3.
行列は荷物を積んだ馬車と人だけに分かれて粛々と進んていく。
目の前には馬車がすれ違いで通れる大きな門、それと脇には人が通れる小さな門が見えて来た。軽鎧を着け、短槍を持った衛兵らしき人達が10人ほど馬車や人をチェックしている。
「次の者!前へ!」
自分達の番だ。呼ばれた。
「む…子供2人…職探しか?まずは身分証を提示してもらうんだが…その様子だと無さそうだな。」
「あ…すみません。村から出て来たばかりで持ってないんです…」
「気にするな。村から出てきた者は村長の子でもない限り身分証は持っとらん。仮の身分証を作るからそちらの部屋に入ってくれ。」
そう言って左手にある小部屋を指差した。
「わかりました。シホ、行こう。」
小部屋に入ると紺色のローブに眼鏡をかけた役所然とした30中程の細身の男性が座っていた。
「こんにちは。子供2人って事は村から出てきたばかりで仮の身分証発行かな?あぁ…そんなに緊張しなくて大丈夫。罪をおかしてないか、この水晶で調べるだけだから。」
そう言ってテーブルの上に置かれた水晶を指差す。
「この水晶の上に手を置いてくれ。どちらの手でも構わない。問題が無ければ仮の身分証を渡そう。」
俺は前に進み出て、
「シホ、俺からいくね。」
右手を水晶の上に置いた。すると透明だった水晶の中に白い光が浮かび上がる。
「うん、次はお嬢さん、手を乗せてくれるかな?」
シホも頷き手をのせる。同じように水晶に白い光が浮かび上がった。
「よし、2人とも犯罪や罰則等の前科は無し。これが仮の身分証だ。この身分証はあくまでも仮だから有効期限がある。一週間以内に正規の身分証を手にしてこれから出る街側の衛兵に返却してくれ。期日を過ぎた身分証を持っていると不法滞在として罰せられるらから気をつけて。」
「わかりました。正規の身分証は…探索者になれば貰えるんですか?」
「そうだね。まずはそこの扉を出た目の前の建物が探索者協会だ。そこの受付で仮の身分証を提示して登録すると身分証となる探索者証が発行される。大銅貨3枚かかるが…お金はあるかな?無ければ依頼をこなしつつ分割も可能だが。」
「はい、大銅貨3枚なら大丈夫です。」
「では、ようこそアルトへ。歓迎するよ。」
笑顔で頷き、そして右手にある扉へと促す。
扉を開けて表に出ると目の前に3階建ての多きな建物。盾に剣、葉っぱが絡みつくような看板がかかっている。ここが探索者協会だろう。
「シホ、まずは探索者協会で登録して身分証を手に入れて…今夜泊まるとこ、探索者への依頼の内容、俺に必要な武器の情報かな…」
「ユキト、ありがとうね。緊張しまくってて何も喋れなかった。」
「気にすることないよ。それにこの10才って見た目のおかげなのか余計な事も聞かれず勝手に納得してスムーズに終わったしな。さぁとりあえず行こう!」
「うん!」
目の前の探索者協会の両扉は開け放たれている。あそこが入り口だろう…奥には受付らしきカウンターと時間的には少ないのだろうか、武装した人達が何人かみえる。
通りをシホの手を取って渡り協会の中へ。
中にいた人達の視線が一斉にこちらに注がれる。
見られはするが…特に近寄ってくる事も無い。絡まれのテンプレは起こらずに済みそうかな?
シホと頷き合い受付に。受付はどの窓口も20代前半のお姉様方。タイプは様々だが容姿が整ってる。
俺は空いていたホンワカ系お姉さんの受付にシホと2人分の仮の身分証を差し出して尋ねる。
「こんにちは。探索者の登録をしたいんだけど…ここの受付で大丈夫ですか?」
「えぇ、大丈夫よ。新規の登録ね。1人大銅貨3枚、2人で6枚かかるわ。無ければ依頼を受けつつ少しずつ払う事も可能よ。」
「お金は大丈夫です。登録してください。10才で紹介も無いので探索者以外の職にはつけないんで…」
「わかったわ。まずはこの石版に右手を置いて。あなた達の情報を登録して身分証を作るから。」
言われた通りに石版に右手を乗せる、魔力が吸い取られる感覚におそわれたと思ったら石版の上部に名前が刻まれたカードが浮かび上がる。
「さ、お嬢さんのほうも右手を乗せて。」
シホのカードも出てきたところで受付のお姉さんがピンを出し、
「このカードにそれぞれ血を一滴垂らしてください。カードは魔力で作られており、血を垂らす事で個人所有となって他人には悪用されなくなりますので。それと、カードは無くすと再登録に大銅貨5枚かかるから気をつけてね。」
ピンを受け取りシホとお互いにカードが間違ってない事を確認してから血を垂らす。
カードが淡く輝いてからカードを見ると、名前以外の項目が浮かび上がっていた。
ユキト
男性 10才
状態 健康
職業 守護者
スキル 棒術 魔力操作
加護
シホ
女性 10才
状態 健康
職業 神官
スキル 小癒 守りの祈り
加護
うん、俺のタブレットBOXとお互いの加護が表記されて無いところを見るに…しっかりと隠蔽は出来ている。
バレたら絶対騒がれて悪目立ちするからなぁ。
お姉さんはカードを手元に寄せ、
「無事、登録も完了ですね。簡単な質問と探索者の注意事項があるので別室にて説明します。」
お姉さんは立ち上がり離席中の看板を出して俺達をカウンター脇に並ぶ扉の一室に案内する。
