4.
「シホ、まずは部屋の確認してから…部屋でひと休みしよう。」
まだ緊張が抜けて無いのかこちらを見上げてコクコクと頷くシホ。
手を引き、協会を出て隣にある建物へ入ると右手に食堂、左手には治療院と購買部が並んでいる。
宿舎も中央奥に男女の大部屋、階段もあり2階が言っていた個室になるのだろう。宿舎の受付は食堂が兼用してるみたいだ。
「すみません。今日から宿舎の個室をお願いしたユキトですけど…今大丈夫ですか?」
「いらっしゃい。この石版で確認するから協会証を出してもらえるかい?」
シホと一緒に協会証をリーナさんより一回り上らしき…お姉さんに手渡す。
「うん、確認したよ。2階の個室、206の札のかかっている部屋だよ。この協会証が鍵になる。ドアノブにかざすたびに開け閉めができるから確認は忘れずに…それと大切な物は部屋に鍵がついてるとはいえ置きっぱなしにしないほうがいいね。お湯は言ってくれればサービスで桶一杯渡せるよ。あと食事は食堂で食べても部屋で食べても…夕方からは酔っ払いがいるから部屋が無難かねぇ…まぁどちらでも構わないよ。持ち運びは自分達でやってもらうけどね。朝食は5時〜8時、夕食は17時〜22時に提供している。それ以外の時間もやっているけど飲み物や軽く摘めるものくらいかね。」
「ありがとうございます。まず部屋を確認してきますね。」
シホの手を引き階段を登って206のドアノブに協会証を当てる。
ガチャリと音がして鍵が開いた…協会証が万能すぎる…
部屋は質素でベッドふたつに小さいテーブルに椅子2脚、物を置くスペースが少しといった感じだ。
「シホ、座ってて。下の食堂で飲み物でも買ってくる…」
シホはやっと緊張が解けたのかヘニャヘニャとベッドへ崩れ落ちるように腰かけた。
「ユキト〜…緊張した〜疲れた〜…なんかいっぱいありすぎて頭パンクしそうだよ〜…」
「うん、…どうやら落ち着いてきたみたいだな。少し待っててな。」
俺は部屋を出て食堂へ向かう。注文はさっきのお姉さんにするみたいだ。
メニューを見せてもらうと…お茶や酒、軽食が並んでいるが甘い物は見当たらなかった。やはり文化的に中世に近いから砂糖は貴重なのかもしれない。
お茶と揚げ芋があったので頼み、受け取って部屋へと戻る。
「シホ、お待たせ。お茶と揚げ芋買って来た。夕食まで少し時間あるし、お昼食べて無かったから軽くつまめるように。」
「ありがと〜お腹ペコペコだったから嬉しい。ユキトは少し休憩したら購買部?」
「そのつもり。依頼で薬草採取を受ける予定だから町の外に出るなら武器や防具は欲しいしね。あと、回復薬とかあるなら見ておきたい。」
「そっかぁ…ねぇ考えたんだけど最初から一緒に行動したらダメかな?治療院で働くのは安全かもしれないけど私の事はユキトが守ってくれるでしょ?
それなら…もしもユキトが怪我しても私の小癒で直せるし…できれば寂しいからそばにいて欲しいかなぁ…」
う〜ん…どうやらシホは少し危険があっても一緒にいたいと思ってくれている。素直に嬉しい。
薬草採取をする場所の魔物の強さによっては問題ない…のかな?後で協会で確認だな。
「そっかぁ…一緒にいたいって言ってくれて嬉しいよ。購買部を覗いた後、協会に行って採取場所付近の魔物の確認をしておこう。」
小1時間程休憩し、まずは購買部だな。スキルで棒術って事は剣や槍では無く棍棒といった武器になりそうだし。
階段を降り、シホと購買部に向かう。
購買部に入ると色とりどりの薬瓶がカウンターの横に並び、野営に使うテントやランプなどの必要品、そして剣や盾、槍などの武器や皮や金属でできた防具が所狭しと並んでいる。
カウンターには見た目40くらいの少しコワモテのおじさんが座っている。引退した探索者かな?マッチョだ…
とりあえず武器や防具の知識は無いし聞いてみよう。
「今日、探索者に登録したばかりで武器と防具が欲しいんですけど…必要最低限で見繕ってもらえますか?」
「おう、大丈夫だ。武器スキルはあるか?それによって使えるものが決まってくるからな。まぁ無理して他の武器を使う事もできるがおすすめはしないな。」
「えっ…と棒術ってスキルがあります。あとどう使うかわからないんですが魔力操作?それにあった武器と防具を…彼女は神官用の防具があればお願いします。まずは薬草採取に行ける装備で。」
「初心者装備か…少し値ははるが魔力捜査が使えるならトレントの棍棒がいいかもな。魔力を通すと硬質化する特性を持っていて魔力量によっては鋼の剣とも打ち合える。防具は坊主がレザーチェストに皮の小手とブーツ。
お嬢ちゃんは武器は…杖があるなら大丈夫だな。防具は皮で補強したローブにブーツってとこだな。全部でサイズ合わせも含めて解体用のナイフをサービスして…大銀貨3枚ってところだ。」
