20 おっぱいを、もむために!
奴隷の首輪が、外れない。
「これ、マジでどうなってんだ……? 俺の超爆発魔法でも壊れないし、しかも効果が強力すぎる。なんだよ、装着した者を例外なく奴隷にするって……意味分かんねぇよ」
太陽は首元の首輪に触れながら、うんざりしたようにそんなことを言った。
フレイヤ王国、城内。いつものごとく謁見の間にて、太陽は王女であるアルカナ・フレイヤと騎士王であるエリスと顔を合わせている。
「耐久力の問題じゃない……なんていうか、これは俺の魔法を無効化しているようにしか思えないんだ」
話の内容は、太陽が間抜けな理由でつけてしまった首輪について。一応は外そうと試みているのだが、いかんせんどうにもならなかった。
超新星爆発でも破壊は不可能。既に実験は済んでいる。ならばと辿りついた結論に、太陽は首を傾げている。
「こんな強力な魔法アイテム、存在してたのか」
魔法無効化のアイテムなんて聞いただけで恐ろしいものである。
「これはエルフ国産の魔法アイテム。エルフはこういった未知の魔法アイテムをたくさん保有している」
「エルフ。エルフね。ふーん……ちなみに、どこに行ったら会えるとか分かるか?」
「……あそこは、普通の手段では行けない。人間国とは不可侵条約を結んでるけど、仲は良くないから。むしろ毛嫌いされてる」
太陽の問いに答えたのは、王女ではなくエリス。王女は先程からぼんやりと太陽を見るだけで、何も言うことはなかった。
「そっか。是非とも見てみたいなぁ……やっぱりかわいい?」
「かなり」
かなり、可愛い。この異世界ミーマメイスは地球よりも顔のレベルが高いのだが、その世界の人が『かなり』というのだ。
それはもうヤバイくらいかわいいのだろうなと、太陽は鼻の下を伸ばしていた……のだが、問題はそこではなく。
「って、違くて。この首輪! どうすればいい? やっぱりどうにもならないか? これ邪魔だからとりたいんだけど」
首回りに異物があると気分が落ち着かないので、最近邪魔に思うようになってきた次第である。
「……貴殿は奴隷になっていることを気にしているのではなく、ただ単に邪魔だからという理由で取りたいと言っているのか?」
「うん。だって、王女様何もしないって言ったし。万が一の対策としてとかなんとかだろ? それは別に気にしてないんだけど……首が痒くてさ。取り外し可能であれば嬉しいんだけど」
「そうか……貴殿の考えは理解できない。でもまあ、外したいという意思は理解した。だからといって、手段はやはり分からないけど」
エリスはそう言って、横目で王女様を盗み見る。だが、それでも無言の王女様に息をついてから、太陽にこんなことを言うのだった。
「ただ……エルフなら、奴隷の首輪を外す方法を知っている可能性はある。確証はないし、憶測にすぎないけど、エルフは魔法技術に優れているから」
「なに!? じゃあ行く! エルフの国に、絶対行く!」
エリスの言葉に太陽は食いつくように前のめりになっていた。どうやらエルフに会いたくて仕方ないらしい。
「どこにあるのか教えてくれっ」
目を輝かせる太陽に、エリスは言葉を返す。
「……普通は無理。エルフの国『アルフヘイム』は魔法の結界によって守られているから、許可が必要」
「じゃあ許可くれ」
「アルカナのではない。エルフの許可が、必要」
許可がなければ行くことは不可能。だが、口ぶりから察するにどうもエリスはエルフと関係がありそうなのである。外見を知っていることといい、手段がないとは思えなかった。
「何か、裏ルート的なのがあったりしないか?」
再びの問いかけに、エリスはもう一度王女の方に視線を向ける。ただ、やはり王女は何も言わなかったので、仕方ないといわんばかりにエリスが説明を続けるのだった。
「ある。そもそもアルカナが【奴隷の首輪】を持っているのは、エルフ国から魔物の捕縛を依頼されているから。月に一度、お金と引き換えに奴隷化した魔物をエルフ国に引き渡している」
「……つまり、奴隷化した魔物ならエルフ国に入れるということか。あ、じゃあ俺も入れるんじゃね? 今奴隷だし、丁度いいじゃん!」
名案と言わんばかりに、太陽は大きく頷いている。
「よっしゃ、これでエルフと会える……あと、ついでに首輪を外す手段も探せるし、一石二鳥だ!」
「……まあ、貴殿の言っていることができないこともない。ただ、いいの? エルフに奴隷として引き渡して、まともに扱われるとは思えない」
わざわざ奴隷と表現しているのだ。魔物の辿る末路など、説明しなくても容易に想像できるというものである。
「え? でも、俺に絶対の命令権があるのは王女様だけだろ? だったら、まあ大丈夫だろ。いざとなったら全部燃やすし」
だというのに太陽は楽観的だった。最強すぎる力を持っているせいで危機感があまりないのである。自分が死ぬわけなどないという、絶対的な自信があるのだ。
「確かに、奴隷の命令権を持つのは主一人に限定される。魔物にもアルカナが『人間とエルフに襲いかかるな』という命令を与えて、引き渡しているだけだし……出来ないこともない」
ただし、エリスには懸念していることがあるようだった。
「でも、エルフには悪い噂がある。真実かどうかは定かではないけど、人間を誘拐して奴隷にしているという話が……色々なところで噂されている。実際に、誘拐の現場でエルフらしき影を見たという目撃情報もあるから、関わるのはあまりお勧めしない」
