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19 魔王様、死す

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名前:魔王様

種族:魔族

職業:魔王

属性:闇、時間

魔力:SSS

スキル:【時間魔法適性】【闇魔法適性】

冒険者ランク:なし

二つ名;【魔王様】【人類の災厄級クエスト】

---------------------------------


 ――魔王様は、あの日のことを忘れない。


(みんな……すまない)


 脳裏に浮かべるは、同族たちが死に絶えた記憶。

 一人の脆弱な人間によって、滅ばされた仲間たちの最後だった。


 あの日――加賀見太陽なる、人間失格級の力を持った化物が魔王城に乗り込んできた時に、魔族は滅んだ。


 四天王、五魔将、六魔侯爵、七大罪、その配下達。誰もが強く、そして気高い者たちだった。人間との戦いで数百年を共に闘ってきた、盟友だった。


 だが死んだ。たった一人の化物のおかげで、魔王様の全ては灰塵となって燃え尽きた。


 魔王様は、あの日のことを忘れない。


(我は、弱かった……)


 死に絶える仲間たちを、見捨てることしかできなかった。

 魔族の王であるというのに、情けなく逃げることしかできなかった。


 みっともなく、惨めで、魔王にあるまじき行為である。されども、あの時は逃走こそが最善だった。


 勝てるはずもない勝負を挑むことは無意味。なれば、逃げることのみが正解だと――魔王様は、自分に言い聞かせて魔王城に背を向けたのである。


 本当は仲間と一緒に死にたかった。最後まで立派な魔王でありたかった。だが、そんな永遠の名誉よりも――今代の魔王様は、復讐の道を選んだのだ。


(強く……強くあれ!)


 あの時の魔王様はどうあがいても太陽に勝てなかった。力が単純に弱かった。だから、強くなることを己に誓ったのである。


 強くなり、仲間を殺した太陽を殺すこと――それこそが、今代の魔王様に与えられた使命と責務。


 故に、魔王様は逃げた後……死に物狂いの特訓に励んだのである。


 ――千年。千年だ。魔王様は、千年の時を己の研鑽に努めた。


 魔族には、古来より伝わる魔法アイテム『刹那の小部屋』というものがある。これは時間魔法のかけられた小部屋で、中は外の数千倍時間が早く流れるというものだ。


 その部屋の中で、魔王様は現実時間で三か月――体感時間でいえば千年もの間、修業に費やしたのである。


(これなら、勝てる……)


 結果、魔王様は強くなった。己の精神が崩壊する限界ギリギリまで部屋にこもり、力を高めたのである。以前とは比べ物にならないくらい強くなったのだ。


 例え太陽が相手だろうと負けない――と、魔王様は確信していたのである。


 そうして、彼は人間界へと降り立ったのだ。


 炎龍山脈付近から、しらみつぶしに村を襲う。人間を大虐殺して噂を広め、いずれ来るであろう太陽と相まみえる。


 これこそが、魔王様の計画である。


「ま、魔王だ……魔王が出たぞ!!」


 誤算だったのは、すぐに見つかってしまったことか。炎龍山脈はどうやらもうなくなったらしく、そのあたりを資源の探索に来ていた者に見つかったのだ。


 すぐに衛兵が駆け付け、それから冒険者やら兵士やら騎士やらもやってきた。面倒なので作戦を変更して、軽くあしらう程度にしてやった。


 最初の死者は、加賀見太陽にしよう――と、魔王様は考えていたのだ。


「奴が来るまで、遊んでやろう」


 数えきれないほどの人間を前に、しかし後れをとることなく。むしろ圧倒する魔王様に対して、人間勢は必死の表情を浮かべていた。


「くそ! 攻撃が当たらない……っ!」


 とある冒険者が呻いている。魔王様はその冒険者を嘲笑った。


「くくっ……当然だ。開眼した我の『先見の魔眼』は、未来を視ることができる。貴様ら人間の攻撃なんぞ、手に取るように分かるのだ」


 千年の修業で習得したものその1――『先見の魔眼』は、未来を視ることのできる眼だ。この眼があるので人間勢の攻撃は当たらないのである。


「それに、速すぎる……これはもう、生物の域を超えてるだろ」


 続く冒険者の声にも、魔王様は哄笑した。


「くくくっ……無理はない。我に発現したスキル【時間加速】によって、我の時間は貴様らの10倍加速しているからな」


 千年の修業で習得したものその2――『時間加速』は、己の時間を加速させるスキルだ。人間勢にとっての一秒は、魔王様にとっての十秒なのである。動きについていけなくなるのも当然だ。


「やっぱり無理だろ……なんだよあの魔法! 見たことないし、どうにもならない!」


 更に上がる冒険者の嘆きに、魔王様は冷笑した。


「くくくくっ……然り。我の進化した闇魔法は、人間の心を喰らう。抵抗する術などない」


 千年の修業で習得したものその3――【神級闇魔法】は、もともと持っていた闇魔法を極めたものである。修業前は上級まで使えていた魔王の固有魔法なのだが、千年の修業によって磨きをかけた。


