宰相閣下2
「やきもちですか?」
「なんの冗談ですか?」
俺は自分にあてがわれた机で課せられた封書の仕分けを続けながら、答える。
閣下宛てに届いた封書の仕分けは、手持無沙汰な俺に閣下が命じた仕事であった。
結界が張られた執務室においては、護衛の必要がないからだ。
王宮に届く閣下宛ての郵便物は多い。
俺はそれらを封を開けずに三つに分類していく。
「先ほどより、ゼルクからトゲトゲしい責めるような、」
「驚いているだけですよ」
なんとこのおっさん、女もイケる口だった!
少し前、一人の美しい貴婦人がやって来て、奥にある例のベッドの部屋に二人で消えた。
小一時間ほど経って出てきた貴婦人の顔はほんのり上気していて、何があったかは一目瞭然。
群がってくる奴も、嫉妬を向ける輩も男ばっかりだったから、閣下はてっきり女がダメなんだと思ってたけど。
「誤解ですよ。彼女は患者です。私は魔法使いですが、優秀なセラピストでもありますので。第一、私は女性とは浮気しません」
男なら浮気するんかい!!!!
閣下の言いぐさにイラっとして突っ込みを入れたが、閣下とは別に恋人でもなんでもないのだから、俺が気にする道理はないのだった。
「心配しなくとも、ゼルクの大事な私の精子は誰にもあげていませんから、拗ねなくていいんですよ?」
閣下はクスクス笑いながら、いつもの調子で俺をからかうように言う。
ムカつく。
・・・・・・
おちょくられて腹を立てているはずなのに、いつもと変わらない閣下にホッとしている自分がいる。
なんで俺がこんな気持ちに・・・・・・
気を取り直して、閣下にピシャリと言い放つ。
「ふざけたことを言ってないで、さっさと仕事してください」
閣下はこの国の宰相であるばかりでなく、有志の魔法使い達によって結成された対魔王大陸連合の長をも務めている為、仕事は腐るほどある。
俺は魔王は閣下に倒されて滅びたものと思っていたけど、どうやらそうではないらしい。
復活までのスパンが長いか短いかの違いだけで、魔王は何度でも蘇るという話だった。
「ゼルクはつれないですね。まぁ、そういうあまのじゃくなところも私は気に入ってますけど?」
うっ。
クソッ。
閣下がニンマリしてこっちを眺めているっていうのに、顔が勝手に緩んでしまう。
なんでこの俺が、閣下の戯言を嬉しいなんて思わなきゃならねーんだ!!
仕事に集中しよう。
余計な事を考えて、うっかり深みにハマるといけない。
閣下に教わった通り、手紙のひとつひとつに手を翳しその波動を読み解く。
『人の想いというものは、案外念となって物に移るものなのです。ゼルクには素質がありますから、コツを掴むのも早いでしょう』
世界を救った英雄でも恨まれるのか、だからこそ妬まれるのか、呪いのかかった手紙が送られてくるため、閣下宛ての封書の開封は慎重にされなければならなかった。
俺は、閣下宛の郵便物の中から至急要件のもの及び不穏な空気を纏ったものを抽出し、安全な一般郵便物だけを事務方に回す役目を請け負っていた。
それを手に取った瞬間、怖気が走った。
集中するまでもなく至急要件の悪い知らせだとわかる。
「閣下!! これっ!!」
俺がその封書を差し出すと、閣下は気配だけでもう中身が何かわかっているかのようだった。
難しい顔をした閣下は素早く封を開け、読み終わると俺にその内容を教えてくれる。
「よくない知らせです。カラントの新王は隣国のボロネーに戦争を仕掛けようとしています」
閣下はとても深刻な顔つきをしているけれど、正直拍子抜けだった。
あの緊迫感からして、てっきり魔王の復活とか、そっち系の話だと思ったのだ。
大国でもない国の話、しかもトルーアからは遠い大陸東部の国の話なんて、全然関係なくね?
「トルーアと外交的な付き合いでもあるんですか?」
どちらかの国と軍事協力とか、何か協定でも結んでいるのだろうか。
そんな話は聞いたことないけど、国の中枢部だけで何らかの話し合いがなされているのかも知れない。
「そうではありません」
じゃあ、なんなんだよ。
そりゃ戦争になれば大勢の人間が死んで不幸には違いないだろうけどさ、所詮はよその国の話だろ?
「ゼルク、よその国の話ではないのです。なぜなら、無意識界では全てがひとつに繋がっているのですから」




