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第1話




――3年前


20××年 6月



───────────────────────




朝の空気が、やけに爽やかだった。


いや、たぶん爽やかだった気がした、だけだ。

本当は寝坊した俺が焦って飛び出したせいで、空の色なんか見てる暇もなかった。

それでもたぶん、今朝の空はちょっとだけ特別だったのかもしれない。


だって俺、女子高生になっちまったんだから。


 


いや、説明しよう。お前誰だよって話だよな。

俺の名前は日向坂爽介、高校二年。

彼女いない歴=年齢。顔は中の下。運動神経も並。家は貧乏。

最寄駅まで徒歩20分、アパートは築40年で、朝シャワーを浴びようとすれば排水溝から「コンニチハ☆」って虫が出てくるようなレベル。


つまり、生きる庶民代表だ。


 


そんな俺が、なぜか今――

光沢のある金色の髪をなびかせて、明らかに素材のいいシャンプーの香りを振りまきながらぴっちりした女子制服を着ている。

胸にふわふわの塊をぶらさげて、である。


 


「……これ、夢だよな?」


思わず呟いたその声が、やけに可愛らしかった。

ガラス細工みたいに高くて、品があって、しかも語尾がほんのり優雅。

間違っても、今朝まで“冷凍ごはんに醤油”をかけて食ってた男の声じゃねぇ。


 


話は遡ること数十分前。


 


母ちゃんはとっくに仕事に出ていて、アパートの壁越しには隣室のジジイの咳払い。

冷蔵庫を開ければ空っぽで、レンチンごはんに醤油ぶっかけたのを流し込んだ瞬間、俺は悟った。


「今日も遅刻だ」


制服のシャツを片腕だけ通して、カバンは肩に半分引っ掛けたまま家を飛び出す。

駅までの道は地獄の登り坂。おまけに空気が妙に生ぬるい。

俺の脳内では「滑るな、転ぶな、死ぬな」が呪文のようにループし続けていた。以前急ぎすぎてすっ転んだ苦い記憶があったからだ。




この時点の俺は、まだ知らなかった。

あと数分後で人生が「ギャグマンガ日和」レベルに脱線することを。

いや、もっと言えば、あと数段で階段じゃなくて運命を踏み外すことになるなんて、知る由もなかったのだ。

シャツのボタンは閉まらずベルトの穴は迷子。そんな半分寝ぼけた状態で俺はとにかく走っていた。




ハアッハアッハアッ

 


駅の階段を駆け上がろうとした、そのときだった。


 


ドンッ!!!


 


衝撃。というか、物理的破壊音。

真正面から猛スピードで誰かとぶつかり、俺の額と相手の額がカウンタークラッシュした。

例えるなら、空き缶を全力で踏み潰したときの「パゴォンッ!」みたいな音。


「ぐぉっ……!?」


俺は一瞬で階段を転げ落ち、天井の照明がぐるぐる回って見えた。


そして、次の瞬間――俺は目を見開いた。


 


目の前に“俺”がいた。


 


「……え?」


 


“俺”が眉をひそめた。そして、ボロい制服を見下ろして呟く。



「ちょっと……なにこれ、なんで私が……男子校の制服……?」


 


おい、待て。


俺は震える手で胸元を見下ろす。

そこには……ある。あるんだよ……未知のふくらみが!!


しかもそのYシャツ、明らかにボタンの閉まりが苦しそうなんだ。

そっと手を当ててみると――



「……やっべ、ふわっふわ……!」



ぷにっとした感触。アウトー!!!


これは夢じゃない。確信した。現実だ。現実にしては地獄すぎる。


 


「ど、ど、どどう見ても、女子高生の身体じゃねぇかああああああああああ!!!」



俺の悲鳴が、構内にこだました――と思ったら、周りの人々はスマホに夢中で気にも留めていなかった。

ありがとう現代人。おかげで誰にも通報されずに済んだ。


 


そして、この時入れ替わっていたのが――天城レイナ。


俺はこの時彼女の存在を知らなかったが、どうやらテレビに出たこともある“プチ芸能人”らしい。ネットで検索したら100万件ヒットする、超有名人だそうだった。

名門・白百合女学院の女王様。顔面偏差値は“神”、学力は全国模試で常にトップ10、

しかも家は巨大企業「天城グループ」の一人娘。


まさに選ばれし血統の、スーパー美少女。


 


が、しかし。


その天城レイナ、学園内では“悪役令嬢”として恐れられている存在だった。


 


メイドのような取り巻きを従え、教師も逆らえず、同級生たちは遠巻きに「氷の女王」と呼ぶ。

SNSでは「天城さんに目を合わせたら睨まれた」とか「正面から話しかけたら凍死する」とか、

もはや都市伝説レベルの噂が飛び交っている。


 


……なあ、聞いてくれ。


そんなヤベー女の身体に、俺は今、入ってる。


しかもお嬢様学校に通わなきゃいけないし、

いつ入れ替わりが戻るかもわかんないし、

ていうか、もうすぐホームルーム始まるし!!!


 


「うわあああああ!! 俺、悪役令嬢になりたくねぇえええええ!!!」


 


こうして俺の、

“平凡男子から最恐美少女への転落ライフ”が始まった。


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