いつかの誰か
青い眼はきれい、
灰色の眼は陰気、
黒い眼は腹黒、
鳶色眼玉はおばァけ。
──『まざあ・ぐうす』
目の前に赤が咲いた。
「〈防護〉」
迫る炎から僕を救ったのは、知らない声だった。
「ありがとう。」
姿は見えない。ただ、刀を構え直す。鳶色の眼。真黒な瞳は縦に刻まれ、僕を睨めつけている。第三等竜種、飛竜がそこにいる。
乾いた牙の間に赤が覗いた。右足に重心を移す。ちらちらと蠢く舌がはっきりと見えた頃、跳んだ。
「〈溜風〉」
そのまま左に走る。焔の扇は広がって裾を焦がした。左側、手負いの翅を半身で捉え、踏み込む。途端、僕は弾かれて宙を舞った。
「〈転風〉」
空中で姿勢を整え、そのまま天から頸を狙う。ひゅっ、と鞭のような音が鳴って、怪物の尾が、蠍のように襲いかかった。鞘で受けて地面に落ちる。鳶色の眼、真黒な瞳。ふりだしだ。
左右にやたらと疾い翅、上にやたらと長い尾、正面からはやたらと熱い炎。平たく言えば隙が無い。
「糞蜥蜴が。」
残念ながら、持久戦ができるほど時間にも、魔力にも余裕はない。
ふと思い浮かんだのは、突飛と断ずるには些か魅力的な作戦だった。そのまま、刀を鞘に納める。
赤が覗く。
鞘に手を添える。
赤が蕾む。
鯉口を切る。
赤が咲く。
「〈大防護〉」
一呼吸。
「〈居合〉」
「信じてたよ。」
振り向いた後ろには、誰もいなかった。もしかすると、それは、賭けと呼ばれるのかもしれない。飛竜の熱い血を浴びて、そう思った。




