第2章 1
あの瞬間の確信は、どこから来たんだろう。
人並みよりはかわいくて、細くて小さい彼女は割としっかり者で、面白くて頭も良くて、実は結構きついことも言う。そして、結婚願望が結構強い。
何となく、その気配に気づいてはいてもそっちには話が向かないようにし続けていた。向こうも、こっちのそんな考えが分かっているからそれを口に出したりはしない。表に出してしまえば平行線で、妥協点になんてそうそう行き着かないのが目に見えているから。
それほど飲まない酒を飲んで帰った時に携帯を出して、歩きながら誰かと話したくなった。彼女にかけようとしてふと手が止まって、他の番号にかける。時間は見てなかった。
『はい?』
「俺」
『ん~……どしたの、珍しいね、こんな時間に』
もう日付が変わってだいぶたってる時間だった。笑いながら頷いてしまう。アルコールが入っているせいか、酷く楽しい気分だった。
「飲んで帰って、うちまで歩いてるとこ。話つきあえよ。お前もかけてきたことあるだろ」
電話の向こうで紗弓が笑っている気配があった。笑いながらふくれているような、そんな顔が目に浮かぶ。
『そんなに飲んだの?いつも大して飲まないくせに』
「飲んでねぇよ」
他愛もないことを話しながら、家の門の前で立ち止まって、段差に腰掛けてそのままもう少し話していた。当たり前のように親しい仲間と会って話して、そういう生活ではなくなっていたから、話したりなかったのかもしれない。いつでも話せる彼女よりは、たまには声を聞きたくなったんだと、そんな理屈を自分に言ってみる。
就職して、仕事で思い通りにいかないことがあって。
【つきあえ~】
一言、メールを入れた。向こうも仕事中だろうに。割とすぐに、返事が返ってくる。彼女にではなくて紗弓に送っていた。紗弓は、職場が近かったから。
【何?急に。何かあった?夜仕事の後ならいいよ】
凹んだ時に話した相手は紗弓だった。飲んで帰った時に電話をしたのは紗弓だった。なぜだろうと理由を考えても、今さらその時の気持ちなんて分かるわけもなくて、自分で考えていた理屈しか思い出せないけれど。いつも、そこそこ頻繁に顔を合わせる彼女は、夜遅ければ明日仕事だからと、それなりに相手をして終わってしまう。仕事中は、仕事中だからと返ってきたとしても怒ったような返信で。もともと自分も、仕事中にほとんどメールなんてしないけれど。そういう意味では、紗弓はよく分からないメールを時折送ってきていた。学生の頃と同じ調子で。
どちらを選ぶにしても潮時だと思った時に、落ち着く決心がつかなくて別れた直後、ふと浮かんだ確信。
きっと紗弓は知らないだろう。あの時さらっと、ほとんど間をおかずに応えた自分の言葉が、実はどのくらい俺を喜ばせていたかなんて。




