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一通目

 百恵ちゃんへ


 こんにちは、私は高校二年生の女子です。百恵ちゃんのことは、何年も前から応援していて、ずっと大好きです。

 百恵ちゃんをテレビで初めて見たのは、小学生のときで、「禁じられた遊び」を歌っていた番組です。デビュー当初の '' 青い性 '' 路線は、正直、私は好きではありません。共感できなくて、なんだか嘘くさい、大人がつくったような感じがするから。小学生だった私は、そのときは、へぇこんな感じなのかなと思っていましたが。でも、歌詞はよくわからなくても、百恵ちゃんが歌う姿そのものには、まさに雷にうたれたような衝撃をうけました。キワどい歌詞をクールに、大人っぽく歌う姿は、すごくきれいで、気高い感じがしました。その日以来、私はあなたに夢中なのです。

 私が好きなのは、やはり阿木宇崎コンビの曲です。お二人の曲は、百恵ちゃんのカッコよさを最大限に引き出してくれます。男にすがりつくような恋の歌よりも、阿木さんのかく、かっこいい女性像につい、憧れてしまうのです。

 もちろん、百恵ちゃんがでたドラマや映画もほとんど見ています。女優の百恵ちゃんは、ステージでは見せない、いろいろな表情をみせてくれますね。歌っている時はカッコよくて、その分、かわいいときは、より一層すてきです。わたしの中学生時代は、赤いシリーズをぬきに語れません。百恵ちゃんのセリフをマネしてみたりして、自分と百恵ちゃん演じるヒロインを重ね合わせていました。それくらい思い入れのあるドラマなのです。映画を見て、原作の小説に手を出してみたりもしました。読んだもののなかでは、私は「風立ちぬ」が好きです。(潮騒や伊豆の踊り子はよくわからなかったけど)

 そして、なによりも、私が百恵ちゃんに惹かれるところは、その心の強さです。百恵ちゃんは、いつも戦っていましたね。歌番組で曲を聴いただけで、あなたをふしだらな女と決めつける、古臭い頭の大人たちと。そのイメージに拍車をかけるような嘘八百の下品な記事を書く、汚い週刊誌の記者たちと。そして、あなたの、実の父親と。

 私も、父親との関係が良くありません。私の父は、酒癖が悪く、時々私を引っ叩きます。父のことが、大嫌いです。だから、あなたに深く共感してしまうのです。赤いシリーズの主人公のように、父親が実の父親でなかったならと、いつも考えてしまいます。百恵ちゃんに後ろめたさを感じながら、本屋で週刊誌のあの記事を立ち読みしたとき、心の中であなたに拍手を送りました。年端もいかぬあなたが、実の父親と自ら決別したということの大きさに、私は深く心を動かされたのです。

 でも、芸能生活というその長かった戦いも、ついに終わりを迎えるのですね。戦いをせずにいられるところ、百恵ちゃんの美しく大きな翼を休めることのできる止まり木を、ついに見つけたのですね。

 もちろん、ほかのフアンのみんなと同様に、お相手が三浦さんだということには、なんらの驚きもありませんでした。つまらないクイズの答え合わせのように、わかりきったことでした。あの恋人宣言を受けとめることは、私にとって難くなく、むしろ、百恵ちゃんの堂々とした姿勢に感心して、さらに好きになりました。でも、引退してしまうなんて。

 わたしは、最初は引退には絶対に反対でした。なにがなんでも反対でした。

 百恵ちゃんはこれから、もっともっと活躍できるのに。もっともっと、歌ってほしいのに。年を重ね、もっときれいになって、阿木宇崎コンビの音楽がさらに似合う女性になれるのに。もっとたくさんの素晴らしい映画やドラマにも出れるのに。そして、やがては、美空ひばりをこえるような存在になれるでしょうに。私は、フアンとして悔しくて悔しくて、たまりませんでした。

 でも、こうして筆をとっている今はもう、反対していません。

 百恵ちゃんが考えぬいて決心したことですものね。フアンとして、最後まで、あなたについて行くほかありません。

 しかし、私もこの手紙で、あなたに宣言いたします。芸能活動をやめて、あなたが友和さんと結婚式をあげる日をもって、私は、あなたのフアンを引退します。今まで集めてきたレコードも、雑誌の切り抜きも、映画のパンフレットも、みんな捨ててしまいます。テレビで百恵ちゃんがでていたり、曲が流れたりしても、以前は飛びついていましたが、これからはチャンネルを回してしまいます。

 百恵ちゃんが嫌いになったわけでは、ないのです。ただ、素直にお祝いできないのは、本当です。

 三浦さんがイヤというのでもないのです。素敵な、さわやかなひと。それに、お二人の相性が、完璧なほどいいのは見ていてよくわかります。二人で共演した映画は、どれも最高でしたもの。三浦さんを見つめる百恵ちゃんの、演技をこえた、その瞳の熱さに気づかないフアンは、ほとんどいなかったでしょう。あなたのその表情は、恋する乙女のそれ以外なにものでもありませんでしたからね。だからこそ、二人の通じ合う気持ちが良い影響を与えて、作品をさらに良いものにしたのかもしれません。

 でも、この際、はっきりと申し上げます。わたしは、あなたの、その表情が好きではありません。あなたは、そんな顔してはいけないのです。

 私にとって、百恵ちゃんは憧れです。一番かわいくて、一番美しくて、一番かっこいい。あなた以上の人はいない、そう思っています。

 でも、あの表情は、凡庸です。百恵ちゃんから光り輝くドレスをはぎ取って、どこにでもいる、つまらない、ただのひとりの女の子にしてしまう。私には、そう感じます。

 嫌なことばかり書いて、ごめんなさい。私も、こんなこと考えちゃいけないって思います。今でも、テレビで百恵ちゃんを見るたびに、あぁ素敵だな、大好きだなって思うんです。

 でも、あなたに、大好きな人に、嘘はつきたくないから。


 百恵ちゃん、婚約おめでとうございます。幸せになってね。

 今まで、ありがとうね。



 あなたを想う、ある一人のフアンより

          一九八〇年六月二四日

                                                

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