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歩く速さで  作者: 雛
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第3章 1

 康介と紗弓が大学時代に入っていた旅行サークルでは、年に一回年度末にイベントがある。旅先のレポートや撮ってきた写真、その他諸々の展示会のようなものを催すのだ。基本的に旅行はメンバーの中でのこの指止まれ方式で、行きたい場所に行きたい人が行く。一人旅だってありのサークルだ。その代わり、そのイベントの他にもう一つ、年に一度サークルのメンバー全員での旅行がある。その旅行には、OB達も参加できてかなり広い年齢層の旅行になることもある。国内であることもあれば海外のこともあるし、短期だったり長期だったり、本当にいろいろだ。

 旅行の様々な手配や計画などを自分たちで全てやるのでそれなりに実は勉強にもなっている。示し合わせたわけではなかったのだけれど、康介と紗弓が後輩達の企画した旅行に楽をしてくっついていこうとしてみると、見慣れた顔ぶれが結構来ている。大規模な旅行だと言うこともあり、休みの取れたOB達の参加が多い当たり年だったようだった。

 アジア諸国をじっくり回るというコンセプトらしいが、要するに何でもありなんだな、と笑いながら、康介は集合場所の大学の正門に向かう途中でコンビニに寄った紗弓を置いて先に行ってしまった。

「それにつられたのはわたし達だって一緒でしょうが」

 笑って言いながら紗弓は気にする様子もなくコンビニで飲み物と軽く食料を買う。どうせ、空港に向かうバスの中で欲しくなるのだから。水分をあまり摂らない紗弓はどうせ一人で一本飲めるとは思えず、好みは康介とほぼ同じだから飲み物は一本しか買わない。向こうで必要になるだろうミネラルウォーターはとりあえず持てる分だけスーツケースには入っている。


 一足先に集合場所に着いた康介は、幹事に知らせてから見慣れた顔が集まっている場所にそのまま足を向けた。その中に紗弓と結婚する前に待ち合わせた駅で顔を合わせた、紗弓と微妙な関係だった奴……久城とその彼女が一緒にいるのを見て少しだけ内心舌打ちをする。もともとは、仲がいいわけでも悪いわけでもないのだけれど。もちろん、顔にそんな色を出すはずもない。

「あれ、紗弓は? 行くって聞いてたけど」

「一緒に来なきゃいけないのか」

 女友達のそんな言葉に偉そうに言い返す康介に、周りが思わず笑いを漏らす。もちろん、もう別居しているのか、などとヤジも飛ぶけれど。この場でもまだ、二人が結婚したことを知らない顔も多い。後輩達はなおさら。きっと、旅行中に知らなかった誰かが知る度に騒ぐのだろう。

「噂をすればだ。来たよ」

「ああ……探してる探してる。紗弓ちゃん!こっち!」

 聞き慣れた、でも少しだけ懐かしい声に振り返った紗弓は嬉しそうに微笑って小走りになって来る。何もない場所でこけるのが特技のような紗弓がこの人混みで誰にもぶつからず、何にもつまずかずに来れるはずもなく。スーツケースを転がしていたおかげでうっかりつまずくだけで済んだようなものだ。それでもそこまで来た紗弓を康介は軽く睨む。

「ばかか、うっかり者が」

「大丈夫大丈夫」

 笑っている紗弓に、何が大丈夫なんだと言ってやりたい。それをぐっとこらえながら、康介はあからさまにため息をついた。



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