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旅のお土産

「ふわぁー」


マリーは、可愛らしいあくびと共に伸びをした。毎朝の日課である鍛錬を行うため、運動着に着替えて、まだ薄暗い廊下を庭へと向かう。


マリーが芝生に覆われた庭に着くとそこには、白く輝く刀を振るうトムの姿があった。その姿は、まるで伝統的な舞のような美しさと軽やかさが見て取れる。あまりに美しい姿に一瞬見惚れるが、すぐに我に返り挨拶をするために駆け寄る。


「兄さん!おはようございます!」


礼儀正しくお辞儀までする妹に苦笑しながらも、片手をあげ、挨拶を返す。


「おはよう。はやいな、いつもこの時間に起きてるのか?」

「ハイ!迷宮探索には魔法使いも体力が必要不可欠ですから!」

「そうか、頑張ってるんだな」


そう言いながら微笑む兄にマリーは頬を赤くしながらも大きく頷く。そこに、たくさんの薪を宙に浮かせて運んでくるリルイが来た。


「うー、ちょっと重いよー。薪持ってきたよーあ!マリーちゃんおはよー!」


薪を置くとマリーに向かい大きく手を上げる。


「おはようリルイちゃん。その薪は?」

「トムの鍛錬よう―」

「兄さんの鍛錬?」


首を傾げるマリーにトムが説明する。


「リルイが全方位から無差別にサイキックで飛ばしてくる薪を避けたりするんだ」

「それは、すごいですね、少し見学させていただいても良いですか?」

「良いけど……別に面白くもないぞ?」

「いえ!兄さんの鍛錬法に興味あります!」


両手を胸の前で握りしめ鼻からフンスと息を吐く。そんなマリーの目は宝物を見つけた子供の用に輝いていた。


「そうか……危なくないようにしてろよ」

「ハイ!」


許可をもらえたマリーは少し離れ、座り込む。それを確認したトムはリルイを見る。


「準備は良いか?」

「いつでもいいよー!」


そう言いながら、肩を回す。リルイの言葉を聞いた後、近くに置いていたタオルを手に取る。


「えっ……」


マリーが思わず目を丸くした。なぜなら、トムは目をタオルで覆うように巻いて後ろで結んだのだ。そのあとに三回ほどその場で回り、方向感覚を分からなくした。その証拠にトムはリルイに背を向けてしまっている。


「良いぞー」


トムが短く言うと、リルイが薪をサイキックで持ち上げ、弾丸のように飛ばしていく。その軌道は直線だったり、蛇行したり、トムを通り過ぎたものが戻ってきたりと様々なものだった。しかし、どの薪もトムには当たらない。風に翻弄される花弁のようにヒラリヒラリとかわしていく。


「す、すごい……」


探知の魔法も使えない、ましてや魔力で身体強化も使えないはずの兄が、人間の身体能力だけで目の前の光景を作り出していることをマリーは信じられなかった。


「そろそろ斬るぞ」


トムは宣言通りに腰に携えた【白無垢】を抜き、その美しい刀身で、飛んでくる薪を的確に二つにしていく。切った薪もリルイがサイキックで操作し、トムに襲い掛かるが全く当たる気配がない。気づけば、薪は先ほどの倍の数になっていた。最後の薪を二つに割ったところで、リルイが薪を一か所に集める。