「げっ…完全に予算オーバーです!無理、買えません!」
「ん?協会員なら依頼料から分割で天引き払いもできるぞ?それに町の外に出る依頼なら最低限の装備を整えないと許可も出ないしな。町中の依頼は安全だが依頼料が低くギリギリその日暮らしが出来るくらいだぞ?治療院の手伝いも所詮助手だしな。それを考えたら薬草採取は常設依頼だから依頼料は無いが薬草の数だけ報酬が発生するし、ツノウサギあたりを仕留められればさらにボーナスだ。無茶はいけないが、頑張った分だけ報酬も増えていく。普通に依頼をこなして行けば2か月もあれば完済できる金額だ。どうする?坊主。」
「むぅ…最初から借金かぁ…でも今後学院に行く事考えたら町外の依頼しか無いしなぁ…2か月…町中の依頼じゃ貯まらないよなぁ…よし!おっちゃん、その装備をたのむよ!」
「おっちゃん……俺はまだ27なんだが…まぁいい。あと学院って言ったか?どの学院に行くつもりだ?」
「ご、ごめんなさい…お兄さん?学院は何種類もあるの?一応王立学院を目標に村を出て来たんだけど…」
「そうだな…3種類の学院がある。まず誰でも入学金を払えば入れる地方学院、入学金と試験のある領立学院、そして目標にしている王立学院だが入学金、試験、推薦が必要となる。12才になる春までにEランクまで上がれば探索者協会も推薦してくれる。詳しいことは協会受付で聞いてみるといい。さ、防具のサイズ合わせをしようか。トレントの棍棒は…攻守を考えて5尺といったところか。」
防具のサイズ合わせも終わり…棍棒も受け取った。棍棒は直径3㎝程の円形で長さは160㎝程、見た目ただの棒なのでそのまま持って街中を歩いても大丈夫のこと。
最初にシホの依頼として考えてた治療院は見る必要も無くなったし、常設依頼の内容と魔物の種類、あと学院についても確認しに行こう。とりあえずリーナさんとこだな。協会に入り受付を見渡す。ちょうどリーナさんのとこは人の列はできていない。
「リーナさん、武器と防具を揃えて来ました。薬草採取場所と近くで出る常設依頼の魔物の情報、あと学院についての情報が欲しいです。」
「はい。まずは薬草の採取場所ですが…協会の目の前にある東門を出て街道を30分程歩いた所にある森の浅い範囲に生えています。何種類かあるので特徴の書かれた資料を渡しておきますね。あと魔物ですが…近くにはツノウサギ、ビックラット、スライム、が出ます。常設依頼になっているのはツノウサギとビックラットですね。作物や農地を荒らすので。スライムたまに捕獲依頼が出ますが基本無害なので放置してください。」
リーナさんはそこで言葉を切り思案顔になって話しを続けた…
「学院ですか…どのぐらい学院について知っていますか?」
「さっき購買部のお兄さんに…3種類の学院がある事とお金、試験、推薦が必要って聞きました。僕達の目標は王立学院です。」
「王立…それならまず協会の推薦が貰えるEランク、できればDランクになることが望ましいですね。推薦数も無制限ってわけでは無いですし。あとお金は無駄な使い方をしなければ金貨1枚なのでEランクまで上がれは自然と貯まります。試験は王立だと漢字、ひらがな、カタカナを使用した一般教養。四則演算の算学。建国から始まる王国史が筆記試験ですね。実技として魔術と武器術がありますが、これは得意なほうだけです。あと王立は貴族から平民まで幅広く受け入れてますが…かなり難関ですよ?そして学院生は平等を謳ってますが…暗黙の格差は少なからず存在します。それでも王立が目標ですか?」
「はい。王国を深く知る為に貴族や格差なんかも引っくるめて勉強したいと思ってますし…学院の先の専門課程も視野に入れてますから。」
「ユキトくん…本当に10才?なんか…考えかたや喋りかたが私達と変わらないか、年上に思えるんだけど…長命種のエルフやドワーフのハーフだったりしないよね?」
「ちゃんと人族ですよ。考えかた…喋りかたは…村の教会の司祭様と良く話してたから、そのせい?王立を勧めてきたのも司祭様ですし。」
癖になってる話し方だけど…やっぱり10才の容姿じゃ不思議に思われるか…平民だしな…貴族とかはまた違うっぽいし…
とりあえず学院試験までの道筋は聞けた。
宿舎に戻って食事を受け取り部屋に入る。食事はシンプルで黒パンと野菜たっぷりの塩味スープにベーコンらしきもの。
食事をしながら明日からの予定をシホと話し合う。
食器を返却するついでにふたつの桶にお湯をもらい体を拭く。あ、シホが体を拭く時はちゃんと表に出ましたよ。まだ婚約だー夫婦だーって言っても成人するまではって約束だし、節度は守らないとね。
シホはすでに穏やか寝息をたてて眠っている。
俺も気が張ってのが緩んだのか一気に眠気が襲ってきた。横になると意識が遠のいていく…
おやすみなさい…