 闇に触れれば人間は意識を失う。それほどまでの魔法を、魔王は操っていたのである。これによって何人もの人間が気絶してしまっていた。


「やろうと思えば命さえも奪える闇だ。気を付けた方がいい」


 魔王様は笑う。哂う。嗤う。己の力を見せつけ、圧倒的な差を確認し、これ以上ないくらいに笑っていた。


「早く! 早く、あの憎き化物人間を呼べ! 我を、これ以上待たせるな!!」


 手を広げて、声を上げる。

 身をすくめる人間共を満足気に見下ろしながら、何人か殺してみようかなと考え始めた頃合いだった。


「あ、魔王だ」


 気の抜けた声が聞こえた。声の方向に視線を向ければ、そこにはパットしない顔つきの少年がいる。


「加賀見太陽……っ!!」


 その少年こそが、魔王様の仇だ。今しがた現れたであろう彼は、呑気な足取りでゆっくりと歩み寄ってくる。


「殺す……我の力で、殺す!」


 長かった。

 千年もの時を経て、ようやく殺すことができる。

 千年もの時を経て、ずっと消えてくれなかった怒りをぶつけることができる。


 憎きその顔を、ぐちゃぐちゃに歪めてやることができる――そう思って、魔王様は最強との戦いへと望むのであった。


「【時間加速】」


 己の時間を十倍に加速させて、更に。


「『先見の魔眼』開眼」


 未来を見る魔眼を開いて、相手の動きを読みとる。

 万全の状態をもって、太陽を殺しにかかった…………はずだった。






「…………え?」





 視えた。

 自分の『死』が、視えた。


「――っ」


 この戦いの未来を『先見の魔眼』は教えてくれる。


「そ、んな……バカ、なっ」


 魔王が、爆発してぐちゃぐちゃになる未来を……見せてくれた。


「なんで、こんなっ……嘘、だ」


 よろよろと、魔王はよろめく。あまりにも鮮明な自らの死は受け入れ難く、頭の中がどうにかなりそうだった。


「ん? どうした? 戦わないのか?」


 対する太陽はどこまでものほほのんとしているもので、青ざめた表情の魔王様を見て不思議そうに首を傾げる始末。


 一歩、また一歩と……太陽は魔王様へと近づいていく。

 その一歩は、魔王様にとっての死の一歩だった。


 映る。瞳に、声を上げる間もなく死ぬ自分が、視える。


「く、来るなぁああああああ……【死の闇(デス・ダークネス)】!!」


 あまりの恐怖に、我を忘れて最大の攻撃魔法を放ってしまう。

 闇属性神級魔法【死の闇(デス・ダークネス)】――文字通り、死を生み出す闇のことだ。闇に触れたが最後、対象は命を奪われる……という魔法なのだが。


「ん? なんだこれ? 煙?」


 太陽は、その闇に触れようとも平然としていた。死ぬ様子など微塵もない。


「な、な、な、な……っ」


 魔王様は驚きのあまり『な』しか言えなくなっているようだが、これは仕方のないことである。


 闇属性の性質は『魔力の強奪』。触れた者の魔力を奪うことで、強引に魔力の欠乏状態を作り出すのだ。故に人間に触れれば意識を失うし、強奪される量が多ければ命も奪われる。


 だが、太陽の保有魔力量は莫大だ。魔王様ごときが強奪できないほどにたくさんある。故に、太陽への闇魔法は効かなかったというわけだ。


 未来は死しか見えない。闇魔法が効かない以上、攻撃の手段がないため自らの時間をいくら加速したところで無駄。


 太陽に勝つ術など、どこにもなかった。


「そん、な……」


 ――千年。千年だ。千年もの間、魔王様は修業に努めた。

 されども、この千年は……まるで意味がなかったのだと、太陽という存在を前にして、魔王様は気づいてしまうのだった。


「なんだ? 何もしないのかよ……じゃあ、俺から行くぞ?」


 絶望する魔王様に、太陽はやはり容赦しない。というか、暴れたくてウキウキしているようでもあった。楽しそうに魔力を練り上げ、手のひらに火炎を出現させる。


 瞬間、魔王様の未来が分岐した。


「――っ!?」


 喜びかける魔王様。だが、分岐した先にある未来の自分に……魔王様の頭は、真っ白になってしまうのだった。


 炎による焼死。爆発による爆散。熱気による肉体の溶解――などなど。無惨な自らの死体が、無数に見えてしまったのだ。


 分岐したところで、死という結果は変わらない。むしろ死に方が酷くなるばかり。


 未来が見えるからこそ、最強だと思っていた。

 だが、未来が見えるからこそ……弱くなってしまうとは思わなかった。


「あ、はは……」


 魔王様は、膝をつく。変わらない未来を前に……自らの死を見て、彼はもう生きることを諦めてしまったのだった。


「――――ぁ」


 刹那、ドサリと……魔王様は倒れ伏した。

 その体は、ピクリとも動かなくなっていた。


「…………え? 死んでる?」


 太陽の呟きは、魔王様にはもう聞こえていない。

 恐怖と諦観によってショック死した魔王様の命は……もう、この世になかったのだから――








「おいおい、嘘だろ……なんでさ。なんで死ぬのさ! 俺まだ暴れてないよ? お前魔王だろ、ちょっとは根性見せろよ! バカ、お前……ストレス発散できなかったし、むしろ溜まっただろうが! ちくしょう、どうしてくれんだアホ!!」


 ――まあ、そんな魔王様の心情など太陽は知るはずもなく。

 自らのドジによって奴隷になった鬱憤を晴らしたかったのに、何もせずとも死んでしまった魔王様に恨みが募るばかりであった。


「ちくしょぉおおおおおおおおおお!!」


 こうして、人類の災厄級クエストがまた一つ達成されたのだった。


【第一章 無双編~主人公なのに暗殺対象!?~ 完】

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