27. とある侍従のおぼえがき(抜粋)_若葉の月
【オトゥール暦532年 若葉の月 3日】
殿下に付き添い外遊から帰ってくると、とんでもない金額の追加の予算書と計画変更の資料が提出されていた。王宮を離れている間に、なぜこんなことに!
早速、担当者である彼女を呼び出すと、どうやらW夫人のおかげらしい。
W夫人。
前回の第四も彼女のせいで、大変だったと聞いている。ちなみに、第四程ではないが、数年前にも第二が被害にあっている。
誰かW夫人を止めてくれ!
と思っていると、彼女の資料を見て、殿下は、「まるで私に止めてほしくて、作ったような資料だね。」と言って、うっとりと眺めていたのだった。え?殿下、それ恋文ではなく、予算書ですよね?
そうそう、帰り際、先日殿下が贈ったお菓子の数々を、彼女は“サンプル品”をありがとうとお礼を言って、帰っていった。「やはり!」と思い、笑いを堪える為、口で押えていると、彼女には、不審がられ、殿下には、また睨まれてしまった。
あの量ですからね、やはり勘違いするよね!あ、でも殿下の名前じゃなくて、執務室名義にしたのが原因かもと思ったが、殿下には、聞かれていないので、黙っている事にしよう。今この段階で、他の人に殿下の意中の人を知られるのは、マズイからね。
【オトゥール暦532年 若葉の月 11日】
週に一度開催される朝議の後、次の予定までに少し時間があったので、殿下の執務室に戻ろうとしていた所、目の前を全速力で同僚と走る彼女を見かける。なぜか殿下も後を追う。
どうやら、出発前の手紙に用があるようだ。
と思ったら、殿下が自分も手伝うと言い出した。
配達員も、彼女も恐縮しているというのに、殿下はお構いなしだった。
たぶん、彼女の役に立ち、良い所を見せたかったのだろう。彼女は私に助けを求める顔をしていたが、殿下の気持ちが分かる凄腕従僕(自分)は、もちろん、殿下の味方だ。でも、次の予定に差し障るのではないかと、ドキドキしていたのは、秘密である。
なんとか、次の予定が始まる前に、手紙が見つかり、申し訳ないのだが、殿下をせかし、その場から退場することにした。次の会場に向かう際、大変ご機嫌だった殿下だったが、会議場近くの窓から外を眺めていると思ったら、一気に眉間に皺が寄っていた。不思議に思い、自分も覗くと、そこには、同僚の男性ととても楽しそうに話す彼女。
どうやら、殿下は嫉妬したらしい。
確かに、彼女のあの笑顔は、完全仕事モードの執務室では見せない顔だ。
今思えば、この日を皮切りに、殿下は、積極的に攻めるようになった気がする。
【オトゥール暦532年 若葉の月 16日】
お茶会の直後に予定している外遊の打ち合わせの為、殿下と一緒に会議室へ移動していると、殿下が「ちょっと会議前に寄りたい。」と言い出した。時間も少しならあるので、共に向かうと、彼女は何やら準備している。そういえば、本日、お茶会の手土産選定の日だと報告があったなと思い出す。
彼女が、何やら後輩たちに指導している姿を殿下は、微笑ましく見ており、私もそんな殿下を微笑ましく見ていると、殿下はすっと彼女に近づき...
殿下、それは近すぎです!
下手すると嫌がられますよ!
とドキドキしていると、彼女の顔が、ポンッと赤くなった。
オッ、これは!
と思ったが、侍従としては、何も申すまい。
そして、その日一日殿下の機嫌はとても良かった。いつも不機嫌になる保守派のO・W卿との午後の会談でも終始ご機嫌だった位。
私は、殿下のご機嫌の要因となった彼女にひそかに感謝しつつ、彼女が好きだと言っていた菓子を密かに手配する。もちろん、今後彼女が殿下の執務室に来た時のお茶菓子用だ。
【オトゥール暦532年 若葉の月 16日】
例のお茶会の中間報告から、殿下が戻られる頃だと、お茶の準備をしていると、殿下は、ご機嫌な様子で彼女を伴って帰ってきた。
おお!やりますね、殿下!
と思いながら、彼女の分のお茶も、腕によりをかけ準備をし、持っていくと、普通に中間報告の質疑応答をしていた。ほとんど雑談もせずに、用事が終わるとすぐに立ち去ってしまった彼女を見送ると、殿下の機嫌は、瞬く間に急降下し、マクベイン家の次男について聞かれた。あまり素行が良いという噂は聞かないと答えると、ちょっと調べてほしい。と頼まれる。
一体報告会で何があったのだろうか。
【オトゥール暦532年 若葉の月 24日】
彼女から、お茶会の参加人数を増やしたいと申し出を受けた。どうやら各方面で追加依頼が来ているらしい。確かに、殿下のお茶会にしては、その目的を考えれば、参加人数が少ないとは思っていたが、やはりと言った所だろうか。
殿下は、自分に価値はないと言っていたが、そんな訳がない。
例え臣下に下ろうと王族ブランドは健在だ。しかも、見目麗しいのはもちろん、お人柄だってまじめで誠実。しかも、真面目だけが取り柄、というわけではなく、社交性に富み、時にユーモラス交えて話ができる。配下にだって、過分な位気配りが出来て、厳しい所もあるが、基本的には優しいお人柄だ。
娘を嫁に出すのであれば、こんなに申し分ない逸材はいないだろう。
それにしても、あの後、見させてもらった彼女の資料は、いつも、わかりやすい。そんな資料を読みながら、殿下はため息をついてらしたので、リラックスできるカモマイルのお茶を用意した。
【オトゥール暦532年 若葉の月 30日】
殿下の様子がおかしい。
お茶会に参加するご令嬢の縁者からの“うちの娘素晴らしいですよ攻撃”に癖癖しているのかと思ったが、どうも違うようだ。何だが気落ちしているというか、ぼーっとしている事が多い。もちろんご政務はきちんとこなされているが、なんかこうエネルギーが感じられない。
思い起こせば、数日前にマクベイン家のご令嬢が、勝手に執務棟に侵入してきた時からだ。殿下は、あのご令嬢とは遭遇していないはずだが、何かあったのだろうか。
殿下から、それぞれの階級の縁談ってどんな感じか調べてほしい。と頼まれた。本人は、自分も伴侶選定のお茶会があるから、気になって。後学のためだよ。とおっしゃっていたが、絶対違うと思う。
すみません。
次回の更新は、来週連休明けを予定してます。




