俺はやってない!
旅館やホテルが立ち並ぶ温泉街。
その一つに宿泊することに。
本当は素泊まりでいいと言うのに…… なぜか牛肉を食している。うん美味いや。
安くしておくよと粘られ仕方なく一泊二食特別最高級コースを選択。
押しに弱いのが玉に瑕。もちろん意味はよく分かってないが。
最高級コース自体に文句はない。でも最上階は別に嬉しくないんですけど。
だってここオーシャンビューじゃないし見えるのは山ぐらい。
それにここ三階だし。騙された?
しかも天候も悪く夜では何一つ楽しむものがない。
車が通ることもないので光も見えないはず。
やはり素泊まりにしておけば良かったかな。
後悔してももう遅いんだけどね。
せっかくだからカーテンを開け外の景色を楽しむことに。
予想通り自分の影と電球の光が映るだけ。
何も見えねえ!
つい心の声が漏れる。
見えないのでせめてイメージを膨らませる。
こっちの方に見えるのがたぶん薄曇り山だ。
薄曇り山の資産家当主殺人事件。
超楽勝のスピード解決を飾ったもはや伝説の事件。
昨日のことがまるで嘘のよう。
しかも特に何もすることなくただ常識の範囲で指示を送っただけ。
これくらい楽だと言うことないんだけど。ただ依頼料は当然もらえない。
それに探偵としてのレベルアップも望めない。
安全面を百パーセント考慮した上で猟奇的な難事件に当たれたらと願うばかり。
それにしても僕って本当に必要だったの? 役に立ったの?
先生の代理をした。うーん…… 自分の存在価値が見いだせない。
今回の事件は結局のところ先生たちの力を煩わすことなく終わった。
こんなのは僕一人で充分。
ただ逆に言えば本当に先生たちは必要だったのか?
別の事件に巻き込まれたみたいだけどやはり先生の必要性を感じないんだよな。
いつもこうだから。
難事件にぶち当たるならまだ来た意味も多少あるだろうが。
先生たちは運悪く閉じ込められたらしい。
助手として先生のサポートをと思うがうーん。
おっと真っ暗な景色を見ても仕方がない。
風呂にでも入るか。
現在。ドスグロ山。
三○四号室。
ふう…… ちっとも酔えねえな。
さすがにビール一本じゃ無理か。そうだよな。
頭をボーっとさせなくては素面ではとてもとても。精神を保ってられねえ。
ビールやカップ酒等の酒類も炭酸やお茶等のドリンク類も自販機で売られている。
多少のインフレ価格を我慢すれば天国に違いない。
飲み物は比較的手に入る。
だが食糧はそうもいかない。ほぼ尽きちまった。
くそなんで俺が! いや俺たちがこんなひどい目に!
美術商の爺がぶっ殺された時に欲をかかずに逃げておくんだった。
金に目が眩んで…… いや脅迫されてやらない訳には行かなかった。
依頼人の正体さえ知らない俺たちはやはり一度立ち止るべきだったな。
商売出来なくしてやるって脅しに屈したがただのハッタリだった可能性が高い。
だってよ俺たちに更生するかと迫っていた。だから無視しても問題なかったんだ。
だが俺たちには結局この商売しかなかった。それを奪われでもしたら死活問題。
だから仕方なくあの野郎に従ってのこのこバスツアーに参加。
ちくしょう! 何でこうなっちまったんだ!
俺の女までぶっ殺された。あの言い逃れる気満々の往生際の悪い鑑定士までも。
それにいつも自分勝手でチームの輪を乱す困った千田も始末された。
その上、俺を容疑者扱いだ。もうやってられない。
なぜ俺が仲間を殺さなければならない?
仲間割れか? 冗談。笑わせるな! それだったら突発的な犯行だろ?
これは間違いなく計画的に何ヶ月も前から練られたものだ。
俺がそんなまどろっこしい真似する訳ねえだろ?
もしそうなった時は遠慮なく沈めるさ。
何で無関係な奴らを巻き込んでサイコパスごっこしなければならない?
俺はただの詐欺師だ! もちろん詐欺はよくねえ。
だが世界をよく見てみろ。俺たちの比じゃない。
立件できないだけで幾らでも汚いことやってのける現代のチャラチャラした奴ら。
俺らの依頼人もそのタイプだと思ったがどうやら違うらしい。
続く