「終わり―」


リルイの号令と共に、アキラは目隠しを外し、そのまま汗をぬぐう。


「すごいです兄さん!どうやって薪が来る方向が分かったのですか?!」


そう言って駆け寄るマリーに微笑みながら疑問に答える。


「薪が空を切る音と押しのける空気を肌で感じて判断してた」

「わ、私にもできるでしょうか!」


興奮冷めきらないといった様子のマリーの頭に手を乗せて落ち着かせる。


「落ち着け、お前は魔法使いだろ。前衛じゃないんだから」

「そ、そうでした。すみません。あまりのすごさに興奮してしまって」

「ハハハ。妹にこんなに絶賛されるならよかったよ」


そう笑いながら、マリーの頭を優しく撫でる。


「俺は戻るけど、お前は鍛錬するんだろ?」

「ハイ!」

「ほどほどにな」


そう言って戻っていくトムの背中を見送り、マリーは気合を入れて、走り出した。



 マリーも鍛錬から戻り、家族で食卓を囲み糧食を摂る。和やかな雰囲気が部屋に流れ、それぞれがおもいおもいの事をしていると、にわかに玄関先が騒がしくなってきた。何事かと、立ち上がったトムの元へ、サクトゥがやってきた。


「坊ちゃま。スエフト商会を名乗るものがいらっしゃっています」


それを聞いたトムは笑みを浮かべ、玄関へと向かう。


「そうかやっと来たか!」


玄関の門をくぐり抜けると、多くの獣人やエルフなどの亜人種が荷物を下ろしており、ヘイカー家の使用人も手伝っていた。その中に、荷下ろしを指示している褐色の青年を見つけ、彼に駆け寄る。


「ミック!」


ミックと呼ばれた青年は振り返り、トムを見つけると固く握手をした。


「トム!久しぶりだ!」

「やっと来たな」

「やっとってお前、山二つと海一つ越える大移動だぜ。これでも急いだほうだ」

「いやいやすまない。みんなにお土産をと思うとどうしてもな。そうだ荷下ろしは終わったか?終わったならお茶でも飲んでけよ!」

「お前の家の方々が手伝ってくれたからな。荷下ろしはもう終わるよ。しかし、お邪魔しちゃってもいいのか?」

「良いって良いって、サクトゥ商会の方たちにお茶を出してやってくれ」


トムの年相応のはしゃぎっぷりに目を丸くするヘイカー家の使用人たちだが、サクトゥだけは平静を取り繕っていた。トムの要望に笑顔で答える。


「かしこまりました」


トムはミックをリビングに通すと、アリサとマリーがミックを出迎えた。


「母様、マリーこちらはミック=スエフト。スエフト商会の会長の息子だ。ダンジョン巡りん時に会って世話になったんだ。ミック、こっちは俺の母レイカ=ヘイカーと妹のマリー=ヘイカーだ」


トムがお互いを紹介すると、ミックは慣れた所作で跪き深く頭を下げる。


「お会いできて光栄でございます。私、スエフト商会の副会長をしております。ミック=スエフトと申します」

「初めまして。レイカ=ヘイカーと申します」

「マリー=ヘイカーと申します」


レイカとマリーも美しいお辞儀でミックに挨拶する。サクトゥがお茶を用意し、ちょっとしたお茶会が始まった。


「息子がお世話になったそうですね。ありがとうございます」

「いえいえ、私たち商会といたしましても、エルヴェストが誇る、ヘイカー家の御子息に贔屓にしていただいて光栄でございます」

「本日はどのような御用で?」

「本日は、トム様よりご購入いただいていた商品と輸送を頼まれていた商品の納品に参りました」


ミックがそういうと、少し席を外していたトムが包みを二つ持って戻ってきた。


「旅の途中で買った、みんなへのお土産を、ミックを通して輸送してもらってたんです。量が多かったので」

「そうなの?」

「ハイ。それでこれを母様とマリーに」


二つの包みを二人に渡す。レイカが包みを広げると赤く透き通るまるでガラス細工のような蝋燭が華々しい甘い香り共に出てきた。


「すごくいい匂い。それにステンドガラスガラスのような美しさね。これは?」

「母様が好きな、エンジェルガーデンローズの花弁を使って作られた蝋燭で、火をつけると香りが部屋いっぱいに広がりますよ」

「それはすごいわね!」


そう言いながらレイカは蝋燭を興味深げに見回す。そこにミックが詳細を説明した。


「そちらの品は、西方ではアロマキャンドルと呼ばれているもので、他にも様々な花の香りの商品がございます」

「なるほど、この商品はあなたの商会で販売しているのかしら?」

「ハイ。こちらのアロマキャンドルはわが紹介でも人気の商品でございます。お求めいただければいつでも購入していただくことが出来ます。今回何品か試供品の用意がありますので、お試しになられますか?」