室内はテーブルに長椅子といった簡素なもので奥側の椅子にお姉さんは腰掛ける。
「まずは座って。私は受付のリーナ、あなた達…えっと、ユキトくんとシホちゃんの新規登録受付をした時点でアドバイザーという立場になるわ。2人がこれから探索者を続けていく上で必要な事、または相談なんかをランクがEに上がるまで担当する事になるわ。2人は登録したての状態なのでGランク、ここから依頼を受けて協会に信用されればF、Eと上がっていきます。D以上のランクに上げるには試験も加わってくるの。ランクの1番上はA、それからB、C、 Dと続きます。依頼は本人のランクの一つ上まで受付可能、今のあなた達はG、Fランクの依頼が受けれるって事ね。内容は町でのお手伝い…まぁ雑用ね。それと外なら薬草の採取が主になるわ。シホちゃんは神官だから…教会の治療院のお手伝いも含まれるわね。
ユキトくんは…守護者?初めてみる職業ね。戦闘職なのかしら?…となると、荷運びや撤去作業などの力仕事か薬草採取ってところかしら。後で掲示板を確認してね。あと、探索者協会の絶対のルールとして…町中では武器は抜かない、治癒魔法以外使わない、探索者以外には暴力は振るってはならない。破れば犯罪者として奴隷落ちもありえるわ。まぁ明らかな犯罪行為で自分達に不利益になる事に対しては適用外だけど。
注意事項としては簡単だけどこんな所。細かい規則なんかはこの冊子に載っているから後で確認しておいて。
これからの事で相談や質問はある?」
シホが軽く手を上げながら…
「あの…治療院の手伝いってどんな事をするんですか?」
「シホちゃんの職は神官…小癒が使えるわね。簡単なケガ…切り傷や打撲なんかの治療をしてもらう形になるの。場所も協会の隣の建物だし向かいは衛兵の詰め所だから10才の女の子が働くには治安も申し分無しね。依頼は常設で時間も10時から15時までだから明るいうちに動けるし。」
「シホ、最初のうちは治療院の依頼はいいと思う。小癒の練習にもなるし治安がいいって事で俺も安心だ…そのうち俺が討伐系の依頼を受け始める時は一緒動くだろうけど。」
「そうだね。…リーナさん、この町の治安ってどんな感じなんですか?」
「まず、町は縦横に走る馬車通りにより4つの区画に分かれているの。南東は商業街で協会もこの位置に、北東は職人街、北西は教会に町の代官の屋敷と町の有力者の屋敷…まぁここはさらに塀に囲まれているから行く事は無いでしょう。この3区画はよほど入り組んだ裏道に入らなければ治安は問題ないわ。衛兵も巡回してるから…ただ南西は南馬車通りに歓楽街、西馬車通りには奴隷商なんかもあって歓楽街を区画の奥に進むとスラムまであって治安が一気に悪くなる。強盗、殺人、人攫いも日常的に起こる治安の悪さだから馬車通り以外は絶対に入らないように、脇道からも引き込まれたりするから出来るだけ脇には寄らないでね。2人とも絶対攫われて違法奴隷落ちよ。」
シホは話を聞いて顔が青褪めている…
うん、シホは最初は治療院一択だな。
「リーナさん、依頼と治安の説明ありがとうございます。そこで相談?なんですが…今夜から泊まる…できれば安くて安全な宿、初心者にでも買える武器屋、あと生活や探索に使う必需品を売ってる店が知りたいです。」
「宿なら協会宿舎を使えばいいわ。Fランクまでしか利用できないけど、一階に男女別の大部屋、二階には2人〜6人用の個室が準備されてるの。そして一階には協会の購買部と食堂もあるから買い物も食事も問題無いし。大部屋なら一泊1人大銅貨1枚、個室は…2人部屋で大銅貨3枚よ。購買部には新人向けの武器や防具、治療薬や携帯食、探索用品もろもろ…揃ってるわ。無ければ東馬車通りにも沢山雑貨屋はあるし。それと、ユキトくんとシホちゃんは幼馴染?同室で問題無いなら、お姉さんは個室を推薦するわね。大部屋だとトラブルが無いとは言えないし…それと購買部は朝6時から20時まで、協会と宿舎をまたいでいる食堂は休み無しで開いているわよ。」
シホと向き合い、頷き合ってから、
「2人部屋の個室で今日からお願いします。…でも全て協会で揃うのはすごいですね…」
「アルトはここより東方の村から職探しの子供達が集まるのよ。町もそれなりに大きく雑用もそこそこ、森には薬草やランクが低目でも対応できる魔獣、新人が育つ環境が揃ってるから必然的にってとこかな。後、急いで聞きたい事が無ければカードと宿の鍵を渡すので、先程の受付にもどりますよ。」
受付に戻り3日分の宿賃と登録料、銀貨1枚と大銅貨5枚を支払う。
リーナさんは何か些細なことでも疑問や相談があれば昼から夕方にかけて受付にいるから頼って欲しい、と。
俺達はリーナさんにお礼を言いまずは仮の身分証の返却へ。
これはあっさりと門の横の扉前にいた衛兵さんに渡して終了。
さて、まずは部屋の確認と武器や生活必需品の購入、掲示板の依頼確認もか…
左手にタブレットを出し時間を確認すると15時を少しまわったところ。
少しお腹が空いたが…飲み物だけで晩御飯まで平気かな?
軽食があればなお良し。この世界の食事事情も気になるし、まずは食堂まで戻ってシホにも聞いてみよう。門に並ぶ行列からここまで緊張しまくってて…多分自分の状態もわかってないだろうから…