4. 85日前_コンセプトを決めよう!
「ジョアンナ。
例のお茶会のコンセプトは決まったか?」
「いえ、これからです。
オージアス殿下に確認いたしますが、王妃殿下が主催となっておりますので、そちらの確認も合わせて行おうかと。」
「うむ。その方が間違いないだろう。」
「ちなみに、前回の第四のお茶会のコンセプトって何だったか、覚えてたりしますか?」
「いや。その時期は...。」
「そうでした。」
「いっそ、企画書貰ってくるか?」
「あそこ、貸してくれますかね?」
「おっ、丁度良い所に!
アーノルド!お前に特命をやろう!」
「いやっすよ!あそこに“貸し”を作りたくないっす。」
「おいおい、お前。
“持ちつ持たれつ”という言葉を知らんのか?」
「あれば便利ですが、第四の類似パーティーをするわけではないので、手に入れられなくても、問題ないでしょう。まあ、万が一手に入れば、残業はだいぶ減ると思いますが。
ね、アーノルド君?」
「...。」
◇◇◇
「で、前回の第四のお茶会のコンセプトが“幻想世界”」
「「...。」」
「参考になりますかね?」
「そりゃあ、豪華絢爛なお茶会になるわな。」
「一体、誰の発案だったんですかね。」
「“心のこもった”経費節約お茶会を目的としている我々には、無理ですね。」
「あっ、なんかそれ、裏テーマっぽいっすね。」
「!!」
「とりあえず、
主催の王妃殿下に、ご意向をお伺いしてきます!」
私たちの部署は、王妃殿下の執務室とは別の階にある。
つまり、階数も異なる離れた所に執務室があるので、少し、いや、だいぶ歩かなければならない。だいたい20分位。
たかだか20分と思うのだが、同じ建物内、20分も歩く建物って、どんだけ広いんだ!と(以下略)
王妃殿下の執務室の警備兵に取次を頼む。
「第三王子部ジョアンナ・カールストンです。王妃殿下にお目通り願いたい。」
「確認してまいります。少々お待ちを。」
「どうぞ、お入りください。」
「ジョアンナ。ご機嫌よう。」
「はい、王妃殿下もご機嫌麗しく。
早速ですが、本日はオージアス殿下お茶会について、ご相談したく。」
「まあ、そうなの?」
王妃殿下は、この国の有力侯爵家のご令嬢で、十六で王家に嫁がれている。五十歳近いというのに、未だに衰えを知らず、どこか少女らしさを残しているお方だ。とても六人の子持ちとは思えない。
育児は乳母に丸投げするのが王族の中では慣例なのだが、この王妃様は、周りからの手助けがあったとはいえ、全ての子供達の育児に携わってきたお方だ。妃殿下が嫁いだ時は、訳の分からない慣習やら因習やら、まだまだ山のようにあっただろうに。
それと戦ってきた彼女には、感服する。また、その経験を生かしてなのか、今の私たちの女子教育の道筋を作ったのも、このお方のご尽力のおかげだ。
「王妃様の方で、何かご要望がございましたら、と思いまして。」
「そうねぇ...。あの子が楽しめるようなお茶会が良いわよね。あまり、わたくしが口出しするのは、良くないと思うのだけれど。そう思って、前回のドゥエインのお茶会に口出さなかったら、あの様だったし...」
「オージアス殿下からは、心のこもったお茶会が良いというご要望が。」
「まあ、素敵ね。そうだわ!
この後、わたくしあの子に会うの。
わたくしの方から、何が楽しめるのか、
彼に直接聞いておきましょう!」
「いえ、王妃殿下に、お手を煩わせるのは...。」
「だって、あの子の事だから、
絶対あなた方に言わないわよ、自分の要望なんて。」
「はあ。」
「ああ、お気になさらないで、あの子の性格の問題で、あなた方を信用していないとかそういう事ではないから。」
「承知しました。ありがとうございます。
それでは、私はこれで失礼いたします。」
「珍しい紅茶が手に入ったんだけど、
ジョアンナも一緒にどうかしら?」
「いえ。殿下もお忙しいと存じますので。」
「そう。残念ね。またいつでも聞きにきてちょうだい。」
「ありがとうございます。」
◇◇◇
「と、殿下の言葉をいただきましたので、王妃殿下の回答待ちで。」
「妃殿下らしい発言だな。」
「そうですね。」
「しかし、第四のお茶会を“あの様”とは...。
やっぱり、あの“幻想世界”は、ドゥエイン殿下発案だったか。」
「“殿下らしい”っちゃ、らしいっすけどね。」
「ところで、ジョアンナ。
王妃殿下に回答期限をお伝えしてきたか?」
「え。」
「ちゃんと区切っておかないと、あの方々は、準備にどの位かかるのか、まるで分っておられないぞ。」
「この後、オージアス殿下にお会いになるとおっしゃってましたので、明日もう一度、ご返答いただこうかとは思っておりましたが...念のため、アポ取りだけ、今行ってきます!」
たかだか20分と思うのだが、同じ建物内(以下略)