振り回す必要ないでしょ!私とクロムさんだ攻撃に入れないじゃない!」
それにはクロムも同意しているようで、大きく頷いている。
「みんな落ち着いて、あ、トム戻りました。お願いします」
二人を必死に宥めるリコがトムに気づいた。若干涙目なのは、ダンジョンの一戦闘毎もエリーゼとドレットがもめるからだろう。トムはため息をつきながら、ドレットとエリーゼを仲裁し講評に入る。
「今はマリーがいないから、元々バランスの悪いパーティがさらにバランス悪くなってるから相当連
携に注意しないといけない。ドレットお前の魔槌は良い火力が出るんだ。お前は敵と戦うんじゃなくて仕留める方に回れ。リコが受け止めてる敵を仕留めて、エリーゼとクロムが小物を引き受けるのが理想だ」
「分かってはいるんだがな」
トムの指摘にドレットは頭を掻く。トムは前々から気になっていたことをドレットに訊くことにした。
「お前なんで探索者になりたいんだ?お前んちは貴族は貴族でも鍛冶貴族だろ?お前確か三男だって言ってたが、実家の持つ工房の一つ継ぐとかできるだろうに」
「俺は誰かの工房じゃなく、自分の工房が欲しいんだ。でも金がかかるだろ?だから金を稼ぐために探索者になりてぇんだ」
ドレットはトムから目線をそらしながら質問に答えた。しかし、それが本心でない事は明白だった。
「金を稼ぐなら冒険者でも良いし、実家の工房で働きながらの方が技術も学べると思うんだが?」
「確かにそうね?何を隠してるのドレット?」
エリーゼがドレットに詰め寄る。ドレットは顔を赤らめながら観念したように息を吐いて両手を上げる。
「言うよ、言えばいいんだろ?俺には潜りたいダンジョンがあるんだよ」
そこまで聴いた、トムが何かを思いついたように手を叩く。
「【エルマンの工房】か」
【エルマンの工房】とは、下級ダンジョンの中でも高難易度に分類されるダンジョンだ。伝説の鍛冶師エルマンの工房が彼の死後ダンジョン化したものであり、内部では蠢く武器が襲ってくる。様々な武器が神出鬼没に襲い来るため、探索者ギルドが実力を認めた探索者しか入ることが出来ない。このダンジョン出てくるモンスターは全てエルマンの作品であるという噂があり、鍛冶師の間では、エルマンの技術を盗めるかもしれないと人気が高いのだ。
「そうだよ。どうしても【エルマンの工房】に行きたいんだ!親父もそこに行って凄腕の鍛冶師になったからな。オレも親父みたいな鍛冶師になるためにそこに行きたい」
父親みたいになりたいというのが気恥ずかしく、顔の赤みがますドレット。そんなドレットの様子に、トムは笑みを浮かべる。
「そうか、お前も父親の影響か」
「お前も?」
トムの呟きにリコが反応した。
「いや、なんでもない」
「お前もってことはトムも父親がらみなのか?そういえば聞いたことないなトムが潜る理由」
「それは、気になるわね」
「確かに」
ドレット達もトムの呟きを聴いていたようで、好奇心に満ちた目をしている。
「俺は、ドレットみたいな立派な理由じゃねぇよ。父親を捜してるんだ」
「ダンジョンで行方不明になったんですか?」
リコの純粋な疑問にトムは言葉に詰まる。そこに、クロムが首を傾げているのが目に入った。
「あれ?でも、入学式の時に、マリーと一緒にご両親いましたよ?」
「え?じゃあ行方不明ってわけじゃないの?」
「どういうことだ?」
クロムの言葉に混乱する面々にトムは顔を伏せる。
「かくれんぼ……」
「え?」
あまりにも小声だった呟きに聞こえなかった面々が訊き返す。トムは意を決したように息を吸う。
「小さいとき、オレが親父にかくれんぼしようって言ったら。あの親父古代ダンジョンに隠れやがったんだ。それ以来ずっと俺と親父はかくれんぼ中なんだ。だから親父は俺が見つけるまで、俺の前に姿を絶対見せない。ちょくちょくこっちに来てるらしいが、俺を綺麗に避けてる。古代迷宮以外で見つかる気はないってよ」
「なんだそりゃ……」
「思ったより、なんか、その……」
「不思議なお父様ですね」
「トム先輩……大変ですね……」
意外すぎる理由に四人は微妙な表情で言葉に詰まった。コホンと咳ばらいをして恥ずかしさをごまかしつつ、トムは話題を変える。
「【エルマンの工房】に行くならなおさら連携が出来ないと話にならないぞ?」
「それは分かってるけどよ」
「分かった。お前らダンジョンに入れ補講だ」
「「「補講?」」」
「あぁ、てかぶっちゃけお前らのパーティが一番成績が悪いからな」
トムがそういうと、リルイが飛んできた。
「こいつらえをダンジョンに入れてくれ」
「はーい!四名さま、ごあんな~い」
そう言って、リルイが指を振るとドレット達の体が浮いてダンジョンへと入っていく。トムもそれに続けて入っていった。その様子を見る五人の生徒。その腕には、生徒会と書かれた腕章がついていた。
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