「ぜひ!」


アロマキャンドルを気に入ったレイカは、他の種類も見てみたくなったようだ。ミックは後ろに控ええていた商会員にアロマキャンドルを持ってくるよう伝える。その様子を見ながら今度はマリーが包みをを開けた。


「これは!」


そこに入っていたのは、一本の杖だった。その杖は木造とは思えない程のつややかな光沢を放ち、その色は降り積もる雪のような白さだ。


「ニンブルドウムの杖!?」

「あぁ、ニンブルドウムの木をたまたま探索に入ったダンジョンで見つけてな。魔力伝導が高いって聞いたから、オレが採取して、ミックのとこで加工してもらったんだ」


トムの説明を聞きながら、杖に握り心地や初級魔法の【ライト】を発動しながら使い心地を確かめる。マリーはトムの方を向き、満面の笑みで礼を言った。


「ありがとうございます兄さん!大切に使いますね!」


そう言いながら、大事そうに杖を抱く妹にトムも満足したようなホッとしたような顔をする。


「杖の加工までできるの?」


アロマキャンドルを試しながらも話を聴いていたレイカはミックに訊ねる。


「魔法関連に強いエルフが我が商会には多数いますから」

「そういえば、表で作業しているのは亜人種が多かったわね」

「えぇ、うちでは、父の方針で亜人種を積極的に雇用していますから」

「あら?それはどうして?」

「亜人種の犯罪者を減らすためだそうです」

「なるほどね、安定した雇用があれば、生活苦からの犯罪は確かに防げるものね。素晴らしいお考えだわ。一度お会いしてみたいわね」

「それは、光栄でございます。父にも話ておきましょう。きっと喜んでこちらに飛んでくると思います」


レイカとミックが話していると、そこにトムが口をはさむ。


「母様、スエフト商会をうちの定期商会にしたいのですが宜しいですか?」


貴族にはそれぞれお抱えの商会があり、その商会から衣服や装飾品、雑貨などの品物を買い付けることがほとんどだ。ヘイカー家はダンジョン管理という特殊な使命をもった家のため、今まで特定の商会を立てず、街の市場で買い出しを済ませていた。


「んー。確かにスエフト商会の商品は魅力的だわでも、商会の事をもっとよく知っておかないといけないわ」


そこまで言うと、レイカはミックへ向き直る。


「正直なところ、スエフト商会を我が家のお抱えの商会にしたいとは思っています。しかし、ヘイカー家の特殊性をよく知っていただき、そちらの輸送手段なども加味して契約したいのです。なので、会長とお話しさせてもらってから決めさせていただく形でもいいかしら?」

「商会の事であれば私が説明しますが……」

「組織の長の人柄も含めて検討したいのです」

レイカの真剣なまなざしに、ミックは頭を下げる。

「承知いたしました。近いうち、父と共にこちらに伺います」

「お願い致します」


レイカは満足げに微笑んだ。ミックはすぐに商会の本部へと変えるため、荷下ろしが割ると同時にトムと固い握手を交わし帰っていった。

 トムは、荷下ろしの終わった荷物をひとつずつ開け、使用人にも配っていった。料理人たちには包丁と、多種類の手に入りずらい香辛料を、メイドたちには、手の保湿を助けるハンドクリーム。執事たちには晩酌用の珍しい酒。子供のいる使用人には絵本や玩具を、庭師には新しい剪定鋏といくつかの花の種を渡した。使用人全員がトムに感謝を言い、お土産を大切そうに自分たちの持ち場へ抱えていった。


最後までお読みいただきありがとうございます!


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