「え? それって、俺と同じように首輪をつけて奴隷にしてるってことか?」
「たぶん。エルフには人の心を操る魔法もあるはずだから、首輪もつけられるはず。エルフには疑いがかかっている状態……実際に兵団でも極秘で探っている」
人間が誘拐されて、奴隷になっているかもしれない。故に、行くことはお勧めしないというエリスに、しかし太陽は首を振った。
「だったら尚更行かしてもらう。俺は【人類の守護者】だぞ? 見過ごすわけにはいかないだろ」
むしろ行く気満々になってしまったようだ。彼は好戦的な笑顔を浮かべながら、指を鳴らしていた。
「いいね、いいね! ファンタジーっぽくなってきたよ……エルフとの確執か。うん、面白い。この俺が直々に赴いて調査してやる」
今まで歯ごたえの無い戦いばかり繰り広げていた。楽しいというよりは作業っぽい戦いにいいかげん辟易としていた太陽は、エルフとの問題を知って楽しそうに笑っている。
やっと異世界らしくなってきたと、彼は心を躍らせていた。
だが、エリスは太陽とは対象的にエルフと関わるのは嫌そうである。
「エルフはプライドが高い。人間を見下しているし……それに、もしも貴殿がエルフの国に送られたとして。そこでエルフを襲えば、アルカナの不手際にされてしまう。それはあまり、好ましくない」
アルカナとエルフの間に取り交わされた約束。魔物を引き渡す際は絶対に『人間とエルフを襲うな』と厳命する必要があるのだ。これを太陽が破れば、きちんと命令していなかっただろうとアルカナのせいにされてしまう。
それがエリスには許せなかったのだ。
「……いいえ、エリス。太陽様の、したいようにしてもらおうよ」
しかし、当の王女は太陽の要求に肯定的なようだった。
「アルカナのせいにするのであれば、それでいい。怒られるくらいなら、別にいいよ……アルカナは大丈夫。太陽様はエルフの国に行って、奴隷の首輪と取る手段を探る。あと、できれば奴隷にされている人間がいるかどうかも、調査してほしい、です……どうかな?」
先程まで無言だった彼女は、小さな声で太陽の背中を押すようなことを言ってくれた。
「おお、助かる。けどあれだな。なんか王女様大人しくなったな。風邪か? 小生意気な態度どこいったよ」
いつもより静かな王女に太陽はからかうように声をかけた。年上の魅力的なお姉さまにはへたれる彼だが、恋愛対象や性の対象でない女性なら割と普通に話ができるのである。
「それは、その……なんというか、ちょっとアルカナは勘違いしていただけなのかなっていうか、色々と間違えちゃってたのかなって反省しているというか……」
もごもごと喋る王女。太陽は肩をすくめて、息をついた。
「まあ、何だっていいけどな。怖がらないでくれるならそれでいいよ。知ってるか? あの態度、マジで傷つくんだ……俺何もしてないのに! まったく、ようやくまともになってくれて嬉しい限りだ」
この日の会話は全てスムーズに進んでいる。前みたいに無駄に土下座されてないので、太陽はいつもより機嫌が良かった。
というか、少し調子に乗っていた。
「あと、そうだな……仮に俺がエルフから人間の奴隷を見つけ出したら、依頼の達成報酬として一つお願い事を聞いてもらおう」
「…………ぅ」
ぐへへへと笑う太陽。その顔を見て、何かとんでもない要求をするのではと身構える王女とエリスは、だが何でも言うことを聞く所存で耳を傾けた。
もしも奴隷がいて、それを助け出してくれたのなら報酬なんていくらあげても足りないくらいである。故に、二人は相応の覚悟をもって太陽のお願いごとを聞いていた。
「俺の願い……それはっ!」
やけに真剣な表情の太陽は、意を決したようにこんなことを口にするのだった。
「おっぱい、もませて」
「「…………は?」」
だが、その言葉に王女とエリスはぽかんとしてしまう。最初、何を言われているのか分からなかった。
「その、さ……俺、おっぱいもんだことないんだ。だから、もませて欲しい。頼む! せめて、おっぱいくらいもみたいんだ! 童貞なのは我慢するから、ひともみお願いします!」
勢いよく頭を下げる太陽。最早どちらが依頼している立場なのか分からない。
そうやって意味もなく必死な太陽に、王女様はきょとんとした顔で返事をする他なかった。
「う、うん。いい、けど」
彼女とて一国を背負う王女である。国の為なら、なんだってする覚悟は既に決めていた。胸を触らせる程度なら何も問題なかったのである。
「この身の胸が触りたいのか? 理解できない……」
エリスの方も意味不明そうな顔をしていた。彼女は胸がそこそこ小さいし、騎士として生きているため女性としての恥じらいなど全て捨てていた。故に、胸をもみたいと言っている太陽の気持ちすら理解できなかったのである。
ともあれ、二人がどう思うのであれ……おっぱいをもむということは、童貞の太陽にとって何よりのご褒美になるわけで。
「よっしゃあああああ!! 俺、頑張るっ。任せておけよ!」
嬉しそうにガッツポーズをして、ドンと胸を張るのであった。
「ということで、加賀見太陽! エルフの国に、行ってきます!」
奴隷の首輪を外すため。人間の奴隷がいないか調査をするため……
そして、おっぱいをもむために!
あと、かわいいと噂のエルフとお近づきになるために!
下心万歳の太陽は、こうしてエルフの国に向かうことになるのであった。




